STOW-ON-THE-WOLD, COTSWOLDS/ APRIL 14, 2005

4月14日(5)忘れ得ぬレストランで、忘れ得ぬランチ。ストウ・オン・ザ・ウォルド再び

今夜はロンドンに戻るから、今日のランチがコッツウォルズでの最後の食事になる。どこか行ったことのない町か村のレストランで、まだ食べていない英国の伝統料理を試すのもいいし、天気がいいからサンドイッチなどを買って草原でピクニックをするのもいい。

あるいは少し遅めに、アフタヌーンティーをランチ代わりにするのもいいかもしれない。本格的なアフタヌーンティーは、スコーンだけでなく、サンドイッチやフルーツケーキ、ビスケットなどが出されるから、十分ランチ代わりになる。

そんな提案をするまもなく、夫が口を開く。

「ぼく、やっぱり、あのレストランへ行って、もう一度あのラム肉が食べたい。絶対食べたい」

二晩続けてラム肉を食べておきながら、まだ食べたいと言い張るのかこの男は。

「わたしはいやよ。他の町に行こうよ。短い滞在なんだし、ランチのためだけに、またストウ・オン・ザ・ウォルドに行くのはいやだもん。それに、あのメニューは日替わりだから、ラム肉はないかもよ。あの夜だって、わたしたちがオーダーした直後に品切れになってたじゃない」

「ラム肉がなくったっていい。あそこの料理は本当においしかったから、ほかの料理も食べてみたいしさ」

「わたしはいやです!」

「じゃあ、どこに行きたいの? あの店よりおいしい店を見つけられるなら、それでもいいけど?」

ああもう。これでもし、あの店より劣る店でランチを食べたりした日には、恨まれるに違いない。もう、面倒だ。わかった。わかった。行きますよ、行きますともさ。

そんなわけで、またしてもストウ・オン・ザ・ウォルドのレストラン、キングズ・アームスに、我々は舞い戻ってきたのだった。ランチタイムは2階のダイニングではなく、1階のバーでの食事。本日のメニューが書かれた黒板に目を走らせる。

「ほら〜。やっぱりないじゃん、ラム肉」

案の定、ラム肉料理はなかった。もうラム肉は食べたくない、と言ってたくせに、でもちょっとがっかりするわたし。しばらく黒板を眺めて検討した結果、前菜にムール貝のトマトソース、主菜にポークのグリルをオーダーすることにした。朝食をたっぷり食べていることもあり、また1品ずつをシェアするので十分だろう。

この店は、数年前にピーター・ロビンソンという若いシェフに買い取られて以来、高い評判を得るようになったようだ。彼はその日の素材の鮮度や質によってメニューを決める。地元の肉や魚、チーズなどをふんだんに利用し、素材の持ち味を生かした調味を心がけているという。

ワインやビールも良質のものを取り揃え、パンですら「有料」なのである。最初、パンにお金を払うのかと驚いたが、それは同時に、パンは決して脇役ではないのだということを物語っているようにも解釈できる。

料理はいずれも、素材の質のよさが感じられるもので、ソース類はその味を引き立てるのにふさわしい風味を備えていた。実にゆっくりと味わい、最後にはデザートも注文し、この店でランチを食べてよかったね、という平和な締めくくりであった。

パンも有料だけあって、ほどよくしっとり、よいコンディション。バターの風味もいい。

見事な山吹色のムール貝。プルプルと歯ごたえよく、トマトソースもハーブの旨味が利いていて美味。

ポークチョップ。フェネルとパセリのみじん切りのソースがとてもいい味わい。レシピを教わりたい。

デザートはパンナコッタとラズベリー。滑らかでクリーミーな舌触り。幸せ。

のんびり食事をしている間、天気雨が降ったりと、相変わらずコロコロと変わる空模様。

食後。くつろぎながら新聞など読み、最早、半睡状態の夫。

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