8/22/2000 それぞれの事情

 束の間、仕事が一段落したので、気分転換に髪を染めに美容室へ行った。実は10日ほど前、自分で染めようとヘアカラーを購入したのだが、どうにもうまく染まらず、バスルームをヘアカラーで汚しただけで、ほとんど真っ黒のまま。昔はショートカットだったから簡単に染まったのだが、自分がロングヘアになっていたことを念頭に置かず、気軽に染めようとしたのがまちがいだった。

 最近は日本でも、以前よりも気ままに髪の色を変える人たちが増えているようだが、アメリカでは髪を染めることは、とても日常的。日本人のように黒が基本ではなく、肌の色や髪の色が、みなそれぞれに違うニューヨーカーたちだから、もともとの色が想像できない人も多い。黒人たちはヘアカラーというよりは、ストレートにしてみたり、こまかい三つ編みをたくさん作って束ねたり、まるでカンナで削った木のようにぺったりくるくるとカールしたりと、ヘアスタイルの工夫に余念がない。地下鉄などで彼女らのヘアスタイルをしみじみ眺めては、その入念な手入れに感心させられる。併せて彼女らの多くははネイルケアも万全。長い爪をカラフルなマニキュアやきらきら光るラメで飾っている。

 さて、美容室は日本人が経営している店に限る。もちろん高いお金を出せば、技術の確かな洒落たサロンもあるのだが、たいていのサロンは、はさみも器用に使えない、バリカンと櫛でカットするようなスタッフばかり。基本的に繊細な心配りから遠くかけ離れている国民性がゆえ、シャンプー時に顔にバシバシ水がかかることもしばしば。シャワーの水も冷たすぎたり熱かったりと、なかなか刺激的である。間違っても「どこかかゆいところはございませんか?」なんて尋ねられることもない。

 今日は、トリートメントヘアカラーをやっているというサロンに行ってみた。ニューヨークで10年以上美容師をやっているIさんが、去年オープンしたばかりのサロンだ。広々とした店内で、とても快適。Iさんといろいろな話に花が咲く。ニューヨークで会社を立ち上げること、当初は銀行の残高が底をついて途方に暮れたこと、自分が好きなことをやっていくには、休んでいられないわよね、などなど。自分の力でがんばっている人に出会うと、とても共感を覚え、気分的に励まされる。

 彼女と話していておもしろかったのは、ブロンドの髪を持つ白人女性の話。カリフォルニアなど西海岸では、金髪ブロンドの髪は人気があるらしいのだが、ニューヨークではさにあらず。ブロンドの女性は、あえて髪を染めに来るのだとか。それもビジネスウーマンたち。彼女らの嗜好はブラウン系の髪にメッシュをいれたようなスタイル。その理由が面白い。「ブロンドの髪は、頭が悪そうに見えるから」だとか。

 外見などに拘らず、自信満々でがんばっているように見えるアメリカ人女性でも、ビジネスシーンではいろいろと神経を使っているのだな。知的に見せるために髪を染めるというのも、なんとも健気ではないか。マリリン・モンローをはじめ(彼女はあえてブロンドに染めていたのだが)、男性誌のグラビアを飾るようなセクシーな女性のシンボルとして、ブロンドヘアがあるとするならば、キャリアウーマンたちがあえてそれを避けようとする気持ちもわからないでもない。

 確かにアメリカは日本に比べれば、女性のビジネスにおける地位は確立されているけれど、それでも多くのせめぎあいのなかで、彼女たちはがんばっているのだ。この間も、女性だからという理由でゴルフ接待に呼ばれず、自分がプロジェクトからはずされた云々という理由で会社を訴えた女性の記事がニューヨークタイムスに出ていた。

 みな、それぞれに事情があり、みな、それぞれにがんばっているのだな。私も、がんばろう。


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