久しぶりの日本へ (3/22/2000)

明日から10日間ほど、福岡へ帰る。父が体調を崩し、入院しているので様子を見に帰るのが主目的。看病をしている母や妹の様子も気になる。母や妹とは毎日のように電話をしたりEメールでやりとりをしているが、この目で様子を見ないことには何となく気分が落ち着かないものだ。

とはいうものの、せっかく久しぶりに帰るのだから、日本ならではの風物を堪能したいものである。その筆頭は、なんといっても温泉。世界広しといえど、日本ほど風情のある温泉はないだろう。muse new york の3号で、ニューヨーク郊外にあるサラトガ・スプリングという温泉地を紹介した。そこには個室のバスタブに温泉水を入れて浸かるスパやマッサージのサロンなどがあり、周辺も自然がいっぱいで、それはそれでとてもいいのだが、やはり日本人としては岩風呂、檜風呂、露天風呂……、と情趣を求めてしまう。原稿を書いている間中、日本の温泉のことが思い出され、ついには昼間からバスタブに湯を張り、知人からおみやげにもらっていた「登別カルルス」をハラハラと撒き、即席温泉浴でお茶を濁した。こんなことを書くと、オフィスが自宅だということがばれてしまうな。

しかし、いくらなんだって、親が入院してるのに温泉旅行は不謹慎であろう。桜を見て、こてこての豚骨ラーメンでも食べてこよう。(M)

 

やりがいを感じるとき (3/20/2000)

昨年の8月に創刊準備号を出して以来、muse new york は3号を重ねた。毎号、読者の方々から寄せられるたくさんのアンケートハガキには、一通一通、目を通している。自費出版の感覚で始めたけれど、月日がたつごと に認知度も上がっているようでうれしく思う。

今日、日系の各企業に広告出稿を依頼すべく、大量の郵便物を抱えて郵便局へ行った。隅のテーブルで一通ずつ切手を貼っていると、日本人の女性に声をかけられた。封筒の社名を見て、muse new york の出版社だと気づ いたらしい。彼女は、アンケートハガキを送ってくれた読者の一人で、し かもベルギー特集号のプレゼント(ノイハウスのチョコレート)が当選し たのだという。自分で送っておいてこういうのも何だが、うらやましい。

彼女以外にも、マンハッタンの至る所で、読者の人たちと出会う機会がある。先日、お隣のニュージャージー州にあるスーパーマーケットで配達しているときにも声をかけられ、がんばってくださいと励まされた。

日本にいたころは、muse new york より発行部数も知名度も高い雑誌の仕事をしていた。今より何倍もの読者のハガキを集計していた時期もあっ た。しかし当然ながら、街角で読者に声をかけられることはなかった。ビジネスとしての善し悪しは別として、編集者としてのわたしは、こうして直接、読者の声を聞くことができる環境を、とても幸せに思う。(M)

 

桜吹雪のように (3/17/2000)

今、ふと窓の外に目をやって、驚いた。雪が降っているのだ。暖かくなったなと喜んでいたのに、冬が引き返してきたかのよう。18階にあるこの部屋からは、雪が降るというよりは、ふわふわとあたりに漂っているように見える。あたかも桜の花びらが舞っているかのように。

昨日、日本の新聞の衛星版で、桜の開花予想の記事を読んだ。来週23日から約1週間、実家のある福岡へ帰郷するのだが、福岡での開花が28日らしく、ちょうどいいタイミングで見られそうだ。異国で暮らし始めると、この季節、なぜか無性に桜が見たくなる。なんと美しい花だっただろうと記憶の中の桜並木をたどる。

学生時代を過ごした下関に、火の山という公園があった。その山道には延々と桜並木が続いていた。ある春の日、仲間たちと夜のドライブに出かけた。山道の途中で車を止めた私たちは、あたりの光景に、わーっと歓声を上げたあと、急に無口になった。

静寂の闇に、浮かぶ満月。月明かりのもとで、とめどなく、辺り一面に降り注ぐ桜の花びら花びら……。
あの夜のような桜吹雪を、また見てみたいと思うのである。(M)

 

江戸の空は高く (3/12/2000)

ブルックリン美術館で、歌川広重の浮世絵「名所江戸百景」の展覧会が行われている。広重は「東海道五十三次」でも知られる江戸末期の浮世絵師だ。同美術館が擁する貴重なコレクションが一挙に公開されているというので見に行った。

四季折々の江戸の情景を描いた100を超える版画が、一堂に展示されている。ペリーの黒船が来航した1853年からわずか数年後、1856年から58年にかけて制作されたという。

150年前の東京(江戸)は、視界を遮る物が何もない。澄み渡る空の彼方に浮かぶ富士の頂、辺り一面を包み込む茜色の夕暮れ、藍色の川は舟を浮かべ、緩やかに流れる。春の白梅、夏の夕立、秋の祭り、冬の雪道……。今はもう、どこにもないはずのその光景を、この目で見てみたいという思いに駆られた。

この展覧会は4月23日まで開催されている。美術館のあるプロスペクト公園には植物園もある。ゆっくりと一日かけて出かけてみてはどうだろう。(M) 

 

急に暖かくなってきた (3/8/2000)

つい数週間前は氷点下の日々だったのに、今日は薄手のシャツ一枚で歩ける暖かさ。日本では、全国民の衣替えのタイミングは非常に足並みがそろっているが、ニューヨークはさにあらず。今日のような日は、厚手のコートを着ている人もいれば、半袖短パンで歩いている人もいる。街を歩けば、とても同じ気温を共有しているとは思えない光景に出合う。

セントラルパークの池の氷もすっかり溶けて、深緑の水面にカモがスイスイと泳いでいる。そろそろ、甘酸っぱい香りを放つスイセンが咲く頃だろうか。寒い間、怠っていたジョギングを始める時期かもしれない。

ところで今回、情報交換のコーナーを設けてみた。今のところ、部屋はあるが家具がない、という状況。まだガランとしている。少しずつ、更新していこうと思っている。ニューヨーク生活の中で、教えたい、知りたい、という情報があれば、利用してほしい。(M)

 

自分の言葉がどこまでもゆく (3/5/2000)

昨日、ロックフェラーセンターにある紀伊国屋書店に出かけた。もちろん、日本に比べると新刊が届く時期が遅かったり、値段も割高だが、異国にいながら母国語の本に接することができるのはとてもありがたい。 

普段は立ち入ることのないコンピュータ関連のコーナーで、インターネットの雑誌をかき集め、思い切り8冊ほど購入した。ホームページを立ち上げてはじめて、もっと知識が必要だと実感したのである。それにしても、インターネットの世界の幅広さ、奥深さ。「わたしは印刷物に愛着があるのだ」というこれまでの主張が崩れそうである。こうして随時、自分の言葉が世界へ向けて開かれていくことのすごさを痛感している。(M)

 

春の訪れ (3/3/2000)

3月3日。日本は桃の節句だ。例年になく厳しい寒さが続いたニューヨークも、ここ数日のうちに、ずいぶん春めいてきた。今朝、オフィスの窓から、セントラルパークの片隅を見下ろしてハッとした。まだ葉のない裸の木々が、しかし真冬のそれとは違い、芽吹く瞬間を待ち望んでいるかのような、力を秘めた温かさを呈しているのだ。公園が鮮やかな緑に包まれる日も遠くないだろう。 

今日、このホームページの基盤が整ったので、関係者の方々にご連絡させていただきました。訪れていただき、ありがとうございます。今後も皆さまのご意見やアドバイスを参考に、季刊誌の muse new york と同様、育てていこうと考えています。「ミューズ・サロン」のコーナーは随時アップデートして参りますので、これからも、お時間のあるときにはぜひご覧ください。(M)

 


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