やりたいことが、次々と。 (10/29/2000)

ふとした思いつきで、先月末から発行を開始したメールマガジン。ホームページに掲載している日記やエッセイを流用して、1週間に一度くらい発行すればいいと、気軽な気持ちでスタートしたのだが、思いがけず気合いが入ってしまい、週に2、3回も発行している。

ニューヨークに興味がある人が登録してくれているせいか、毎号、いくつもの反響が届くのも、気合いが入る大きな理由だ。muse new yorkという印刷物を通しては、伝えたいことを伝えるまでに、かなりの時間を要する。しかし、メールマガジンは、書き終わった直後に、ボタン一つで発信できる。そのすばやさに、今は心を奪われている。

だからといって、muse new yorkという紙媒体も、インターネットでは表現できないよさが詰まっている。どちらも均等に、心を配らねば、と思っているところだ。

このホームページも、眠っている企画が多いので、活性化しなければ……。なんだかほんとに、やりたいことが、次々に出てきて、かなわない。(M)

 

たかが醤油、されど醤油 (10/15/2000)

先日、マンハッタンに登場したばかりのジャパニーズ&ラテン料理レストランに、日本人の女友達と出かけた。パークアベニューと20ストリートのあたりにある、「SUSHI SAMBA」という店だ。外観はモンドリアンの絵画のように、赤や黄、緑の色鮮やかな格子窓で統一され、見るからにモダンな雰囲気。店内は、仕事帰りのニューヨーカーたちでいっぱいだ。

まずは、小さなシェリーグラスで出される日本酒(冷酒)でのどを潤しつつ、メニューをじっくり眺める。セビーチェと呼ばれる小皿の料理やアボガド、カニなどのロール(巻きずし)、あんきもなどをオーダーする。ガラスの小皿に盛られた4種類のセビーチェは、マグロやイエローテール(ハマチ)、サーモン、ヒラメなどの刺身を、それぞれに醤油やビネガーなど、オリーブオイルなどで味付けている。中には、トロピカルフルーツなどで酸味を添えた物もある。どれもユニークな味わいながら、それぞれのおいしさがある。

おいしいにはおいしいが、お酒を飲みつつの食事ながらも、私の胃袋は猛烈に「あったかいごはん」を要求していた。友人の意見も同様だった。しかし、この店に、あったかいごはんはなかった。ごはん物と言えば、握りか巻きずしである。

翌日、別の友人に誘われて、寿司屋へ行った。魚の鮮度は昨日の店と変わらない。刺身を醤油につけて、ごはんとともに食べる。そのシンプルな組み合わせの、なんと好ましいこと。

醤油。ただそれだけで、生の魚がこんなにもおいしく味わえる。アメリカンの身体はトマトケチャップ、コリアンはキムチ、ジャパニーズは醤油からできていると、最近、切にそう思う。醤油とは、偉大なる調味料だと、改めて思うディナータイムであった。

 

恐るべし、チャット。 (10/5/2000)

今朝、クリーニング店に行った。アメリカのクリーニング店の大半はコリアンによって経営されている。その店も例に漏れず、受付には40代半ばとおぼしき女性が店番をしていた。伝票を切りながら、彼女が話しかけてくる。

「あなたはどこから来たの?」 
<4年前、日本から来たの> 
「日本のどこ? トウキョウ?」 
<韓国の近くの福岡よ。知ってる?> 
「フクオカ? あら、私行ったことがあるわよ。別れた夫がフクオカ出身だったのよ。フクオカのどこ?」
<市内の東区というところ> 
「ヒガシク? 偶然ね。私の夫もヒガシク出身だったの。あのあたりはたくさん団地があるわよね」 
<旦那さんは日本人だったの?> 
「お父さんがコリアンで、お母さんが日本人。彼が韓国に遊びに来てたときに知り合って、結婚したの。しばらくは2人で韓国に住んでいて、それから2人でこっちに来て……。子供は娘が3人いるわ。12、11、10歳の年子なの」
<まあ、女の子3人なの。ずいぶん賑やかでしょうね> 「ええ。夫とはいろいろあったけれど、娘たちがいてくれるから……。ねえ、あなた、インターネットのチャットって知ってるでしょ? あの、リアルタイムで会話する……。夫はね、4年前にチャットで、日本に住んでいる日本人女性と知り合ったの。彼女は離婚したばっかりで、子供もいたんだけれどね。夫と彼女はチャットで親しくなったらしくて。ある日突然、夫から、離婚してほしいと言われたのよ。彼女と結婚したいからって。本当に私びっくりしちゃって。結局、私たちは離婚して、その彼女は日本から子供を連れて来たの。今、彼らは一緒に暮らしてるわ」
<まあ…。随分たいへんだったのね> 「夫は2週間に一度、うちに来て娘たちに会ってるけれど、私はこうして店に出て、絶対に彼には会わないの」 
<わかるわ、その気持ち> 
「最近になって、夫は私に悪かったって謝るんだけど、もう何もかも取り返しがつかない。手遅れなのよね。本当に……」 
<少なくとも、お嬢さんたちがいて、よかったわね。きっとあなたのことをとてもよく理解しているんだろうし>
「ええ。本当に。それにしても、私はインターネットって、嫌いだわ」

彼女は極めてにこやかに、からっと身の上話をしてくれたのだが、きっとすさまじい修羅場があったのだろうな。福岡市東区出身の元夫も、やってくれるやないね! という感じ。それにしても、朝から、かなり重たい会話だった。

 

みんなで選ぶ大統領 (10/3/2000)

11月に行われる大統領選挙を控え、民主党のゴア(現副大統領)と、共和党のブッシュとの戦いが白熱している。今日は、合計3回行われる公開討論(ディベート)の第一回目が行われ、その模様がテレビで流された。著名な報道キャスターである男性が司会者として両者に質問を投げかる。テーマに従ったコメントをそれぞれが述べたり、お互いに意見を交わし合う。クリントン大統領もそうだが、ゴア候補もまた、とても明瞭でわかりやすい英語を話すのが印象的だ。討論の内容は、国民年金制度や保険の問題に始まり、中東問題、それに関連する石油資源、エネルギー問題と続いていく。私には市民権はおろかグリーンカードもないので、投票はできないけれど、アメリカ人及び、市民権を持つ者は、みな大統領選に参加できる。だから、候補者はそれはそれは熱心に、全米各地を遊説してまわる。世論を敏感に意識しながら、長期にわたる選挙戦に挑むのだ。ディベートは、いわばエンターテイメントショーのような性質もある。それを見る国民も、まるでゲームを観戦するかのような雰囲気で、テレビの画面を見つめる。どんなに知識があっても、それをうまくプレゼンテーション(提示、披露)できなければ、国民の心に響かない。風貌や仕草、立ち居振る舞いも重要なのだ。

アメリカでは、政治は生活に密着した身近なもので、国民一人一人の参加者意識がとても強い。日本の総理大臣も、国民投票で決めれば、全く違う風が吹くのではないだろうか。

 


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