MARCH 31, 2004 心のまま

4050gで生まれた。縦横大きかった。よく男の子と間違えられた。大人のひとから「タイカクノイイお嬢さんですね」と、判を押したように言われた。「可愛い」に相当する褒め言葉だと思っていた。「体格がいい」という言葉の意味を知ったとき、少し傷ついた。廊下のまん中を、風を切って歩いていた。体育会系だった。大学祭では「ミス・パワフル」に選ばれた。「お前んこと、友達としか、思えんったい。」同じ台詞で何度か振られた。声がでかい。態度がでかい。ときにうるさい。つるむのが苦手。一人いても平気。そんなわたしだが、ふわふわしたもの、はかなげなもの、優美なもの、凛としたものが、好きだった。自分には似つかわしくない感性だと思っていたが、そんなことなかったと、大人になった今、思う。外見と内面のバランスなんて、人それぞれだ。第一、この国には、わたしよりも体格がよくて態度がでかい人がごまんといる。わたしなんて、キュートな部類だ。

ああ。寒さに震えて羽を膨らます、まるで小鳥のようなチューリップの、なんてかわいいことだろう!!!

 

MARCH 30, 2004 どの花みても

きれいだな。

 

MARCH 29, 2004 贅沢

桜咲くところでは、咲いている間は、桜を思わずにはいられない、桜の威力。

早めに帰宅した夫と、ビショップガーデンを散歩する。わたしたち以外、誰もいない、今日は静かな庭。
昨日は初夏のようだったのに、今日はコートを着ずにはいられない寒さだ。けれど空はきれい。
庭そのものは、まだ春の花がなく、すこしばかりの
ヒヤシンスやパンジー。チューリップにはまだ早い。
八重桜も咲いていた。そして、わたしたちの大好きな、大きなしだれ桜が、もうこんなに花開いていた。
しばらくの間、ベンチに腰掛けて、鳥のさえずりに耳を澄ます。
昨日、タイダルベイスンを、白い杖をついて歩いていた人たちのことを思い出して、目を閉じる。
そして桜を、音と、匂いと、風とで、感じてみる。
こんなに美しい桜の下に、わたしたち二人しかいないなんて。なんて静かで、なんて贅沢な花見だろう。

 

MARCH 28, 2004 小畑さんへ

今年も一緒に桜を見に行って、それから温泉に行こうねと約束していたけれど、もうは開いたよ。今日はまだ7部咲きだったから、あなたと見た去年の桜の方が、ずっと満開できれいだった。でも、は今日の方が澄み渡っていたかな。たまたま桜祭りのオープニングで、灯籠に灯をともすセレモニーがあって、加藤大使が演説してたよ。それがまた言わずもがなでさ〜。あなたと一緒に、辛辣な言葉を吐きたかったわ〜。今日は風が強くて髪が逆立ってるけど、記念撮影してきたから。去年と同じルートでタイダルベイスンを半周したよ。去年はあのあと、ジョージタウンでタイ料理、食べたんだよね。今日はアルヴィンドが寿司が食べたいっていうから、日本食レストランに行ったよ。しかし、あのときは、あなたもわたしも、よく食べたね〜。温泉宿の朝食をたっぷり食べたあとに、DCに戻ってきて、シーフードのブッフェランチだもん。デザートまで食べたし。もう、あなたがこのページを見られないのはわかってるけど、あなたが夢の中で見られるように、祈りつつ、いつものごとく「気」を送るわよ。そういえば、わたしが「気を送る」と言ったら、よくあなたのコンピュータの調子が悪くなったって言ってたわよね〜。やっぱりわたしのせいだったのかしらん。悪かったわね、送り方が下手で。今度はちゃんと、あなたに直接、届くように送るから。わたしが今日見たきれいな風景を、あなたにプレゼントします。

 

MARCH 27, 2004 花のある場所で

午後遅くから、雲が晴れ始めた土曜日。ジャケットさえも要らないような柔らかい風。
我が家の前の木蓮(Magnolia)が、
そこここも満開だ。
夫と二人で、ウィスコンシン・アヴェニューを下り、ジョージタウンへ行った。
ホテルの前に、レストランの前に、誰かの庭に、静かな歩道に咲く。スイセンが笑い、街灯が灯る。
バラの花が開くころまでの、これからしばらくは、この町が一番、華やぐ季節だ。
一日一日が、とても大切。だから明日は、まだ満開には少し早いけれど、タイダルベイスンへ行こうと思う。

映画を観て、C&O運河沿いを散歩。半月が、雲間から見え隠れしている。
桜の庭がある小さなカフェで夕食。料理よりも、今日は花を愛でる日。甘すぎるワインもまたおかし。

 

MARCH 26, 2004 日本を思う春。

暖かな午後。しばらく日本に帰っていた友人とランチ。お気に入りのピッツェリア、2AMYSに行く。
オリーブオイルにバルサミコ、ガーリックに鷹の爪が利いたラピーニの前菜。コップに注がれる白ワイン。
香ばしく焼けたピザ。マルガリータとサンタ・ブルギアータ。食後のカフェラテ。

気持ちのいい春風のなか、カテドラルを散歩し、ビショップガーデンの芝生で、日本の旅のことを聞く。
彼女のふるさと、京都の伏見にできたというスーパー銭湯の話に心奪われ。あぁ行ってみたいスーパー銭湯。
家に戻り、彼女のお土産の豆大福を開ける。すべすべ、ふわふわ、なんて気持ちいい手触りなんだろう。
和菓子って、本当に穏やか〜な味がするな〜と浸りながら、ひと口、ふた口。
彼女が日本で見つけたという、きれいな桜の便せんを、少しずつもらったりして。
「ぼく、アズキは好きじゃないんだ」と言っていた癖に、おいしいと言いつつ頬張る夫。食べなくていいのに。

 

MARCH 25, 2004 ガーリック!

丸ごとのガーリックを、頭の方だけ切りそろえる。
アルミホイルに載せ、オリーブオイルをかけ、ホイルをしっかりと閉じてオーブンで焼く。
そしてできあがる、ほくほくローストガーリック。
ほぐして、1かけずつを皿に絞り出し、ナイフで潰し、オリーブオイルをかけて、パンに付けて食べる。
これが本当に、素朴でおいしい。
炒めたり、焼いたりするガーリックよりも、たっぷり食べてしまうわりに、あまり匂いがしない。
と思っているのは自分たちだけかも知れないので、平日は食べるのをよした方がいいのかもしれない。
今日はブイヤベースとこのガーリック。ブイヤベースとの相性も、抜群。
ちなみに、ロースト・ガーリックのための
ベイカーも売っている。仕上がりが、違うかしら。


こんな風に、日々の欠片を、この「片隅の風景」に記録し始めてから、ちょうど一年が過ぎました。

  

MARCH 24, 2004 

万延元年。1860年。羽織袴にちょんまげ姿、刀をさして歩く日本人らが、ワシントンDCを訪れた。
彼ら--勝海舟や福沢諭吉らが率いる使節団--77名が泊まったのがウィラードホテル。
今日そのウィーラードホテルで、メディア向けに桜祭りを祝う催しがあるというので、出かけた。
小さな
日本庭園が施され、傍らで日本人形制作のデモンストレーション、酒を使ったカクテルの試飲など。
そのあと、友人に連れられて、イタリアンのランチ。久しぶりにニョッキを食べた。おいしかった。
いい気分で外にでる。風が気持ちいい。このまま帰るには惜しいほどのいいお天気。
だからその足で、お気に入りの美術館「ナショナル・ギャラリー・オブ・アート」へ行った。
好きな絵を見て、パティオでくつろいで、ミュージアムショップで本を開いて、そうして外にでたら、
ちょうどその美術館のそばにあった桜の木々だけが、一足先に満開だった。
ああ、ようやく、本当に、春だなあ。来週あたりは、タイダルベイスンの桜も満開だろう。
その数日後には、我が家の周辺も、桜、桜、桜でいっぱいに、包まれることだろう。うれしい。

 

MARCH 23, 2004 懐かしい店

マンハッタンにいたころは、本当に外食が多かった。デリバリーも多かった。
よくお世話になった店の一つ、マレーシア料理の店、「ペナン」。
その支店がワシントンDCにもできていたので、行ってみた。
あのころ、よく食べていたメニューを、オーダーした。
久しぶりに口にする料理。飽きるほど食べていた懐かしのメニュー。

二人で暮らし始めてからは、週末以外、たいてい家庭料理を食べるようになって、
だから外食の味付けが、とても濃く、重たく感じる。
それでも、この懐かしい店は、マンハッタンの思い出を二人の心に次々と浮かび上がらせ、
まだ3年、4年前のことさえも、遠い日。

 

MARCH 22, 2004 東西南北の人

思えばマンハッタンにいたときも、東に面した部屋に住んでいた。
摩天楼に反射するオレンジ色の夕日が美しいときは、仕事の手を休めて、屋上へ上った。

そしてワシントンDCにいる今も、東に面した部屋に住んでいる。
平坦な街の、しかし窓辺に反射する夕日がキラキラと合図をするとき、仕事の手を休めて、屋上へ上る。

360度、まっさらな大地。冷たい春の風が吹きすさぶ、吹きすさぶ。この空には、次々と、飛行機が飛ぶ。

わたしはまたも、東西南北の人になろう。

MARCH 21, 2004 5000年を超えて

5000年前のインドと、現在の米国。
取り巻く環境は、まるでなにもかも、違うはずだけれど、
人間そのものの存在感は、あまり変わっていないのだと思う。
だからこそ、ページを開くごとに、思うのだ。
「ああ、確かにそうだな」とか「これはいい考えだ」とか「これは今日から試してみよう」とか。
最近は、心と身体の健康について、考えなければならない出来事が多い。
できるだけシンプルに、と思ったときに、いにしえの、賢人らの声が聞こえてきた。


※「天竺館」にアーユルヴェーダの項を設けました。

  

MARCH 20, 2004 たとえ

青空の土曜日。
通称エンバシー・ロウ(大使館通り)を散歩しながら、デュポン・サークルへ行った。
両脇に、世界各国の大使館が、美しく立ち並ぶあたり。
桜よりも一足先に、通りに色を添えているのは木蓮。春一番の樹の花。
我が家の前のそれは、まだつぼみがほころび始めたところ。
坂を下るに連れて、だんだんと開花していく。
ザンビア大使館前の木蓮が、今日は、一番きれいだった。

毎年、同じように。
たとえ人の世に何が起こっても、花は、咲く。たとえわたしに何が起こっても、花は、咲く。

 

MARCH 19, 2004 まもなく緑

近所にある雑木林。
秋に葉を落として以来、ずっと冬枯れの裸の木々。
幹や梢を透かして、遠く向こうまで見える。

けれど、あと1カ月もすれば、枝という枝から、一斉に新芽が吹き出すだろう。
新芽はみるみるうちにのびて、葉となり、梢を覆い尽くし、清浄な空気をほとばしらせるだろう。

生い茂る葉に遮られ、遠くまで見えなくなり、けれど深さを偲ばせる、そこは鬱蒼の森となる。

 

MARCH 18, 2004 プチ・エクレアシュー

そんなにいつも甘い物を食べるわけではないけれど、夫はエクレアに、常時、恋いこがれている。
近所のペイストリーショップでたまに買うエクレアは、カカオやモカクリームしかなくて、甘みがかなり強い。
日本の洋菓子屋にあるような、カスタードクリームと生クリームのエクレアを、わたしも食べたくなった。
だから自分で作ってみようと思い立った。けれど、どこにしまったのか、絞り袋と口金が見つからない。
仕方なく、端を切ったビニール袋にシュー生地を詰め、細長いのや、丸いのを、天板に絞り出すけど変な形。
シュー皮をオーブンで焼く間、カスタードクリームを作り、チョコを溶かし、生クリームを泡立てる。
チョコを付け、カスタードと生クリームを入れ、蓋をする。小さなお菓子がたくさんできあがった。
プチ・エクレアシューと名付ける。さっそく、熱い紅茶を煎れて、味見をする。
新鮮な卵やミルク、生クリームを使ったそれらは、不格好だけど、とてもやさしくて、懐かしい味がした。
量を減らしたはずなのに、たくさん焼き上がってしまい、こんなには食べきれない。どうしよう。
帰宅した夫に見せると、目を輝かせた。食後、紅茶を飲みながら、小さいからと、彼は3つも食べた。
そういうわたしも、夜で2つめ。たぶん、あと2、3日で、全部なくなってしまうだろう。

 

MARCH 17, 2004 カムサ(感謝)

エリザベス・アーデンのレッドドアとか、リッツカールトンのカリタのサロンとか、
最近はちょっと気取ったスパにばかり行っていたけれど、友人に教えられた、コリアン・スパに行ってきた。
マンハッタンのコリアタウンでやったことのあった「あかすり」を、久しぶりに受ける。
ラグジュリアスのかけらもない、公衆浴場のような広い部屋には、素っ気ないビニール張りのベッドが二つ。
最初にスチームサウナで肌をほぐし、それから俎上の魚のように、一糸纏わずベッドに横たわる。
英語が話せないお姉さん。わたしは韓国人ではないと言っているのに、ずーっと韓国語で話しかけてくる。
返事をせずにいると、「イルボン?」と聞かれた。そう。わたしはイルボン(日本人)なのよ。
ゴシゴシ、ゴシゴシ、磨かれたあと、顔にはキュウリのスライスパック、身体はミルクオイルでマッサージ。
擦られ、捏ねられ、まるで食材のようだ。そのあとは、フェイシャルにマニキュア、ペディキュアのコース。
冬の乾燥した空気で、少し荒れがちだった肌が、すべすべなめらかになって、とても気持ちがいい。
「カムサ・ハムニダ〜」と言って、帰ってきた。今度から、ときどき行こうと思う。

 

MARCH 16, 2004 インド

しとしとと、雨の降る日。心が鎮めたい午後、久しぶりにお香を焚く。
2年前、母が来たときに持ってきてくれた、九谷焼の香炉と、数箱のお香。
「白檀」とある上品な箱を開くと、小さな紙片。

白檀:仏様に多く使われております清浄なる香木
インド産の老山白檀の粉末だけを調合してつくり上げました。染料・化学香料、添加物は一切しようしておりません。純粋な自然の白檀のかおりのお香でございます。やわらかな、少し甘みのある香りが皆様方の心をやすらぎへとお誘いできれば幸いでございます。

その紙片を読んだだけで、すでに心が安らぐようだった。

 

MARCH 15, 2004 花の樹

月曜の午前中は、掃除洗濯。アメリカでは洗濯物を外に干さないから、雨でも曇りでもいいのだけれど、
晴れているほうが、ずっと気持ちいい。畳んだシーツや衣類をベッドの上に並べ、窓を開けて風にさらす。
午後、ノートや資料をバックパックに詰め込み、カテドラル・アヴェニューを歩いて、近所のカフェへ行った。
通りの至る所で、春の兆し。桜の木に小さな緑の芽。ポツポツとスイセンの黄色。球根の新芽など。
木蓮が一番乗りで、枝に薄桃色をまとっている。あと2週間もすると満開になるだろう。
カフェテラスでコーヒーを飲みながら、原稿を読む。カップが冷え切って、西日がテーブルを照らすころまで。
ペイストリーショップで、朝食のためのパンと、最後に一つ残っていたエクレアを買い、家路に就く。

夜。ほんのりと洗剤が香る、パリッとしたシーツとブランケットの間に滑り込む瞬間の気持ちよさ。

 

MARCH 14, 2004 有り難きミルク粥

こうしてカメラに収めると、ちっともおいしそうに見えないのが気の毒なミルク粥。
インドのマルハン家で、料理人のケサールが作ってくれたミルク粥は、疲労した身体に染み入るようだった。
だからその、オーガニックの「全粒小麦」を、一袋、もらってきていたのだった。
鍋にミルクを入れ、全粒小麦をササーッと入れて、弱火でゆっくり30分ほど煮込む。
最後にレーズンをいれ、ほんの少しはちみつをかけて、木のスプーンで食べる。
今から約2500年前、ゴーダマ・シッダールタは、北インドのボードガヤで、長い修業をしていた。
苦行ののち、疲弊しきっていたシッダールタは、菩提樹によりかかり、朦朧としていた。
そんな彼に、スジャータという村娘が「ミルク粥」を差し出した。
そのミルク粥のおかげで、シッダールタは生気を取り戻し、その後、悟りを開いたという。
なんだかとても、ありがた〜い気持ちになる、ミルク粥は、朝ご飯なのである。

 

MARCH 13, 2004 幸せブランチ

青空の朝。土曜の朝。ヨガをしたあと、雑誌を読みながらゆっくりと半身浴をして、ブランチの準備をする。
大きく開けた窓からは、涼やかな風が吹き込んで、ただそれだけで、心が緩み、心が弾む。
バナナとヨーグルトとミルクでスムージーを作る。
ファットフリーでも、ローファットでもない、プレーンヨーグルトがいい。
上に載った濃厚なクリームも一緒に、ジューサーに入れる。
そして、久しぶりにフレンチトーストを焼く。卵とミルクとバターの甘い香りが、部屋に満ちる。
「Spring Mix」と記されたサラダ菜と、アレギュラの葉を一緒に洗い、チェリートマトを散らす。
ドレッシングをかけるまえ、笊に揚げたそのサラダの、ありふれたサラダの、なんて春風に似合うこと。
ハチミツやシナモン、ストロベリージャム、アプリコットマーマレードジャム。
あれこれと、少しずつ、フレンチトーストにつけて食べる。春風に吹かれながら食べる。

 

MARCH 12, 2004 花の香りに包まれて

夫と散歩をしてたとき見つけた。こんな大きなフラワーショップがあることを、丸二年、気づかずにいた。
店に入った途端、花々の、甘酸っぱい香りに包まれて、身体全体の細胞が、ふわ〜っと緩んでいくようだった。
「昨日、夜遅くまでかかって、オーキッドの飾り付けをしたのよ」
わたしが写真を撮らせてもらっていると、店の人が誇らしげに言う。色とりどりの、
蘭の花ら。
広々とした冷蔵室に入ると、そこは
バラとチューリップの世界。
花の香りが一段と凝縮されて、最高のアロマセラピー。
わたしの好きな色をした
バラや、好きな色をしたチューリップもあって、本当にきれい。

たとえばこういう店の一画に、ティーハウスなどがあったなら、毎日のように通うのに。
花を香りに包まれて、おいしい紅茶を飲みながら、静かに読書をするなんて、とても気分がいいと思う。

 

MARCH 11, 2004 違う。

近所のスーパーマーケットに売られていたポメロという柑橘系のフルーツ。
とても大きい割に、皮が厚くて、実は少なめの、ボンタンと同じようなフルーツ。
よく見ると、「柚」と漢字で書かれたシールが貼られている。

ここ数年、YUZUは、アメリカの、たとえば少し洗練されたアジア料理の店やコンテンポラリー料理の店の、
メニューに登場するようになった。柚入りのポン酢をサラダのドレッシングにしたようなメニューや、
皮を甘く煮込んで、マーマレードのようにしてデザートに添えたものなど。

でも、これは、どこからどう見ても、柚ではないのだけれど。

 

MARCH 10, 2004 いつも

たとえ下界が、雨だろうと、嵐だろうと、吹雪だろうと、竜巻だろうと、

まるでお構いなく、いつもここは青空。

眩い光の渦。

 

MARCH 9, 2004 マックスたちの家に行く。

今夜は夫の大学時代の友人マックスと、その妻カラの家に招かれていた。夕方、夫がどうしてもMITのアイスクリームを食べたいというので、冷風が吹きすさぶハーバード・ブリッジを越え、MITのキャンパスにあるカフェに行ったけれど、店はクレープ専門店に変わっていて、今日はアイスクリームがなかった。意気消沈した夫だったが、ハーバードスクエアで、別のおいしいアイスクリーム屋を見つけ、脇目もふらず店に入る。いつものごとく、まるで重大な決定を下すかのような顔をして数種類を味見し、フレンチバニラとコーヒー・ピーカンを1スクープずつ選ぶ。おいしかったけど寒い。タクシーで彼らの家へ行く。科学者カラは研究室での作業が長引いているらしく、マックスが夕食の準備をしていた。我々は持参のスパークリングワインを開ける。イタリア人のマックスは「イギリス人のイタリアンレシピを使うのは癪なんだけど……」といいながら、ジェレミー・オリバーの本を見ながらアーティチョークとセロリのアペタイザー、スパゲッティ・カルボナーラを作っている。冷蔵庫からチーズをドサドサと取り出し、パンを手荒く切り、「食べてて」とマックス。なんだかピクニックみたい。アシアゴチーズが特においしい。やがてカラも帰宅し、皆でテーブルを囲む。二人の新婚旅行先はアイルランド。自転車で800マイル、走ったらしい。マックスの最長記録はイタリアからアルプスを越え、北欧に至る5000マイル。いつかイタリアからインドまで走るのが夢らしい。そんな話をしつつ。こっそりと、ネコも聞き耳たてている。

 

MARCH 8, 2004 冬の日

特別な静けさを感じて、カーテンを開いたら、雪が降っていた。毎度、悪天候を呼ぶ我々。夫がカンファレンスに出かけた後、雑誌を読みながら半身浴をする。新聞も雑誌も、マーサ・スチュワートの記事ばかり。本当におかしな裁判だ。ソープオペラみたいな事件。広い出窓にクッションを置いて、フルーツを食べながら、またしばらく新聞を読んで、それからコンピュータに向かって記事を書く。やがてランチタイムになり、夫から電話。雪の中、カンファレンス会場のホテルまで歩き、リーガル・シーフードでランチ。クラムチャウダーなど。夫は聞いてきたばかりの「ナノテクノロジー」について、自分の頭を整理するかのように、しゃべり続ける。彼が会場に戻った後も、わたしはエスプレッソを飲みながら、眺めのよいその席で、しばらく翻訳をする。それからショッピングモールを歩き、ホテルに戻り、また翻訳をして、ベッドにごろんとするうちにも夕暮れ。東南アジア料理店で夕食。モヤシやキュウリ、厚揚げにピーナッツソースがかかったガドガドがおいしかった。雪が舞い降る帰り道。「ねえ、ミホ。この橋を渡ったらすぐだから、MITまで散歩しようよ。キャンパスに、おいし〜いアイスクリームショップがあるんだよ!」アイスクリームのために、母校へ行きたいのか。夫よ。しかも、こんな寒い夜に。却下して、ホテルに戻る。心地よいベッドで眠る夜。夢の中に、なぜか松井秀喜選手が出てきて、愛を告白される。とても鮮明な映像。わたしは、夫と彼のどちらを選ぶか悩んでいた。我ながら、いい加減にしろ、と思う。

 

MARCH 7, 2004 ボストンに来ています。

朝DCを発ち、午前中のうちにボストンに着いた。欧州風のブティックホテル、THE ELIOT HOTEL
全室がスイートで、
ベッドルームもリビングもゆったりとしているのがいい。大きな机があるのもうれしい。
ブランチを食べようと外に出る。ブティックやレストランが立ち並ぶニューベリー・ストリートは目の前。
カフェテラスのあるすてきなビストロSONSIEと言う名のその店で、カフェラテを飲みながら通りを眺める。
アカデミックでリベラル。若者の多い街、ボストン。道行く人を眺めているだけでも、心の通気性がよくなる。
ソール・フィッシュ(ヒラメ)のフライの
ラップと、ピザと、どちらもとてもおいしくて、うれしい。
青空が気持ちいい午後。
ニューベリー・ストリートを散策した後、メトロに乗って、大好きなミュージアムへ。
THE ISABELLA GARDNER MUSEUM。ここは本当にすばらしい場所。夫にも見せたいと思っていた。
所蔵品だけでなく、建物そのもの、中庭がすばらしい。いつまでも、ぼんやりとしていたい場所。
明日はホテルの部屋でゆっくりと、本を読んだり、書き物をしたりしようと思う。

 

MARCH 6, 2004 春サンド

午前中はどんよりとしていたのに、午後からみるみる晴れ間が広がり、雲と空が本当にきれい。
窓を大きく開けたままでいられることが、本当にうれしい。

ヨガをして、シャワーを浴びて、すっきりとした気分で、ブランチを用意する。
バケットを半分に切り、軽くオリーブオイルを振りかけて、トースターで焼く。
こんがり焼けたバケットに、プロシュートと、夕べの残りのポテト&ニンジンサラダを挟む。
それから、ほどよく冷たい、バナナとイチゴに、たっぷりのヨーグルトを入れたスムージー。
風の吹き込む窓辺のテーブルで、春の空を眺めながら、パラパラと、パンくずを飛び散らしながら、
うっとりするような、春のサンドイッチ。

夕方の空に虹。

 

MARCH 5, 2004 春の匂い

最近はずいぶんと暖かいので、書斎の窓を開け放ちて、仕事をしていた。
ときどき、ふとした瞬間に、甘酸っぱい花の香りがしたような気がして、キーボードを叩く手を止めた。
どこから、何の花が香っているのだろう。窓から階下を見下ろすけれど、植え込みには何の花も見えない。
誰かの家の窓辺の花から、漂ってくる匂いだろうか。そんな風に思っていた。

今日、外に出て、植え込みを見てわかった。香りの源は、これだった。
まだ、開ききっていない沈丁花。日本のそれに比べると小振りだけれど。
去年は気づかなかった。今年、植えられたのだろう。建物を取り巻く芝生の植え込みに、いくつもの小さな株。
花が開くころには、わたしの部屋にも、いい香りがどんどんと、流れ込んで来るに違いない。

 

MARCH 4, 2004 カラー

祈らずにはいられないようなできごとがある。そのことを考えながら、花屋に並んでいた花を眺めていた。
背筋がしゃんとするような、心がすっとするような、花を選ぶ。それらを大切に、腕に抱えて帰る。
野菜のような茎を、スパッ、スパッと切りそろえながら、気持ちを調える。
わたしは、わたしにできることを、精一杯やることしかできないし、そうすることが大切なのだ、と思いながら。

夕方、仕事を終えて帰ってきた夫に、花を指し示す。

「うわあ、きれいなチューリップだねえ!」

この人と出会って、本当によかったと思う。

 

MARCH 3, 2004 散歩日和

とても天気がよかったので、バスを使わず歩いて出かける。
今日はたくさんのリスを見かけた。どのリスも、春の訪れを喜ぶみたいに、
芝生を駆けめぐったり、木の幹で追いかけっこをしたり、なんだか楽しそう。

冷たい冬があるからこそ、この春の訪れが、ことのほかうれしいのだ。
そうわかっていても、冬は短くて、春は長ければいいのに、と思う。

この枯れた雑木林も、あと2カ月もすれば、鬱蒼とした緑になる。

 

MARCH 2, 2004 

今日は、歩いていると、汗ばむくらいに暖かだった。

春が来ている。本当にうれしい。

枯れ木にも、春の息吹が詰まっている。

夕暮れの匂いも、春だ。

夕暮れの空も雲も、春だ。

 

MARCH 1, 2004 アフガニスタン

近所のスーパーマーケットで買った、長くて平べったくて大きいパン。
WORLD FAMOUS BARBARRY BREADとある。でも、どこの国のパンだか、一目ではよくわからない。
けれど、その地球地図の、赤い国土はアフガニスタンだ。どうやら、アフガニスタンのパンらしい。

このパンは、インド料理に合うので、時々買う。自分でナンを焼くこともあるけれど、この方が何しろ手軽。
ナンは冷めてしまうとおいしくないけれど、このパンは、トーストにしたり、ピザにしたり、応用が利く。
説明書きによれば、サンドイッチやガーリックブレッド、フレンチトーストにもいいらしい。

アフガニスタンのパン。アフガニスタンの人たちは、たっぷり食べられているだろうか。

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