8/21/2000 携帯電話紛失

 先週の金曜日の夕方、打ち合わせを終えた後、広告代理店のK氏とデザイナーのI女史と共に、夕食に出かけた。数カ月前、ニューヨークに赴任してきたばかりのK氏は、独身生活のせいもあり、自炊が面倒で、毎日簡単なそうめん、そばばかり食べていたところ、栄養が偏ってしまい、体調を崩していた。ビタミンの欠乏らしい。というわけで、おいしい日本食でも食べに行こうと最近出来たばかりの評判の店に行ってみた。ちなみに、muse new yorkに広告を出してくれているSeo Restaurant(249E. 49th St. 212-355-7722)だ。ビールに枝豆に始まり、ヒラメの刺身、豚の角煮の餅添え、鶏の照り焼き、野菜の天ぷら盛り合わせ、インゲンのゴマソース和え、焼きナスなど、盛りつけもきれいで、味もいい。普段はあまり日本酒を飲まないのだが、グラスいっぱいなみなみ注がれた冷酒をいつのまにか、すっかり飲んでしまっていた。食べて飲んでしゃべって12時近く。すっかりいい気分で帰ってきた。

 そして今日、月曜日。外出しようと携帯電話を探すが見つからない。自分の番号にかけてみるが、電源を切っていたので、メッセージが流れるばかり。以前友達が「物をなくしたら7回探せとおばあちゃんに言われた」というその言葉に従い、思い当たるところを7回近く何度も確かめるが見つからない。日本の携帯に比べると随分大きいし、色もオレンジで派手で目立つから、何かに紛れてしまうとは思えない。

 週末、使った記憶はないから、多分、金曜の帰りのタクシーに忘れてきたのだ。やっぱり、日本酒が回っていたのか。それにしても不覚だ。急いで電話会社のAT&Tに電話をし、サービスを止めてもらう。土日の間に、誰か拾った人が使っていないかを確かめたいのだが、来月の請求まで明細がわからないとのこと。たとえ他人が使っても、私自身に支払い義務があるとかで、かなり心配。AT&Tの担当者に、もしも警察にレポートすれば、誰かが拾ってくれた場合、AT&A経由でうちまで届けてくれるシステムになっているとか。早速、警察に電話する。

 日本でいう110番は、アメリカでは911。取りあえずここに電話をして、紛失物のレポートをしたい旨を告げると、近所のポリスに行きたいか、それともポリスに来てもらいたいか聞かれたので、来て欲しいとリクエスト。時間は確約できないが、この近所を担当しているポリスが、時間がとれ次第来るとのこと。

 約30分後、男性と女性のポリスが2人でやって来た。部屋に入ってもらい、なくした場所や電話のモデルなどを紙に記入する。こちらで携帯電話のことをセルラーフォンというのだが、セルラーのスペルが思い浮かばない。Cell....? 恥ずかしいけど間違えるよりいいや、と思って、「セルラーのスペル、教えてくれる?」というと、2人とも沈黙。男性の方は、いつもCell.と省略して書いてるからなあ、と言ってお茶を濁し、女性の方は紙の裏にいくつか書いてみて、多分これだったと思う、と自信なさげに「Celluler」という文字を示してくれた。私も、あ、確かそんなスペルだったわ、とそのまま綴ったが、後で調べたら、間違えていた。正しくは「Cellular」である。人のことを言える立場ではないが、ネイティブアメリカンの彼らでさえ、綴りが怪しいのには驚いた。

 その後、ちょっとした世間話----「僕はこの界隈のパトロールを10年以上、彼女は6年くらい担当しているんだ」とか、「君は何の仕事をしているの?」とか、「ニューヨークは好き?」なんてことを、軽く話したあと、彼らは去っていった。ブルックリンやクイーンズなどでは、ポリスの対応も遅く、かつてトラブルに巻き込まれ、ポリスを呼んでも数時間も誰も来なかったと私の知人は話していたが、マンハッタンに関して言えば、レスポンスは早い。以前も財布をなくしたときレポートを頼んだら、やはり30分以内に来てくれた。ジュリアーニ市長の尽力でポリスが増員され犯罪件数は激減しているニューヨーク。一方、人数が多いだけで仕事をしていない、税金の無駄遣いだという批判も多い。とはいえ、携帯電話1個なくしただけでも、すぐに来てくれるのはありがたいといえばありがたい。

 それにしても、私のオレンジ色の携帯電話、今頃どこに……。


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