ニューヨークで働く私のエッセイ&ダイアリー

Vol. 10 10/18/2000

 


週末は天気がよかったにもかかわらず、昨日今日と雨模様。先日、「両手でお札を渡してくれる」クリーニング店に、約半年ぶりに行きました。夏の間はクリーニングに出すような服を来ていなかったので。にも関わらず、例のお姉さんは、SAKATAという名前をちゃんと覚えていてくれて感動しました。

先週から今週にかけては、数人の友人と食事をする機会がありました。みな日本人女性ばかりです。水曜日のランチはAさん。近所のレストランで飲茶を楽しみました。彼女はmuse new yorkの創刊時に読者として連絡をくれたのですが、ご本人はライターとしての仕事もしているので、企画やアイデアを提案してくれたりもします。建築家の夫(日本人)と2人の息子とイーストビレッジに暮らす40代の女性です。次号の「気軽に一日参加できるスクール&セミナー」の体験記事を書いてくれます。マンハッタンには、年齢を問わず参加できるコミュニティカレッジやスクールがとても充実しているのです。

木曜の夜はRさん。ミッドタウンに最近できた「SUSHI SAMBA」という店に行きました(詳しくは以下のコラムで紹介しています)。彼女はmuse new yorkの「マンハッタン出産ノート」を書いてくれています。私と同じで35歳。息子のDくんは先日1歳になりました。彼女は日本で音楽関連の出版社に編集者として勤めていましたが、夫の赴任に伴いニューヨークへ来ました。現在も日本の会社と仕事をしつつ、趣味の「彫金教室」を開いています。

昨日のランチタイムはエステティックサロンを経営するSさんとミーティング。うちのオフィスで打ち合わせをしつつ、マレーシア料理の出前でランチを取りました。彼女のサロンのプレスキットやブローシュア(カタログ)を作ったり、メールマガジンの原稿を書いたりを手伝っているのですが、打ち合わせをしているはずが、ついつい違う話になってしまいます。昨日の話題は「高齢出産」でした。Sさんはティーンエージャーを含め3人の子供がいる40代の女性ですが、とにかく若々しくて生き生きしています。夫はアメリカ人のドクターです。

マンハッタンは日本に比べると、働く女性にとって本当に便利なところです。とにかくナニー(ベビーシッター)をやってくれる人がたくさんいるので、シングルマザーでも子供を育てている人はたくさんいます。マンハッタンでの出産や育児については、またいつか書きたいと思います。

そして夕べは、去年、日本から来て、ユダヤ系アメリカ人のボーイフレンドと暮らしているHさんとディナー。muse new yorkの「ニューヨークでがんばる日本人女性インタビュー」で紹介した人です。今年29歳になった彼女。日本では、エメラルドの貿易の仕事で、コロンビアと東京間を行ったり来たりしていました。危険な土地での仕事、極度の疲労とストレスで「劇症肝炎」になり、一度は生死の間をさまよいましたが、劇的に復活し、今はマンハッタンで宝石の仕事を始めるべく準備をしています。

彼女とは、近所のちょっとおしゃれなメキシコ料理店に行きました。ストロベリーマルガリータに始まり、アボガドとハーブ、スパイスを混ぜ合わせた前菜、ワカモレ、骨付きビーフのグリルなどお腹いっぱい食べました。

マンハッタンには、たくさんの日本人が住んでいます。明確な目標を持ってこの地を踏んだ人、なんとなく日本が嫌だから来た人、夫の赴任でやむなく来た人、人それぞれに事情はさまざまです。アメリカに住んでいても、日本人とばかり接して狭い世界で生きている人もいれば、どんどん非日本人と付き合い、視線を外に向けている人もいます。

私の知人、友人たちは、みなそれぞれに「自分の中で輝く物」あるいは「輝く可能性のある物」を自ら磨き、どこかにたどり着こうと模索している人たちがたくさんいます。マンハッタンに住んでいれば、もちろん異国ですから日本での暮らし以上に障害はありますが、それでも、この街が好きでがんばっている人たちと話していると、「わたしもがんばろう」と思います。

「がんばろう」という言葉をぴったりと表す英語はないように思います。Do my bestというと、気合いが入りすぎてるし、make an effortというと努力せねばとう感じで、なんだか窮屈です。

「頑張ろう」。漢字で書くと、これまた窮屈な感じがしますね。わたしは、気軽に自分を励ますことができる平仮名の「がんばろう」が好きです。

 

★たかが醤油、されど醤油

先日、マンハッタンに登場したばかりのジャパニーズ&ラテン料理レストランに、日本人の女友達と出かけた。パークアベニューと20ストリートのあたりにある、「SUSHI SAMBA」という店だ。外観はモンドリアンの絵画のように、赤や黄、緑の色鮮やかな格子窓で統一され、見るからにモダンな雰囲気。店内は、仕事帰りのニューヨーカーたちでいっぱいだ。

まずは、小さなシェリーグラスで出される日本酒(冷酒)でのどを潤しつつ、メニューをじっくり眺める。セビーチェと呼ばれる小皿の料理やアボガド、カニなどのロール(巻きずし)、あんきもなどをオーダーする。ガラスの小皿に盛られた4種類のセビーチェは、マグロやイエローテール(ハマチ)、サーモン、ヒラメなどの刺身を、それぞれに醤油やビネガーなど、オリーブオイルなどで味付けている。中には、トロピカルフルーツなどで酸味を添えた物もある。どれもユニークな味わいながら、それぞれのおいしさがある。

おいしいにはおいしいが、お酒を飲みつつの食事ながらも、私の胃袋は猛烈に「あったかいごはん」を要求していた。友人の意見も同様だった。しかし、この店に、あったかいごはんはなかった。ごはん物と言えば、握りか巻きずしである。

翌日、別の友人に誘われて、寿司屋へ行った。魚の鮮度は昨日の店と変わらない。刺身を醤油につけて、ごはんとともに食べる。そのシンプルな組み合わせの、なんと好ましいこと。

醤油。ただそれだけで、生の魚がこんなにもおいしく味わえる。アメリカンの身体はトマトケチャップ、コリアンはキムチ、ジャパニーズは醤油からできていると、最近、切にそう思う。醤油とは、偉大なる調味料だと、改めて思うディナータイムであった。

 

ホームページのエッセイから、寿司関連の話題を一つご紹介します。

 

★マンハッタンの中の日本

マンハッタンに暮らし始めて以来、東京で生活をしていたころよりも、明らかに頻繁に、わたしは日本料理を食べるようになった。この小さなマンハッタン島に、日本料理店は400軒以上もある。寿司を食べたことがないニューヨーカーはごく稀ではないかと思われる。

かつては日本や中国などアジア圏の人たちだけが器用に使えた箸も、今やたいていのニューヨーカーが使いこなす。少なくともここ数年、日本料理店でフォークを使っているニューヨーカーを見かけなくなった。

日本料理はアメリカ料理に比べ脂肪分が少ないので、ダイエット食としても人気がある。だからといって、彼らのようにバクバク食べていたのでは、さほどダイエットの効果も上がらないと思われるが……。

バラエティ豊かな日本料理店が点在するマンハッタンにあっては、にぎり寿司ひとつをとっても、活魚を使う高級店から、街角のデリで売られている手頃なものまで(日本の小僧寿司のような位置づけで、テリヤキボーイというチェーンもある)さまざまである。

ダウンタウンの居酒屋では日本酒(サキと発音する)を酌み交わし、枝豆にキリンやアサヒビールを飲み干すニューヨーカーたちが見られる。日本食の人気と共に、その料理名も確実に浸透している。テンプラ、スシ、サシミなどはもちろん、新しいものが好きなニューヨーカーたちは、寿司屋のカウンターで「トロ、ウナギ、イクラ」などと、きちんと日本語でオーダーするのである。ひとしきり食べた後は、抹茶もしくは小豆アイスで締めくくり、日本茶でのどを潤し、お会計である。

しかし、どんなに日本食に親しんでいるニューヨーカーでも、日本人から見ると「ちょっと待て、その食べ方!」と声を上げてしまいたくなる行動をとる人がいる。

まず、わさびである。かなりの高級店では、日本とほとんど変わらない出し方をするが、一人当たりの予算が4、50ドル以下の店では、大きな塊のわさびをこんもりと、寿司の横に添える。日本の寿司のように、あらかじめご飯の上には載せていないのだ。辛くて食べられない人もあるからだろう。しかし、その配慮はまったく裏切られているとしか思えない。

たいていのニューヨーカーは醤油にたっぷりのわさびを入れて溶き、どろどろにする。わさびどろどろの醤油の上に、にぎり寿司のご飯の面をのせて、ジュワーンと浸す。(ああ、下半分が黒くなってるよ、それじゃ塩っ辛いよ)というわたしの心の叫びは、この際大きなお世話である。

"Oh, delicious!!"

いかにもおいしそうに食べるのだ。本当かよ、と思う。

そしてガリ(ショウガ)。いつだったか、日本からアメリカに寿司用のショウガを輸入している日系の輸入会社社長のコメントを読んだことがあった。輸入当初、目論んでいた数字を大きく上回る需要があり、うれしい誤算であった云々……。そうなのだ。ニューヨーカーはやたらとショウガを食べるのだ。

毒消し作用のあるショウガは、あくまでもほんの少し食べるものと日本人は認識している。しかし、ニューヨーカーにとって、ショウガはサラダの一種である。バリバリ食べる。おかわりまでしてしまう。店も店で、小皿にこんもりと盛って出す。最近ではわたしも、周りの行動に影響されてか、やたらショウガを食べるようになった。

最後に、忘れられないシーンをひとつ。いつだったか、アッパーウエストサイドを散歩していたときのこと。通りから店内が見えるテラス風の日本料理店の前を通った。何気なく窓越しに店内を眺めると、ぼってり太った白人の中年男性が、テーブルに届いたばかりの寿司を食べるべく、割り箸を割っているところだった。

ふと、彼のテーブルの上に視線を落として、わたしは目を見張った。あの、にぎり寿司を載せる下駄状の木の皿(名称不明)の上に、ぎっしりと、ただひたすら、サーモンの握りだけがひしめいていたのである。一面ピンク! ちなみに、ニューヨークではサーモン握りはもっともポピュラーな寿司のひとつで、わたしも大好きである。しかし、好きだからと言って、同じものばかり、そんなに食べるのはいかがなものか。

あまりの衝撃に、同行していた友人(日本人)の肩を叩き、二人してビデオの巻き戻しのように後ずさりして、もう一度、見た。友人も驚きの声を上げた。

縦に3列あったのは確実だから、少なくとも横7列として21個である。いや、8列だったかもしれない。となると24個だ。

しかも、アメリカのにぎり寿司一切れのサイズは日本のものよりも一般に大きい。一口で食べるには困難なにぎり寿司を出す店がほとんどなのだ。

日本人がフレンチやイタリアンを正しく食べているかと言えばそうではないのだし、どんな食べ方であろうと、本人がおいしければそれでいいではないか、というのがわたしの持論だ。しかし、それでもひとこと、言っておきたかったので、ここに書き残す。

 

●Comment. 11(C.K.さん)

私も、年に5〜6回、N.Y.とD.C.に滞在するのですが、今日Mihoさまが書かれていたセントラル・パークについて、どうしても聞きたいことがあって・・・。ちょっと時間ができた時や、気持ちの良い朝など、運動不足解消のためにもジョギングを・・と出かけるのですが、いつもあの馬糞に悩まされてるの! この時期はまだ良いと思うのですが、春先の風の強い日など、深呼吸どころか息をするのも体に悪そうで・・・。ほこりみたいな馬糞がもうもうとたちこめているでしょう? あれ、どう思います? Mihoさまのような、既にニューヨーカーとなっている女性は、平気なのかな? 私のように、たまに行くヒトは、おちおち走ってもいられないのよ。まだ、D.C.のCapitol周辺を走っている人達のほうが、健康的というか・・。なんだかヘンな事ばかり書いてしまって、すみません。(一部抜粋)

>>走っているルートがまずいと思います。馬糞というのは、観光用馬車の馬が落としていくもので、その観光ルート上は、確かに走るに苦しいものがあります。匂いが甚だしいのは公園南端の大きな通りかと思いますが、それは公園のごく一部です。

私が走るルートは、南西端のコロンバスサークルを起点に、反時計回りでイーストドライブを抜け、メトロポリタン美術館の裏側を通過します。ここまでの間、一部馬糞ルートを通過しますが、「もうもうと立ちこめる」ほどではないので、やや呼吸を控えめにしてさりげなくやりすごします。

ほどほどにしたいときは、86ストリート辺りでUターンし、帰り道、湖で白鳥やカモを眺めたりして帰りますが、気合いが入っている時は、更に北上して、ジャクリーン・オナシス貯水池を一周して戻ります。

私は、寒くなると急に「根性なし」になるので、走りません。そういえば、そろそろニューヨーク・シティマラソンの季節ですね。

セントラルパークはとても広いので、今度いらしたときには、馬糞ルートを外されることをお勧めします。いくらニューヨーカー化しているとはいえ、私も日本人としての嗅覚は失っていないので、馬糞はとても臭くていやです。でも、「もうもうと立ちこめるほどではない」と感じていること自体、すでに鈍っているのかもしれません……。


Back