8/24/2000 夏がだんだん終わっていく

 今、リンカーンセンターのカフェテラスにいる。仕事を終え、早い夕食をすませたあと、夕暮れの街に出かけたくなったのだ。時計は7時30分を指しているが、まだあたりは明るい。

 

 リンカーンセンターというのは、アッパーウエストサイドにある一大エンターテインメント施設。3つの大きな建物がコの字型にたっており、その中央に噴水のある広場がある。リンカーンセンターでは、オペラやバレエ、クラシック音楽のコンサートが行われる。この時間になると、観劇を楽しもうと訪れる人々で込み合いはじめる。夏の間は、敷地内にある野外ホールや、広場に仮設されたステージで、無料のミュージックイベントが開催される。

 セントラルパークも同様、夏の間はさまざまな無料のミュージックイベントが開催され、週末ともなるとたくさんのニューヨーカーたちが集まってくる。

 そんなニューヨークならではの夏の風物詩を楽しむいとまもなく、今、去り行く夏を惜しんでいるところ。今年の夏は余り暑くなかったこともあり、いまひとつ盛り上がりにかけていた。なにしろ夏生まれ(8月31日!)のせいか、寒いよりは暑い方が好きなので、どうにも不完全燃焼である(今、不完全燃焼と打とうとしたら、不完全年商と出た。嫌味なやつだ)。話が横にそれるが、調子よく原稿を打っている時、間抜けな変換をされると、本当に気がそがれる。もちろん、誰もが経験していることだとは思うけれど。昔、ワープロを使っていた頃、ソフトドリンクと打って「祖父とドリンク」と出た日には、その情景までが脳裏に浮かび上がり、微笑ましい気持ちになったものだ。日本語とは、本当に遊べる言語である。

 そういえば、ひとつここに報告しておかなければならないことがある。携帯電話のことだ。あれだけ大騒ぎして、ポリスにまで来てもらっておきながら……。ありました。我が家に。翌日発見しました。自分では「金曜日以来使っていない」と思い込んでいたから、金曜日使ったバッグなどを7回以上、丹念に探したのだが、それが間違いだった。土日、使わなかったのは事実だけれど、セントラルパークに昼寝しに行った時、リュックのポケットに入れて持って行ってたのよね。それも普段使わない、端の方にあるポケットに。「いくら飲み過ぎたからって、タクシーに忘れ物する自分が信じられない」と、思っていたが、やはり忘れてはいなかったのだ。けれど、土曜日、リュックのポケットに入れたことは、すがすがしいほどに忘れていた。なんだか、いい加減、自分が情けなくなってきた。あの一連の騒ぎでいったいどれだけ時間を費やしたか。とほほ。

 あとひとつ、誰も気にしちゃいないと思うが、一応、ミューズパブリッシング、ワシントンDCオフィス開設の経緯について、説明しておきたい。A男がMBAを卒業し、DCで就職することになったのである。最後まで、オファーのあったニューヨークとDCの会社のどちらを選ぶか迷っていたが、私は、地理的なことは別として、会社として魅力のある方に行くべきだと提案した。DC-NY間の距離は大したものではない。飛行機で片道1時間、列車で4時間、その気になればいつでも行ける。結果、彼はDCの会社を選び、今はそのことに満足している様子。

 ボーイフレンドとはいえ、A男とは4年以上の付き合いで、私にとって家族となんらかわりない。だから、ニューヨークで打ち合わせなどがないときは、1カ月のうち1週間ほどDCで仕事をしようと思ったのだ。仕事のためのデスクや電話、その他オフィスとなるべき環境はすでに整っている。弊社は極めてカジュアルな会社なのだ(でも仕事はカジュアルではなく、たいへん真剣に取り組んでいます。念のため)。

 DCはマンハッタンに比べ、圧倒的に競合他社も少ないから、徐々に営業してクライアントを獲得していく予定だ。そのうち、muse DCも発行するかもしれない。

 私の人生は、だいたいこんなふうに、流れている。


Back