SCENE 49: 目を見張る。ホテルの随所で
BANGALORE, NOVEMBER 9, 2004

夕べは全てが白百合だった。
今朝、白いグラジオラスに変わっていた。
圧倒的なボリュームの、フラワーアレンジメント。


11月9日(火)

■宮殿ホテルの光と影

一見、豪華絢爛なホテルだけれど、部屋もそれなりに快適だけれど、端々が突貫工事のホテルだということは、一晩過ごしてみるとわかる。

バスルームの排水の悪さとか、蛇口の扱いづらさとか、細々とした不完全さが目に付く。けれど一方で、「本格的な豪華さ」も確かに感じられるから、そのちぐはぐさに困惑させられる。

わたしは、社会人になってからというもの、取材や休暇で、高級ホテルから格安の宿まで、無数の宿に泊まってきた。そのさまざまな経験を回想し、総括してみるに、自分にとって真に快適なホテルというのがどういうものなのかが、ここに来てとても具体的にイメージできるようになった。

客室ひとつにしても、部屋の清潔度やベッドの質などは当然考慮される筆頭として、例えば机やテーブルの配置やサイズ、クローゼットの形、引き出しの奥行きと深さ、本棚の有無、アウトレット(コンセント)の数や位置、照明の場所、バスルームのレイアウト、洗面台の広さ……と、それぞれのちょっとした違いが、快適かそうでないかに影響する。

更には、カーテンやベッドリネンのデザインや壁に掛けられた絵画の趣味、そして窓からの風景など……。

一見、どのホテルもありがちなフォーマットに従った構造で、大差ないように見える部分が、しかしちょっとした工夫や心遣いによって、滞在の快適さを大きく左右するのだ。お金がかかっていて豪華であればそれでいい、ということでは決してない。当たり前だけれど。

わずか一晩の滞在でも、いい意味で心に残る宿、印象にさえ残らない宿、忌々しくて忘れられない宿……と、経験の中に刷り込まれていく。それは10年たっても、20年たっても、普遍の記憶だ。

朝、夫を見送った後、バスタブにシャワージェルを入れて湯を張り、洗濯物を放り込み、それらを足で踏み踏み、洗濯をしながら、そんなことに思いを巡らすのであった。

ちなみに、ホテルで洗濯した衣類を素早く乾かす方法とは? 

それはタオルドライが一番だ。洗濯物を生地が傷まない程度に絞ったあと、広げたバスタオルの上に均等に広げ、タオルをくるくるくるっと、巻きずし、あるいはロールケーキのように巻く。その巻きずしをまたしても、足でしばらく踏み踏みして、衣類の水分をタオルに吸収させる。

あとは持参の物干し紐やハンガーなどに衣類を干すだけ。ただ絞るだけに比べると、驚くほど早く乾く。お試しあれ。

 

■ホテルで過ごす、静かな午後。

ホテルは空港と中心地の間という中途半端な位置にあり、外を散策するには不適なロケーションだ。ホテルのダイニングでブッフェのランチをすませた後、ホテルに併設するショッピングモールに行く。

高級ショッピングモールと銘打ったそのモールには、ファッションブティックやカフェ、ギフトショップなどが並んでいるものの、平日のせいか人通りはほとんどない。さらっと歩いた後は部屋に戻り、コンピュータに向かう。

写真の整理をしたり、文章を書き連ねたりしているうちにも夕方。夫が一旦部屋に戻ってきて、またディナーミーティングへと出かけていった。

わたしはルームサービスを頼み、フランクフルト空港で買ってきていたワインを開け、ひとり静かな夕食をとる。


BACK NEXT