SCENE 34: カラフルな、朝の食卓
DELHI, NOVEMBER 4, 2004

 ダイニングの端から端まで、ずらりと並んだ料理らを、
あれこれと食べるわけにはいかない。
なにしろインドの朝食ブッフェでは、コンチネンタルはもちろん、
各地方のインド料理に加え、中国料理が出されることもある。

体調を維持するためには、多ベ過ぎないことが大切。
だから主にはフルーツと、ペイストリー、あるいはポリッジなどを食す。

今日もまた、絞り立てのスイートライムジュース。
自家製のプレーンヨーグルト。
そして色とりどりのフルーツ。

プールサイドの景色を眺めながら、
丁寧に、ナイフとフォークで切りながら、
少し澄ましたような心持ちで、食べる。


部屋の窓から北へ向かって見下ろすデリーの中心部。スモッグのせいで視界が霞んでいるけれど、この周辺には緑が多い。左側(西側)に見えているのは国会議事堂。

部屋の窓から見下ろす、これは東側の風景。右端に見えているのはインド門。このホテルがあるエリア一帯は各国大使館も点在しており、比較的整然としている。

ホテルのラウンジから見下ろす南側の風景。ホテルのプールが見える。遠くは霞んでいてよく見えない。

客室はとても清潔で快適。ハウスキーピングもきめ濃やか。

ラウンジに飾られていた、ディワリの際の贈答用の菓子類。

まるでカーペットのような、陶製の壁面。


11月4日(木)

■夫はカンファレンスへ。妻はお茶を買いに行く

ニューデリー滞在中、夫は2日間に亘り、タージ・パレス・ホテルで開催されるカンファレンスに参加する。"The India Conference: Welcoming the World" と題されたカンファレンスで、主催はユーロ・マネーという英国系の銀行、ステイトバンク・グループ、HSBC、協賛はGEコマーシャル・ファイナンスやカナダ・バンクなど、金融関係である。

極めて簡潔に表現すると、「昨今、目覚ましい発展を遂げつつあるインド経済に、ぜひとも投資しませんか」というのが会の主旨である。国内外から大勢の参加者(夫曰く700人程度)を募り、政治家を含めた、インド経済の鍵を握っている人物らによるスピーチなどが行われるらしい。

わたしも出席したいくらいだが、そういうわけにもいかないので、快適なホテルライフを満喫することとする。

と、その前に、今日中にニューデリーでの必要なショッピングをすませておきたい。それはお茶の購入。これまで何度か書いてきた、インド来訪のたびに訪れているスンダーナガールマーケットにあるREGALIAというティーハウスへ行くのである。この店は、海外輸出用の品質が高いお茶を販売しているのだ。

毎回、あれこれと飲み比べつつ品定めをしていたが、今回は欲しいお茶が決まっている。ダージリンのセカンドフラッシュと、セカンドフラッシュの中でも更に質の高いオーガニックのマスカテル。今回は第三者へのお土産はなく、自宅用と、日本の家族向けのみだ。

店に入って驚いた。欧米系の旅行者が、狭い店内に4、5組、ひしめき合いながらお茶を選んでいたのだ。今まではいつもがらんとしていたのに。わたしたちが1時間ほどもお茶の「テイスティング」で居座った時も、お客はほとんど来なかったのに。

と、奥から店のお姉さんが出てきた。彼女はわたしのことを覚えていて(覚えられて当然か)、あらまあ、おひさしぶり、お元気? とにこやかだ。

「すごい盛況ね! 広告でも出したの?」とわたしが問うと、

「ううん。口コミなのよ。最近になって急に増えてきて、ビジネスは順調よ」とにこやかだ。

インドの「本当においしい紅茶」は、高級ホテルでさえも口にすることができない場合が多い。街角に気取ったティーハウスがあるわけでもなく、だから、ミルクをたっぷり入れて飲むマサラティーやチャイが一般的だ。

高品質のお茶の多くは、英国をはじめとする欧州の高級ブランドに、茶園から直接買い取られる。それらの茶葉は美しいパッケージに詰められ、世界の市場に出回るのだ。

この店の商品もだから、パッケージには「輸出用品質」とわざわざ但書きがされている。なにはともあれ、ローカルの店が繁昌するのはいいことだ。

「また来るわね!」と言って店を出た。

 

■やはり、謎は多い。インドの人々の在り方。

ランチはホテルのダイニングで。軽めにすませようとアラカルトメニューを開く。と、朝食時に顔を合わせたマネージャーがやってくる。

「マダム。ブッフェはいかがですか? すばらしい料理がそろっていますよ」

「ありがとう。でも、ランチは軽くすませたいので、サンドイッチにしておきます」

「マダム。飲み物はいかがですか?」

「食後にコーヒーをいただくので、それで結構です」

と、ほどなくして、今度はやはり朝食時に顔を合わせたシェフがやってきた。

「マダム。ブッフェはいかがですか? すばらしい料理がそろっていますよ」

以下、同様の会話が続く。みんなやたらとブッフェを勧める。そしてみんな、やたらとフレンドリーである。わたしがサンドイッチを食べていると、マネージャーがジュースを持ってやってくる。

「マダム。よろしければこのライムソーダをお試しください。おいしいですよ」

ひと口、飲んでみる。安っぽい、炭酸水のジュース。朝のスイートライムジュースの方がよほどおいしい。なぜこの「人口甘味的」な味をわざわざ勧めるのか。米国的、だからか。これを本気でおいしいと思っているのか。謎めいているところがまたインドである。


←ティーハウスで売られていたサフラン。かわいらしいパッケージに入っている。これでバレンシア風パエーリャでも作ろうと思う。→毎度おなじみのダージリンティー。時間をかけてゆっくりと出し、香りととともに味わう。


BACK NEXT