俎上に立つ (6/25/2000)

ケーブルテレビのプログラムに「フードチャンネル」というのがある。料理に関するエンターテインメントのショーが展開されているのだが、最近、日本の「料理の鉄人」が英語訳されて放映されるようになった。なかなか人気を集めているようで、新聞や雑誌などメディアにも取り上げられている。さて、先ほど、ニューヨークを舞台にした「NY Battle」を見終わったところだ(日本ではすでに3月頃放映されたものらしい)。

鉄人Morimotoと、ニューヨークの人気シェフBobby Flayとの対決だった。Bobby Flayは27歳の時、Mesa Grillというレストランをオープンし、以来ニューヨーカーの人気を集めている。現在は36歳。メディアにもしばしば登場するエンターテイナーでもある。

調理中のプロセスはさておいて、1時間たち、両者とも料理を仕上げ、スタジオが歓喜の熱気に包まれたとき、Bobby Flayは、手を振り上げ、観客の声援に応えた。さらにキッチン台に上り、自らを誇示するように両手を拳にして振り上げた。その様子を見ていたMorimotoさんが、このようなことを言った。
「彼はシェフじゃない。シェフにとってまな板は神聖な物。その上に立つなんて……」

そうなのだ。何につけても、そういうことなのだ。日本人にとっての非常識は、アメリカ人にとって日常だったり、アメリカ人の非常識が日本人にとっての常識だったり……。異なる文化や習慣、態度を受け入れるというのは、実に難しい。日本人としての私は、絶対にまな板の上に立つなんて考えられない。でも、アメリカに暮らしていると、そういう細かいことに神経をとがらせていると自分が疲れてしまう。

しかしながら、Morimotoさんの言葉にいたく共感を覚えた私は、たとえアメリカに暮らしていても、日本的な感覚を失いたくないと切望しているのかもしれない。(M)

 

米、味噌、醤油で、できている。 (6/17/2000)

今日の夕方、ニューヨークに戻ってきた。取材と休暇を兼ねて、イエローストーンとグランド・ティトン国立公園に行っていたのだ。丸一週間、緑いっぱいの大自然のただなかで過ごした。毎日のように山道をトレッキングし、すっかり健康的。ムースやシカなどの野生動物に出合ったり、野に咲く花を眺めたり、愛らしい小鳥たちのさえずりに耳を傾けたり……。詳しくは次号のmuse new yorkにて紹介する予定なので、お楽しみに。

それにしても、アメリカの地方都市に出かけると、いわゆる「典型的なアメリカの食事」を取らざるを得ない。ニューヨークなど大都市には日本食をはじめとするアジア各地のレストランもあって、食生活の不自由をまったく感じないのだが、今回のイエローストーンはわずか8日間だが、辛かった。サラダと言えば、ひたすらレタスばかりがこんもりと山のごとく盛られたものが出てくるし(わたしは馬ではない、とつぶやかずにはいられない)、パスタを頼めば、うどん状ののびきった麺が、これまた目を見張るようなボリュームでもって出されるし、ステーキ肉は著しく分厚く大きいし、デザートは特大激甘だし、コーヒーは麦茶のごとく薄いし、もう、たまらん、という感じである。一人前を二人でシェアしたってげんなりする量である。

日本にいる頃は、さほど日本食に執着していなかったが、最近は、精神的な嗜好よりも、身体の方が日本食(アジア各地の食事を含む)に安息を覚えるようになっているようで、ステーキなどをお腹いっぱい食べた夜は胃が重く感じられて熟睡できなくなってきた。年齢とともにその傾向は強くなってきたようだ。トレッキングの途中、ランチがわりにクラッカーやフルーツを口にしながら、「おにぎりが食べたい……」と幾度となく思った。

空港から戻ってきて部屋に着くなり、お湯を沸かしてインスタントみそ汁でほっと一息つく。何年アメリカに暮らそうとも、日本で生まれて、日本で育った私の身体は、米と味噌と醤油でできているのだなあと、つくづく思う。(M)

 

祝! クレジットカード取得 (6/5/2000)

アメリカに暮らし始めて丸4年。ようやく、ようやく、アメリカのクレジットカードを手にすることができた。ここまでの道のり、長かった。

もちろん、日本に住んでいた頃は、簡単にクレジットカードを作ることができた。しかし、アメリカでは「クレジットカードのヒストリー」なるものが要求され、私のような外国人がクレジットカードを手に入れることは決して簡単ではないのだ。

同じ日本人でも、企業に勤務している人や、日本からの駐在員であれば、会社というスポンサーがあるから、発行までの期間は短いのが普通だ。しかし私の場合、いくら肩書きは「President」でも、自分で作った会社だし、歴史も浅いし、信頼もない。だから、こつこつこつこつと「ヒストリー」を育まなければならないのだ。クレジットカードがなくてはレンタカーすら借りられないアメリカ。ID(身分証明書)としても大切な役割を果たしているからこそ、なんとしても手に入れたかった。

こちらにあるJCBアメリカのクレジットカードは、仕事の関係もあり、3年ほど前に発行してもらうことができた。しかし、JCBは日本で最大の会員数を誇るクレジットカード会社だが、アメリカでの加盟店数は、どうしたってVISAやAmerican Expressなどにはかなわない。使える店も限られている。それでもこつこつと利用してきた。2年前、その成果が認められてか、VISAから条件付きクレジットカードが発行された。ところがどっこい、1カ月の上限額はたった200ドル(約2万円)である。しょっちゅう限度額超過の手数料(25ドル)を払わされてぷりぷりしていた。しかし、そんな日々とも、もうお別れ。今日、American Expressの緑色のカードが手元に届いたのである。ものすごくうれしい。

これで、また少し、アメリカが近くなった。(M)

 


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