SCENE 40: そして3年ぶりのタージ・マハル
AGRA, NOVEMBER 6, 2004

人々でごったがえす門の前。
長い列に並び、セキュリティチェックを経て、ようやく中へ。

ひしめき合い、ざわめき合う人々の息吹とは対照的に、
まるで絵画のような静謐さを漂わせるタージ・マハル。

17世紀。ムガル帝国の皇帝シャー・ジャハーンが、
愛する妻、ムムターズ・マハルの死を悼み、建立した霊廟。

ヴィンの要請によりあっちこっちで記念撮影をする我々。これはタージ・マハルの内部の正門。建物のすべてがシンメトリー(左右対称)になっている

タージ・マハルを眺めながら、日が暮れるまでレクチャーを聞く我々。というか3人。わたしはホテルでくつろぎたいばかりだ


■遅いランチを食べたあと、夕暮れのタージ・マハルへ

ホテルでわたしたちを出迎えてくれたツアーガイドは、ヴィンとなじみがあるらしい美しいインド人女性だった。彼女が今日、明日と、我々のアグラ観光に付き添ってくれる予定だったのだが、急に来訪した貴賓を案内するため、のちほど男性ガイドとバトンタッチする、とのことだった。

わたしたちはひとまず、遅めのランチをすませようとホテルのダイニングへ行く。

「軽くサンドイッチでも」などと言っていたのだが、結局はビールで乾杯し、ヴィンは気合いの入ったカレー料理を注文。わたしたちもチキンティッカ入りのロールをオーダーする。一方のトムは、休憩所でも、ここでもオーダーするのは「ダイエットコーク」。ビールは飲まない。

「お腹を壊さないよう、極力気を付けているんだ」ということで、ランチもビリヤニ(炊き込みご飯)をほんの少し、口にするだけだ。旅の序章より「おいしいから」と食べ過ぎている我が夫とは、心がけが大違いである。

この日以降も、彼は常時「ダイエットコーク」を飲んでいた。さすがアメリカ人だ。

短時間ですませるはずのランチタイムも、延々とおしゃべりが続き、結局は1時間以上もダイニングで過ごした。そしてようやくの、観光である。

ロビーで、さきほどの女性ガイドが老夫婦と話をしている姿が見えた。貴賓とは彼らのことだろうか、と見たら、英国のメジャー前首相とその妻だった。言われなければ気づかないほど、何のオーラも発していない、地味な感じの二人だった。大きなお世話だが。彼らもこれから、夕暮れのタージ・マハルを見に行くらしい。

 

■本日は、遠目に眺めて、あとは講習会

「タージ・マハルを撮影するために、新しいカメラを買ったんだ。2週間前に発売されたばかりなんだよ。800万画素だから、大きなプリントもできるんだよ」

うれしそうにそう言いながらヴィンが見せてくれたのは、出発の前日に買ったというキャノンの一眼レフのデジタルカメラだった。メモリーチップも1ギガ分を装填しているらしい。

「でも、使い方がよくわからないんだよ。ちょっと勉強しなきゃ」

と、説明書をポケットに携えている。タージ・マハルを訪れたことのない妻に、いい写真を撮って見せたいらしい。

わたしたちは、ホテルから電動のカートに乗り換えて(タージ・マハルの周辺は公害対策のため500メートル半径の自動車乗り入れが禁じられている)、タージ・マハルの入り口まで向かう。

前回訪れた時には蒸し暑い上に小雨模様で、湿度猛烈、不快指数抜群の最悪な気候だったが、今回は非常に快適で、雲泥の差とはまさにこのことである。だいたい、あのときは、写真を撮る気力さえもほとんど残されていなかった。

さて、女性ガイドの代わりに登場したのはぼってりと体格のいい、アグラでのガイド歴10年だという知的な青年だ。彼いわく、夕方のタージ・マハルは猛烈に込み合うので、今日は遠めに眺めるだけにして、明朝、誰もいない時刻、つまり夜明けごろに来て、内部を見学しましょうとのこと。

ホテルの前に6時集合だという。ってことは5時起床? あんなにいいホテルに泊まっているのに、5時起床で外出? いやいやいやだ〜! 観光はいいから、わたしはプールサイドでくつろいでいたい!!! と思うが、そういうわけにも、いかんよね〜。内心、深くうなだれる。

それにしても、トムは大丈夫なのか。そんな無茶なスケジュールで。でも、彼は平気そうである。

さて、我々は入り口周辺の石段に腰掛けて、青年ガイドによるタージ・マハルの歴史や建築に関するレクチャーを受けることとなった。男性ら3人は、積極的に質問を繰り返しつつ、細かな話を念入りに聞いている。3人の好奇心と根気強さに脱帽である。

わたしはと言えば、最初の10分くらいは真剣に聞いていたが、そのうち、ドライブでくたびれたな〜、歩きたいな〜、ホテルでゴロゴロしたいな〜、と邪念がよぎり、集中していられなくなる。

結局、レクチャーは1時間も続いた。長過ぎると思うのだが、彼らは「いい話だった」と楽しんでいた。ビジネスマンらは根気強いなあと、つくづく感心する。

非常に科学的かつ綿密な測量と、当時としては「神憑かり」的な技術により建立されたタージ・マハル。基礎部分は建物の高さと同様の深さの「木、及びコンクリート」によって造られており、マグニチュード8の地震にも耐えられるという。万一の地震の際には、周囲の柱が内側ではなく外側に倒壊するよう設計されているとか。

ガイドによると、タージ・マハルは昨今、傾きはじめているという。原因はタージ・マハルの背後に流れるヤムナ河の水量の減少らしい。詳しいことはよくわからないが、建物の基礎の木の部分は、川の水の含有量によってバランスを保っているとかなんとか。川の水が減ることによってバランスが崩れはじめているらしい。

(と、このことを書いている本日、ものすごくタイムリーな記事を発見! こちらをご覧あれ)

タージ・マハルは、いつか倒れてしまうのだろうか?


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