坂田マルハン美穂のDC&NYライフ・エッセイ

Vol. 106 11/29/2003

 


現在、米国はサンクスギビング・ホリデーのまっただ中です。年に一度、家族や親戚が集まる大切なイベント。その日にいきなり、イラクに行ったブッシュ大統領。彼を支持する支持しないは別として、それがパフォーマンスだということも十分理解した上で、しかし、随分と思い切った行動に出たものだと驚きました。

ここしばらくのわたしは、まもなく終わる学校の提出物やプレゼンテーションの準備に追われています。ファイナルの、リサーチ・レポート(研究論文)のテーマは、最初、「アジアのブレイン・ドレイン(頭脳流出)」にしていたのですが、途中から「インドのブレイン・ドレイン」になり、最後には「インド経済のこれから」になってしまいました。

最初の頃は、とても読みたくない、と思っていたものをなんとか読めるようになり、とても書けないと思っていたことが書けるようになり、まだまだ下手な文章とはいえ、英語で書くことがあまり億劫ではなくなったのは、たいへんな収穫だと思います。

学校は残すところ2週間で、しかも来週はパワーポイントでのプレゼンテーションが3本。「インド経済のこれから」、「アジアのブレイン・ドレイン」、そして「アントレプレナー(起業)」についてをやります。

「アントレプレナー」については、本当は何らかの記事を参考にしてプレゼンをするべきなのですが、思い切って自分のニューヨークでの経験をまとめることにしました。自分の米国生活のこれまでを、「英語」で「筋道立てて」復習するのにいい機会だと思います。

本当はこの連休中に、せめて2日間だけでも勉強をしようと思っていたのですが、今日は土曜の朝。あまりにも天気がよく、しかも、昨日までは食べたり飲んだりで身体がなまっているので、これからA男と出かけようと思っています。明日から集中してがんばらねば、というところです。

さて、今日もまたパーティーの話題です。前回にひきつづいて少々くどいかとも思いましたが、サンクスギビングデーは、はずせないパーティーですし、今回はなんと、ターキーを焼いたりもしたので、そのこともぜひ書いておきたいと思ったのです。

食べることが好きな方のために、結構、詳細まで書きました。写真とレシピはホームページに掲載しているので(「マルハン家のアルバム」)、ぜひお訪ねください。

 

■今年もサンクスギビング・ホリデーがやってきた!

DCへ移って2度目のサンクスギビング・デー。今年は渡米以来初めて、サンクスギビング・ディナーを我が家で開催することにした。この日、多くのアメリカ人は故郷を訪れ、家族や親戚と共に過ごす。

そうでない人たちも、旅行に出かけるなど、4連休を楽しむのが常だ。さらにこのホリデーに欠かせないのが「セール」。サンクスギビングデー当日は、閉店する店が多いが、翌日は打って変わる。

どのデパートやショッピングモールも「サンクスギビング・セール」と銘打った、ホリデーシーズン開幕を告げるセールを華々しく行うのだ。たっぷりと食べ過ぎてお腹いっぱいになった翌日、買い物で「運動をする」といったところか。

 

■人生初、ターキー焼きに挑戦! まずはターキー選びから

「今年はターキーを焼くよ!」

そうA男(夫)に告げるなり、彼は

「えーっ。そうなの? ぼくは去年みたいに、プライムリブがいいなあ」と言う。

一般に、ターキーは、パサパサしていているので、あまり好きではない。少なくとも、私たち夫婦はほとんど食べない。だから去年は、知人宅でパーティーを開いた際、ビーフを焼いたのだった。

しかし、今年は、なんだかともかく、ターキーが焼きたくなった。それに、丸ごと焼くターキーは、平時よりもかなりおいしいのだ。A男が何と言おうと、今年は焼くのだ。

まずは、パーティーの二日前に買い物に出かける。ターキーは早めに購入しておいて、冷蔵庫内で解凍しておく必要があるからだ。冷凍していないものも売っているが、お値段が跳ね上がるので、まあ、初心者でもあることだしと、冷凍物を購入。

冷凍物とはいえ、フリーレンジ(地鶏)だから、クオリティは悪くないはず。さて、悩むべきは、どのサイズを購入するかだ。1人当たり1ポンド(453グラム)という説に従い買うべきか。しかし、その説はアメリカ人の胃袋を基準にしているからちょっと大すぎやしまいか。しかし、物足りないよりは豪勢なほうがいいような気がする。

パーティーのゲストは、最低13名。多くて15名の予定である。売っているのは8ポンドくらいから25ポンド以上までと幅広い。

肉売場で、あれでもない、これでもないと、ターキーを、かきわけ、転がし、形を眺め、思案しつつ、結局は、形の良さそうな(どれもほとんど変わらないのだが……)約16ポンドのものを購入。余ればみんなに持って帰ってもらえばいいし、レシピも14-16ポンドのターキーを対象にしているからちょうどいいだろう。

今までチキンの丸焼きを焼いたことは何度かあるが、ターキーはチキンとは比べ物にならないほど大きいし、うまくジューシーに焼けるだろうか……。

わたしが今回参考にするのは、マンハッタンのアッパーウエストサイドにある「Good Enough to Eat」のレシピ。おいしいパンケーキやワッフルなどのブランチが人気のアメリカ家庭料理店で、マンハッタンに住んでいた頃は、よく出かけた。

以前、取材に行ったとき、オーナーのキャリーが自著のレシピブックをくれたのだ。今回、『muse DC』5号でこの本の中からターキーの作り方を日本語訳して紹介したこともあり、このレシピに従うことにした。

ちなみに同じターキーを焼くでも、スタッフィングをはじめから詰める場合と、あとから詰める場合、詰めないまま焼いて、別々に食べる場合、といろいろあるが、この本は焼いてから詰めるスタイルだ。

 

■7時起床。ターキー焼きは時間がかかるから寝坊は禁物

準備、焼くのに4時間かかったとしても、パーティーは2時からだし、9時頃から準備しても間に合うのだろうが、何らかのトラブルが起こらないともかぎらない。時間に余裕をもって物事をすすめたい傾向にあるわたしは、張り切って7時起床。

いつものようにヨガを1時間やる予定で早く起きたのに、なんだか落ち着かず、30分で切り上げて料理に取りかかる。ほどよく解凍されたターキーをキッチンの上にドスンと載せる。さあ、いよいよ始まりだ。

ともかく大きい。シンクがいっぱいになるサイズだ。お腹の空洞から首の部分を取り出す。内臓類(レバーなど)も入っているはずだが見つからない。おかしいなあ、レバー類はグレイビー・ソース作りに使うのに……、このターキーには入ってないのかなあ。と思いつつ、洗い始める。

表面、お腹の中身など、洗っていると、ターキーのお尻から、なにやら「ボトリ」と落ちてきた。一瞬、ギョッとする。それは紙に包まれたレバー類だった。やだなあ、もう。首と一緒に胴体に入れてくれればいいのに、なんでお尻のあたりに詰められてたのかしらん。と一人つぶやきつつ、それらも洗う。

さて、洗ったターキーをしっかりと拭いたあと、塩コショウを全体に塗りつける。そうして、サイコロ状に切ったバターをぎゅうぎゅうと練るように塗る。しかし、うまく塗り込めない。オーブンで溶け始めたところを刷毛で塗ればいいや、と、バターを全身にくっつけたターキーを華氏300度に設定したオーブンに入れる。

その間にターキーの中に詰めるスタッフィング作りだ。乾燥したパン(クルトン状)を使用するのが大前提だが、各家庭それぞれに独自のレシピがあるようだ。

わたしが作るのは、ドライフルーツやナッツ、リンゴなどがたっぷり入ったフルーツ風。ちなみに、ソーセージのスタッフィングを持ってきてくれるというゲストがいるので、ちょうどいいバランスかもしれない。

作っている最中に、何度も、レシピを見直す。わたしが間違って翻訳したのではないかと不安になるほど、全体に量が多いのだ。英語の本そのものを見直すが間違いはない。だいたい、乾燥パンの量が多すぎる、2ポンドと指定されているところを1.8ポンド一袋、購入したのだが、我が家最大のボウルが埋まってしまった。

しかし、どう考えてもリンゴ6個は多すぎだ。これは間違いに違いない。大ぶりのフジを2個、切ったところで包丁を止める。それにしても、こんなにたくさんの材料を、いったいどうやって混ぜればいいのか。我が家の特大ボウルはすでに総動員している。と、閃いたのが、パーティー用のドリンク・クーラー。

氷を入れてビールなどをいれておくプラスチック製の大きな容器だ。それを取りだしてキッチンに置く。みじん切りにして炒めたタマネギとセロリ、各種ドライフルーツや卵、アップルジュース、スープストック、バター、乾燥パン、何もかもを放り込み、手でガシガシと混ぜる。

こんなことでいいのだろうか……。という思いがよぎる、ダイナミックかつ、繊細さのない調理風景である。ま、アメリカだもの。こんなものだろう。

ガシガシと混ぜたらパンが水分を吸収して、かさが小さくなった。小さくなったとはいえ、大きなボウルにいっぱいである。こんなにたくさん、食べられるのだろうか。

ところで、パーティーに来られなくなった人が数名いたため、参加者は合計11名(うち1名は2歳児)、つまり実質10名である。どう考えてもこれは多すぎだ! と思いつつ、もう、止められない。

 

■こんがり、うまい具合に焼けた! あとはゲストが来てから

ターキーがオーブンに入っている間、スタッフィングを仕上げ、マッシュドポテトを作り、野菜のグリルの下準備。スイートポテト、ズッキーニ、フェネルなどを乱切りし、鉄板に並べておく。ターキーを温め直す際、オリーブオイルとアップルジュースを振りかけて、一緒にオーブンに入れるのだ。

ホールフーズ(オーガニック食品を扱うスーパーマーケット)で買っておいた、おいしいイタリアンブレッドを3種類とバケットなども少しずつ切って器に入れ、ナプキンに包んでおく。

それから、お気に入りのチーズの準備。ノルマンディーのブリーにイタリアのパラーノ、それにニューヨークから来たフレッシュ・モッツァレラチーズ。プチトマトみたいな小さなサイズのかわいいモッツァレラだ。

それらを少しずつ、器に盛る。それから、フランス産の小さなトーストのようなクラッカーのようなスナックも添える。これに、まろやかに溶けたブリーと、いちじくのジャムなどをつけて食べると、とてもおいしい。

ちなみに、今日は、イチジクのジャムではなく、サンクスギビングデーならではの「クランベリージャム」を添えておいた。

それから、グリーンのオリーブの実。以前、ポルトガルに行った折に田舎の陶器屋で購入した、オリーブの実を入れるかわいい器に盛る。この器には、種をいれる小さなくぼみがあるのだ。

飲み物は、リーズナブルだけれどおいしい、お気に入りのカリフォルニアワイン、ベリンジャー(Beringer)のカベルネ・ソヴィンニョン(赤)とシャルドネ(白)を数本ずつ、それにビールやペリエなどのドリンク類を用意する。

サンクスギビングデーのパーティーは、たいてい2時頃から始まり、三々五々、集まった人からアペタイザーやスナックなどを食べつつ、飲み物を飲みつつ、会話を楽しむ。そして、ゲストの面々がそろったあと、3時過ぎから4時あたりになっていよいよ、「サンクスギビング・ディナー」が始まるのである。

最初にアペタイザーなどを食べ過ぎると晩餐に差し支えるので、このあたりの「胃袋調整」が難しいところ。渡米直後の年、初めてA男の親戚宅に招かれたときは勝手がわからず、すすめられるがまま、前菜やスナックを食べてしまい、ターキーが出てくる頃にはすでにお腹がいっぱいになりつつあった。

ターキーのあとにもパンプキンパイやアップルパイが続出し、食べたいがもうだめだ、別腹云々の騒ぎではない、という事態に直面したものだ。あれには参った。

従って、ジャンクなスナックなどはほとんど用意せず、全体に少量ながらおいしいものを、用意した次第である。

昼頃にはターキーもいい具合に焼け上がる。肉汁を別の鍋に移し、一緒に焼いておいた内臓類をみじん切りし、パセリや小麦粉、スープストック、ワインなどを加えてグレイビーソースを作る。

粗熱がとれたターキーにスタッフィングを詰め込み、余った物は(たくさん!)耐熱容器に入れ、全部まとめてオーブンへ。あとはゲストが来て、食べる30分以上前にオーブンのスイッチをいれればOKだ。

全体に大きい、量が多い、というだけで、作業自体はさほど難しいものではない。ターキー焼きは火加減が難しいとも言われるけれど、自分で火をおこす訳じゃないし、オーブンがやってくれるのだもの。簡単なものである。

ただし、老朽化したオーブンなどが、正しい温度設定をできず(アメリカにありがち)、うまく焼けない、ということはあり得そうだ。

 

■そしていよいよ、パーティーのはじまり……

パーティー開始予定の2時には準備を整える。シャワーを浴び、服を着替えて、リラックスしてゲストを待つ。無論、時間通りにぴったり始まるわけではないから、余裕である。

冬の到来を知らせる飲み物、「ホットサイダー」も作る。茶褐色のアップルジュースに、シナモンやオレンジ、クローブなどのスパイスを入れ、温めて飲む、甘酸っぱくてやさしい飲み物だ。

今朝は軽くトーストを食べただけなので、お腹がすいて仕方がないが、今食べてはいけない、と我慢する。

2時すぎに友人のアイさんと夫のトム、その妹のパトリシアがやって来た。彼らは例年、トムの実家に帰るのだが、今年の帰省はクリスマスだけにしたとのこと。トムが、母親直伝の「ソーセージスタッフィング」を作ってきてくれた。それからスイートポテトのサイドディッシュと、アイさん特製のパンプキンチーズケーキ、それも2個!

その後、日印カップルのノリコさんとアヴィナッシュ、サヤカちゃん登場。きれいにラッピングされた手作りのクッキーがおいしそう!

最後のゲストはミチさん一家。去年、ホワイトプレーンズで『街の灯』のサイン会をした折、メールマガジンを愛読してくださっているミチさんが氷雨降る悪天候のなか、駆けつけてくれたのだ。

今回、サンクスギビングホリデーに、ご主人とご子息(シュン君)の3人でワシントンDC観光を予定しているとのことだったので、パーティーにお誘いした次第。ケーキやお菓子をたくさん携えて来てくれた。

アイさんとミチさんはサロン・ド・ミューズの会員でもあり、掲示板などで「おなじみ」だったのが、この日、初対面で、サロン・ド・ミューズの現実版となった。互いに自己紹介をしつつ、飲み物など飲みつつ賑わうも、みな、どうやら朝からパーティーに備えて、ほとんど軽食しか食べていない模様、相当にお腹がすいている様子がうかがえる。

さっそく、温めて直しておいたターキーやその他の料理をテーブルに並べる。どれもおいしそうだ! でも食べる前に記念撮影! 

その後、参加者唯一のアメリカ男児であるトムにより、ターキーが切り分けられる。

「早く食べたい!」という皆の視線がターキーに集中する。

そしていよいよ、各自お皿を持ってのディナータイム。

最初の一口二口は、「う〜ん、おいしい!」などと言い合っていたが、直後、みな、カニでも食べているのか! というほどに、しんと静まり返り、黙々と食に集中。

そんなに空腹だったのか、みんな! 準備万端すぎるというものだ。

一皿目を終えたあたりで、みな余裕が出てきて、会話が弾み始める。みな、2周、3周と、料理を皿に盛り、食べる。

ターキーは、グレイビーソースをかけると非常においしく、スタッフィングともよく合う。初めての割にはとてもうまくいった。うれしい。ターキーはいやだと言っていたA男も、喜び勇んで食べている。

トム作ソーセージのスタッフィングなどもまた、「アメリカの母の味」という感じがして、とてもおいしかった。

 

■食べ、語り、飲み……。楽しい一日が終わった

今回は人数が少なかったけれど、その分、リラックスして、みんなとゆっくりと話ができ、いつまでも食べたり飲んだりしながら、本当に、いい一日だった。デザートも、どれもとてもおいしかった。

瞬く間に時間が過ぎて行くけれど、ゆっくりと、いつまでも、食べたり飲んだりし続けるのがこの日のスタイルだから、みんなのんびり、過ごしていってくれた。

料理の残りは、ジップロックに詰めて、みなに持って帰ってもらったにも関わらず、大量に残ってしまった。全体に、3分の2でも十分だった気がする。

これから先、数日はターキーづくしになるのか……。スタッフィングは当初の予想どおり、相当に余った。小分けにして、冷凍保存するしかあるまい。

来年は、どこでどんなサンクスギビングデーを過ごすのか想像もつかないが、またパーティーを開くことになったら、やや少なめに作ろうと思う。

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濃密なパーティーが終わり、みんなが帰ったあと、部屋やキッチンを片づける。この後かたづけを、わたしは嫌いではない。食器やグラスを洗浄機に入れ、ゴミを捨て、掃除機をかけ、家具を元の位置に戻し、そういう作業をしながら、パーティーの余韻に浸る。

そうして、片づけが終わったら、熱いシャワーを浴びる。心地よい疲労感が、じわじわと癒されていく。

そう。今日はサンクスギビングデーだったのだ。こうして、おいしいものを豊かに食べることができ、温かな人たちに恵まれた自分の今の境遇に、感謝する。

私たち夫婦には、米国に身近な家族がいないけれど、こうして楽しい一日を過ごせるというのは、とても幸せなことだと思い、そのことにも感謝する。

(11/29/2003) Copyright: Miho Sakata Malhan

 


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