坂田マルハン美穂のDC&NYライフ・エッセイ

Vol. 107 12/14/2003

 


いよいよ12月も中盤となりました。昨日、ついに4カ月の学生生活を終えました。そして、明日の日曜日、インドに向けて出発します。オランダのアムステルダム経由でデリーに入ります。

今日、土曜日は、部屋の掃除をして、仕事や会計処理などをすませ、そしてインドの家族へのお土産を買いに、これからA男と買い物に出かけるところです。本当は、もう、コンピュータに向かっている時間的な余裕はあまりないのですが、でも、旅行の前に一度は書いておきたいと、キーボードを叩いている次第であります。

少々気ぜわしいなかの文章であるため、内容が散漫になってしまうかもしれませんが、ご理解くださいませ。 

●研究論文書きあげ、プレゼンテーションやり終え、学生生活が終わった。

サンクスギビング・ホリデー明けの翌週は、本当に気合いを入れて勉強をした。

学校のクラスは3つあるのだが、たまたまスケジュールの都合上、わたしのプレゼンテーション(聴衆の前で、自分の研究内容などについてを発表する)がファイナルプロジェクト(最終の研究課題)を含め、よりにもよって同じ週に重なり、水・木・金の三連続でプレゼンテーションをやらねばならなかったのだ。

ちょうど年末進行の仕事と重なり、仕事そのものは大して時間のかかるものではなかったものの、なにしろ勉強の方が日本語ではなく「英語」にての作業だから、経験値が余りに少ないため時間が読めず、どうなることかと思った。

プレゼンテーションは、いずれもパワーポイントというコンピュータのソフトウエアで資料を作成し、それを映写機で映し出しながら、説明していくというもの。

従って、まずは情報を集め、全体の構想を考え、それから重要な部分を抽出し、文章や写真、地図、グラフなど図版を用いながら、パワーポイントで資料を作っていく。

わたしは、この学校に入る前までは、パワーポイントを使ったことがなかったが、「大切なことをわかりやすく相手に伝える」という意味では、普段の仕事(雑誌や広告のレイアウトなど)と似ているので、操作方法を模索しながら学ぶうち、どんどん楽しくなってきた。

パワーポイントを作り上げると、今度は口頭で、いかに説明するかの文章を考えねばならない。そして、プレゼンテーションごとに設定された時間(10分〜20分)内にパワーポイントを用いながら、説明する。その練習もせねばならないから、結構時間がかかる。

前号にも書いたが、初日のプレゼンテーションは、「インド経済のこれから」がテーマ。そもそもはインドの「ブレインドレイン」(頭脳流出)について研究論文を書くつもりだったが、書き始めているうちにも、米国企業がインドへと進出し始め、米国在住のインドの「頭脳」が帰国し始めている、つまり「ブレインサーキュレーション」(頭脳循環)現象がメディアにて顕著に取り上げられはじめた。

この2カ月の間に、ニューヨーク・タイムズは台頭し始めたインド経済についてを数回取り上げ(これまではインドの天災とか貧困とか奇習などばかりを取り上げていたのにも関わらず)、さらには、論文の「提出日前日」に、ビジネス・ウィーク誌が「THE RISE OF INDIA(インドの幕開け)」というタイトルで、10ページ以上に亘る特集を組んでいるのを発見!

読んでしまったら、気分的に書き直さねばならなくなるのは必至だから、仕方ない、気づかなかったふりをして、何事もなかったかのように提出しようとしたら、翌日、プロフェッサー(教授)が、なんとビジネス・ウィーク誌を持って授業に出てきた。

「ミホはすごくいいタイミングで、インド経済についてをリサーチして、びっくりしたわ〜!」

と、褒め上手な教授に着眼のよさを褒められてうれしかったが、しかし、やはり新しい情報も取り込むべきだと諭され、一人、提出期限をのばしてもらい、新たに情報を加えた。はっきりいって、もういや! というくらいだったが、今となっては、やり遂げてよかった。

論文はインドに持っていって、インドの家族に見せようと思う。ふふふ。

そんなこんなで、水曜日は論文のテーマである「インド経済のこれから」を、木曜日は、別のクラスにて「アジアのブレインドレイン」(論文のちょっと二番煎じ)を、そして最後のクラスでは「アントレプレナーシップ(起業家精神)」をやった。

アントレプレナーシップのプレゼンテーションの準備は、時間がない云々の域を超え、かなりの情熱で準備した。テーマは「外国人が米国で起業する方法」。これにケーススタディ(事例研究)として、自分がニューヨークで起業した経緯を織り交ぜつつ、語ったのである。

何しろ時間が限られていたので、ずいぶんと端折ったが、これはもう、口頭説明の準備をせずとも、いくらでも言葉が出てくる。

そしてプレゼンテーション。そもそもは人前で話すのは、日本語ですら緊張するタイプだったけれど(最初の数分がとても苦手。しばらくすると大丈夫)、これまで、クラスでも何度かスピーチをさせられることがあり、だから4カ月のうちにずいぶんと慣れてはいた。

しかし、パワーポイントを使ってのプレゼンテーションは初めてだったから、うまくいくかどうかと、初日は少し緊張していた。2日目にはずいぶん慣れ、3日目にはもう、人前でしゃべるのが楽しく感じられるくらいだった。たいへんな急成長ぶりである。

まだまだ文法の表現などに問題はあるし、的確な話し方や発音などは練習しなければならないけれど、自分でも最後のプレゼンテーションは、かなりうまくいったと思う。クラスメイトたちも非常に興味を持ってくれて、質問も多かった。

1時間でもしゃべり続けられると思うくらい、次々に、訴えたいことが出てきた。むしろ不完全燃焼だったくらいだ。

4カ月間。目に見えて、なにかがみるみる変わった訳じゃない。けれど、今まで、読むのが億劫だった新聞を、ずいぶんと気軽に読めるようになった。英語で文章を書く際の気負いもなくなった。話すときに、新しい単語を使おうと努力するようになった。

そして、これから、どうやって勉強をし続けていけばいいのか、というヒントを得た。

それより何より、わたしはクラスメイトに恵まれていた。本当に、すばらしい人たちに囲まれて、勉強ができたことが、何よりの財産となった。ここで、クラスメイトたちの研究論文のテーマを紹介したい。

◎Temporary Protective Status (TPS) for U.S. Immigrants
米国移民の一時保護ビザ:コロンビア人女性(ロイターのジャーナリスト)

◎The Power of Brand Name
ブランド・ネームの威力:メキシコ人女性(デザイナー志望の学生)

◎The Internet Generation
インターネット世代:アルゼンチン人女性(心理学者&二児の母)

◎U.S. Public Diplomacy in the 21st Century
21世紀の米国外交:韓国人女性(テレビレポーター→米国大学に進学)

◎The Role of NATO in the Kosovo Conflict
コソボ紛争における北大西洋条約機構の役割:コソボ人女性(かつて国連勤務、一児の母&妊娠中)

◎The Effects of Globalization on South Korean Youth Culture
韓国の若者文化にみるグローバリゼーションの影響:韓国人(弁護士志望学生)

◎The Self-Identity of Taiwanese
台湾人のセルフ・アイデンティティ(自己認識):台湾人女性(マスコミ関係)

◎Controlling Weapons of Mass Destruction (WMD)
大量破壊兵器規制:韓国人男性(政府機関勤務、本日!一児の父になる予定)

◎Public Support for U.S. Small Businesses
米国におけるスモールビジネスへの公的支援:日本人男性(金融機関勤務)

◎A Proposal on English Education in Japan
日本の英語教育に対する提案:日本人女性(英語教師)

◎International Aid for Afghan Refugees
アフガニスタン難民への国際援助:日本人女性(通訳)

◎Child Labor in Mexico
メキシコにおける児童就労:メキシコ人女性(ケイタリングビジネス計画中)

◎The New Indian Economy
インド経済のこれから:日本人女性(出版社経営、ライター)

◎Women's Rights under Islamic Law
イスラム法における女性の権利:サウジアラビア女性(元教師、一児の母)

このテーマをざっと眺めるだけでも、どんなにユニークな面々が揃っていたかが伺い知れるかと思う。テーマそのものは、少々堅苦しいが、みな気さくで朗らかで、ひとり一人のことを書き綴って紹介したいほど、魅力的な人たちだった。

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■12月13日午後10時半

今、買い物から戻り、就寝前のひとときです。本当は、あと2、3テーマ、書きたいことがあったのですが、準備もありますので、この辺にしておきます。

ところで、明日14日は、インド旅行に出発する前に、A男の会社の恒例のクリスマスが開かれる予定でした。

メールマガジンの87号で、去年のクリスマスパーティーのことを書きました。以下はその一文です。

「ワールドコムのCEOに就任した途端に破綻騒ぎに巻き込まれたジョン・シッジモア氏も来ていたが、心なしか表情に精彩を欠いていて、しかも太っていた。ストレスで太ってしまったのだろうか」

その彼が、12日、急逝しました。腎臓系の合併症だといわれていますが、明らかに極度のストレスが原因だったと言われています。とても寛大でユーモアのある、そして若手に慕われる、人格のよさが評判の、インターネットの先駆者だった彼は、まだ52歳でした。妻と13歳の息子が残されました。

氏はA男の会社のパートナーでもあり、A男のボスの古くからの親友でもあったため、もちろん、明日のクリスマスパーティーは中止となり、A男は明朝、シッジモア氏の葬儀に参列したあと、インドへ向かうことになりました。

最近、命や仕事やお金について、考えさせられる出来事がとても多く、本当はそのことも書いておきたかったのですが、慌てて書ける内容でもないので、また号を改めて書くことにします。

最後に、昨日のホームページの日記から、一部を抜粋します。

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今日は卒業式だった。とうとう終わった。卒業式の間、人々のスピーチを聴きながら、もっともっと、色々と勉強したいと思った。

さっき、クラスメイトたちの略歴を記した小冊子を読んでいた。本当に、優秀で、豊かな経歴を備えた人たちばかり。そんな彼らと4カ月、ともに学べたことを、本当に幸運に思う。

別に、学歴がよければいいというものではない。しかし、そこには、「努力してきた人」だからこそのプロセスが、くっきりと見て取れる。どんな分野にせよ、無論、それは学業に限ったことではないが、難解な事柄を、スイスイと解決できる能力を持っているというのは、まったくもって、格好いい。

わたしは、自分自身の責任における、挫折や努力不足で、希望する高校に行けず、かなり苦い十代を過ごした。だからその時期、努力して、さらにそれを継続しながら生きている人を見ると、ついつい、感心させられるのだ。もちろんA男も含め。

学歴というのは、学歴そのものよりも、将来の選択肢を豊かにするという上で、あるに越したことはないと思う。無論、それをどう生かすかは個々人の問題だし、学歴のある人が=優秀であるとも限らないのは当然のことだ。

学校に頼らずとも、自分自身の力で「学び」、知識をつけ、人生を豊かにしている人は大勢いるから、「学歴」という言葉を使用するのは適切でないかも知れない。が、便宜上、使用する。

「学ぶこと」を通し、さまざまを知ることで、世界観が広がっていくのは楽しいことである。

クラスメイトのサニー(韓国人女性)が、昨日、アメリカン大学の大学院(専攻は国際情勢)に合格した。26歳になったばかりの彼女は、これから2年間勉強して、更にキャリアをつける。

その彼女が、卒業式でスピーチをした。わたしより1つ年上のクラスメイトが、スピーチを聞きながら、見守る「母親の気持ち」になったという。

一方のわたしは、たとえ他のクラスメイトと年が離れていたとしても、まったくそういう気分にならないのだ。厚かましくも、自分はまだ、彼女たちとさほど変わらない場所にいるとさえ思う。つまり、真にクラスメイトとして、同じスタートラインに立っている気がしていた。

だから、別のクラスメイトの一人(韓国人22歳)が、「ミホはわたしのお母さんに似てる!」と言ったときには、一瞬「?」と思った。ちょっぴり心外だった。せめて「お姉さん」にしてほしかった。もちろん、笑顔で「あら、そう?」と答えたおいたけど。

それはともかく。わたしも、まだまだ、色々なことを勉強したいと、痛切に感じる。そして、わたしは、これからどういう方向に進んで行くべきなのだろう、かとも、考える。

そして更には、どうやって、自分が学んだことを、社会へと還元して行くべきだろうか、ということも考える。多分、それが、一番のテーマだ。

A男と暮らし、あくせくと働かなくても生活できるだけの基盤があり、考えられる時間が与えられているということは、本当に幸せなことでもあると思う。

今こそ、いろいろな、周囲の声を遮断して、自分の発する声に耳を傾けるときだろう。世の中は、情報や干渉が多すぎる。アドバイスと干渉の区別をつけるのもまた、自分の判断力だ。以前も同じようなことを書いたけれど、本当に、自分の内なる声に、耳を澄ませようと思う。

世界がぐるぐると動いていくのがわかる。めまいがするくらいだ。数日前など、ああ、本当にめまいがする、と思ったら、地震だった。そうそう、DCに来て初めて、地震を感じたのだ。午後4時くらいだったろうか。かなり揺れた。めまいじゃなかった。

それにしても、卒業式での、サニーのスピーチは、本当にすばらしかった。本当に、目頭が熱くなった。

やっぱり、悔しいくらいに、アメリカという国は、こうして、世界のさまざまなすばらしい人たちを集める力を持っている。その場にいられたことを、もう、しつこいくらい書いてるけれど、幸せに思う。

式のあと、みんなでピッツェリア・パラディソに行き、ピザを食べた。明日メキシコに帰るマリアーナが涙ぐんで別れを告げるので、思わず抱き合いながら、泣けてきた。みんなが結婚式の折には、彼らの国を訪れたい。メキシコ、韓国、台湾へと、おしかけて行こうと思う。

ああ、なんて、特別な4カ月だったろう! いろいろと、ありがとうございました!

この機会を与えてくれた、A男にも感謝!

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■12月14日午前9時

いつものようにヨガをして、今、お茶を飲みつつコンピュータに向かっています。窓の外は雪です。A男は葬儀に出かけました。わたしはこれから荷造りの最終チェックをして、身の回りの雑事を済ませ、午後2時にはここを出ます。

飛行機が雪に負けず、ちゃんと飛ぶことを祈ります。インド行きの飛行機は、ともかく猛烈なこみようで、キャンセルが出たらたどり着けそうにありませんから。

それでは、読者の皆様方。今年も発行頻度の浅い、わがメールマガジンを読んで下さって、ありがとうございました。インドからは30日にこちらへ戻ってきます。多分、次回のメールは2004年になると思います。

なんだか、ものすごく、書き足りない気分ですが、この気分を来年への踏み台にしようと思います。

よい年末年始をお過ごしください。

(12/14/2003) Copyright: Miho Sakata Malhan

 


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