DAY03: ドアのない、ヘリコプターに乗る。鳥になって、カウアイ島を見下ろす

APRIL 7, 2006

初日から、ヘリコプターツアーのリサーチに余念がなかったアルヴィンド。「空から島の全容を見下ろすのだ」と、たいそう気合いが入っている。

わたしはと言えば、過去に2回、取材でヘリコプターに乗ったことがある。ニュージーランド南島のサウンド(フィヨルド)とマンハッタン上空を旋回した。

ついでに言えば、マレーシアのペナン島でパラセイリングを、本場ニュージーランドでバンジージャンプを、スイスアルプスの上空ではタンデムフライトをやった経験がある。

三半規管が弱くてすぐに酔いやすく、具合が悪くなる割には、比較的チャレンジャーである。喉元過ぎると熱さ忘れやすい性格だからかもしれない。

バンジージャンプは飛ぶ直前が、考えられないほど、恐ろしかったが、行動は一瞬につき、頭痛を催す暇もなかった。が、昼食の直後にやったタンデムフライトは、途中で猛烈に気持ち悪くなり、危うく上空からとんでもないものをまきちらすところだった。

ヘリコプターは、これまでの経験上、30分以内という短時間の飛行だったこともあり、具合が悪くなったことはなかった。

ところで、あれこれと資料を見比べていた夫は、1時間のフライトを予約すると言う。しかも、景色を十分に堪能するために、「ドアなし」のヘリコプターにしようという。

わたしはどちらでもよかったのだが、せっかくならドアなしで絶景を楽しみたいものだと思った。従って夫の意見に同意する。

座席の構成は、前部の左が操縦士、中央にわたし、右側に夫、となるらしい。重量のバランスだという。そして後部座席には、別のゲストが2名並んで座るのだとか。

わたしとしては、せっかくなら、窓際に座りたかったが、重量のバランスだと言われると仕方ない。ヘリコプターに始終傾かれても困るしね。

さて、出発時刻は12時45分。空港近くのオフィスに到着し、専用シャトルでヘリポートへ向かうばかりになって、やたらとトイレに行く夫。どうやら緊張している様子だ。

「実際さ〜。僕って高所恐怖症なんだよね。覚えてる? エンジェルズ・ランディングでも、足が竦んでさっさと歩けなかったでしょ。大丈夫かな〜。ねえ、どう思う?」

って、何を今さらこの男は!

さ、もう、キャンセルなんてできないんだからね、行くよ! 

専用シャトルに乗り込み、ヘリポートへ。ヘリポートの簡易トイレで再び用を足し、轟々とうなりをあげるヘリコプターに向かって、我々は果敢に歩き出すのだった。


リフエの空港そばにあるヘリコプターツアーの会社。上空ツアーはカウアイ島で人気のアトラクションとあって、ヘリコプター会社もたくさんある。ここは現地発行のガイドブックも勧める信頼のおける会社だとのこと。

オフィスで簡単な説明を受けたあと、シャトルバスでヘリポートまで。一人ずつ、ヘリコプターに搭乗する。前部座席は3人乗りとあって、相当にぎゅうぎゅう詰め。

轟音とともに、しかしふわり、と離陸する。みるみるうちに、大地が遠のいていく。

いきなり山並みに迫ってゆく。ドアがないから、風が猛烈に吹き込んで来る。揺れる! 夫の顔が青ざめている!

夫もデジタルカメラを持っているのだが、とても撮影する余裕などないらしい。右手でハンドルをがっしりと握りしめているばかり。シートベルトをしているとはいえ、確かに端の席は、より怖いだろう。

ヘッドフォン越しに操縦士の案内を聞きながらの上空旅行。右へ左へ傾きながら、旋回するたびにくらくらする。夫と腕をしっかり組んで、更にカメラを構えて、肩が凝る。酔わないようにしなくちゃ。

ワイメア峡谷も一望のもと。パイロットはきゅっと旋回して、双方向からの景色を見せてくれるのだが、そのたびに機体が大きく傾いて、大地が筒抜け! 

こうも「むき出しな感じ」を経験すると、飛行機がとても安全な乗り物に思える。普段はやわやわな夫の拳にも、今ばかりは力が入っている。

峡谷を蛇行して流れる川。

峡谷の壁面には、いくつもの滝が吹き出すように流れ落ちている。滝に近付くと、冷風が吹き込んで来て気持ちいい。

海が見えて来た! でも飛行時間30分を過ぎたあたりから、俄然、気分が悪くなって来た。やっぱり直前に、ランチを食べるんじゃなかった。サンドイッチが込み上げて来そうだ! わたしってば懲りないバカだ。

絶景! うう、でも気持ち悪い。カメラを構えるとくらくらする。だめだ。ヘリコプターはどうも30分が限界のようだ。いや、ランチを食べず、写真も撮らなければ、もう少し持ったかもしれない。

15分程、半ば意識を失っていた。その間、渓谷の無数の滝に近付いて、涼しい風が気持ちよかった。でも、急接近・急旋回で、もう、くらくらの極地。

なんとか気を取り直して、最後に一枚。「ミホ、たくさんの滝の写真は撮らなかったの?」と、非難めいた口調で夫。自分で撮れよ!

あ〜。ようやくヘリポートに到着だ。ほっとするな〜。

こんな小さなヘリコプターの前部座席にぎゅうぎゅう詰めだったのだ。そりゃあ、落ちそうで怖いというものだ。

やっぱり、陸地に両足で立っているのが一番安心。オフィスのネコらをみて妙に和む飛行直後。

さて、ヘリツアーのあとは、シュノーケリングだ! だそうだ。わかった。付き合うよ。


ヘリツアーを終えた我々は、興奮覚めやらぬまま車に乗り込み、ホテルのあるポイプビーチまで戻る。

どうしても、今日、シュノーケリング用品を借りたいという夫に従い、レンタルショップへ。わたしも一応、借りることにはしたが、やはり三半規管が弱い故、シュノーケリングにおいても、過去、カリブ海のグランドケイマンでひどい目に遭った経緯がある。

情けないが、すぐに頭がくらくらし、場合によっては吐き気を催すのだ。従っては、体調のよさそうな瞬間に、浅瀬でちょっぴりもぐってみて、魚をちょろっと見る程度になるだろう。

今日のところはヘリツアーでエネルギーを使い果たした故、海辺で夫を見守るだけにする。

椰子の葉影の芝生の上で、帽子を目深に被り、しかし傾きはじめた太陽の光が、水面にギラギラと反射するのをぼんやりと見つめながら、時折夫の「頭」を確認しながら。

さきほどフルーツスタンドで買って来たばかりのパイナップルをかじる。甘酸っぱい、爽やかな果汁がぽとぽとと滴り落ちる。なんというおいしさだろう。

やがて、息を切らしながら夫が、海からあがってきた。

「色とりどりの魚に囲まれてね〜。きれいだったよ〜。それかれら大きなカメがいてね! しばらく一緒に泳いだんだよ!」

笑顔が弾けて、とても幸せそうな夫。わたしももっと頑丈であれば、ぜひとも海に入りたいのだが……。

無論、この性格で三半規管が頑丈で、どんな事態にも対応できる体質だったとしたら、ひょっとすると何ごとにおいても「歯止め」がきかずに突っ走っていたかも知れない。あるいはこのわたしの弱点は、自分を制御するために必要な弱さなのかも知れない。

ある程度、身体に無理がきかない部分が在るほうが、体調を慮ることになるわけで……。などということに、今回はしみじみと、思い至った。我ながら、ちょっと大人になったようだ。

シュノーケリングのあとは、日暮れまで車を西へ走らせた。初めての道を、見知らぬ土地を目指して走るときの、心の小さなときめき。延々と続く、道と電柱。カーヴするたびに現れる、海、緑。

ちょうど太陽が水平線に届こうというころ、広々としたビーチに到着したのだった。


ホテルにほど近いビーチにて。生きているんだか死んでいるんだかわからない風体で、ど〜っと、海辺に寝転ぶアザラシ。

フルーツスタンドで買っていたパイナップルを食べる。さすが本場だけあり、ジューシーで甘酸っぱくて、ものすごくおいしい。「今までの人生で食べたパイナップルの中で一番おいしい〜!」とのこと。異義なし。

夕陽を追いかけて、西へ西へとドライヴ。1時間ほども走ったところで、ちょうど、見晴しのよいビーチにたどりついた。海辺では少年たちがサーフィンをしている。

夕暮れの海。と言えば

夕陽に向かってGo!

走るぞ〜!

付いて来なさいよ〜!

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