ニューヨークで働く私のエッセイ&ダイアリー

Vol. 16 11/20/2000

 


ご無沙汰しておりました。

前号を発行してから10日あまり。何だか随分長いこと、メールマガジンを書いていないような気がします。今は11月18日土曜日の午後5時。すでに日はとっぷりと暮れています。仕事が一段落し、久しぶりに気分に余裕が出てきました。

日本では、1年の終わりが近づいてくると、出版や広告業界などでは「年末進行」と称して、さまざまなスケジュールが前倒しにされます。5年前までは、働けど働けど、仕事の山は片づかぬ……、という日々を送ったものです。ちょうど今頃からの時期です。しかも日本の場合、それに忘年会などが加わり、独特の気ぜわしさに包まれます。

それに比べれば、マンハッタンでの仕事は、まだ気が楽かも知れません。

アメリカでは今の季節、世の中の流れが「年末進行」ならぬ「ホリデー進行」となります。10月末のハロウィーンあたりから、人々の気持ちは徐々に浮き足だってきます。11月中旬ごろから街路樹にネオンがともりはじめ、いよいよサンクスギビングデー(11月の第四木曜)がやってくると、否応なくホリデー気分が高揚し、そのままクリスマスに突入、大晦日にハッピーニューイヤーとなるわけです。

ちなみに、サンクスギビングデー(感謝祭)とは、農作物などの収穫を神に感謝する日で、普段は離れて暮らしている家族が一堂に会し、食卓を囲みます。お母さんが作った丸ごとの七面鳥がメインディッシュで、一家の長であるお父さんが切り分けます。デザートのパンプキンパイも欠かせません。サンクスギビングデーの前日は、午前中で仕事を終え、午後はふるさとへ帰る人も多く、主要道路は込み合います。日本のお盆のようですね。

わたしはA男と出会って4年ほどたちますが、毎年、アッパーイーストサイドに住む彼の親戚の家に招かれて、サンクスギビングのランチをごちそうになります。今年も招かれています。その時の模様は、また改めてご報告します。

多くの会社が木曜から日曜まで4連休になるので、海外旅行などに出かける人も多いようです。サンクスギビングデーは、街のショップやレストランも閉店するところが多く、帰る場所のない「一人暮らし」の人にとっては、ちょっと寂しい一日でもあります。

マンハッタンの短い秋は瞬く間に過ぎ去り、街はすっかり冬となりました。吹く風は冷たいけれど、街のネオンは美しく、クリスマスの飾り付けも着々と進み、なんだかワクワクしてきます。4年前、初めてニューヨークでクリスマスを迎え、街のイルミネーションを見たときは、本当に感激しました。

アメリカ人は、子供のころから大人びてはいるけれど、その一方で、大人になっても子供っぽい一面を色濃く残しているように思います。よくいえば、大人になっても、分別臭くならず、子供が持っているような、新鮮で好奇心に満ちた感性で、物を作り上げているような気がするのです。

オフィスビルに飾られる、大きな大きな積み木の兵隊、ビルごとギフトボックスのようにリボンがかけられるカルティエのビル、57丁目と5番街の交差点につるされる、巨大な雪の結晶のようなネオンなど……。見ていると、本当に心が高揚するものです。

さて、今日は、この10日余りの出来事の中から、思いついたことをパラパラと書き留めてみます。

 

●チョコレート三昧の日々

muse new yorkの冬号(12月上旬発行)は、巻頭で、以前取材にでかけたハーシーの街を紹介し、さらにマンハッタンのチョコレートショップを紹介することにした。紹介するからには取材せねばならない、ということで、先週の水曜日、チョコレートショップを巡った。ベルギーやスイス、フランスの高級チョコレート・ブティックを6カ所ほど訪ねる。

ほとんどの店で、おすすめのチョコレートを1粒、2粒、味見させてもらう。やはり食べなければ、正しい記事は書けませんから……。そのうちの1軒、ベルギーの老舗、レオニダスからは、中にクリームがたっぷりはいったプラリネという粒チョコの詰め合わせを、お土産にもらう。このチョコレートは、中のクリームがフレッシュすぎることから、日本へは検疫の問題で輸出できないとか。だからこそ、日本人にはニューヨーク(もしくは本国ベルギー)で試して欲しいと、マネージャーは力説していた。

さらに翌日、スイスのヌーシャテル・チョコレートの広報担当者からも、トリュフの詰め合わせが届く。うれしいけど、危険!!

なにしろ、チョコレートの記事を書いている間、頭の中はチョコレート一色に染まり、否応なくチョコレートの箱に手がのびてしまう。なければないで我慢するのだが、あるからいけない。4、5日、チョコレート三昧の日々を送ったところ、食べ過ぎのせいかニキビ(吹き出物?)がポツポツと出てきた。

以前、郊外にあるサラトガ・スプリングスという温泉地の記事を書いていたときには、温泉に入りたくて入りたくて仕方なくなって困った。むやみに肩が凝ってきたような気がして、たいへんなフラストレーションだった。

やむを得ず、昼間からバスタブにお湯を張り、以前、友達が日本からのお土産にくれたツムラの「登別カルルス」をハラハラとまいて、何とかその場をしのいだものである。

今、こうして書きながらも、温泉のことをまた思い出してしまった。日本のように風情のある露天風呂など、もちろんアメリカにはない。サラトガ・スプリングスにしても、鉱泉そのものの質はいいが、スパのように、個室でバスタブにお湯を張ってひたすら浸かる、というあんばいだから、なんの情緒もない。日本に帰りたいと思うことは、余りないのだが、「温泉」を思うと、いても立ってもいられなくなる。話題を変えよう。

 

●泥沼にはまったまま、米大統領選

この大統領選を通して、改めてアメリカという国の実態のひとつを見知った気がする。テレビなどでご覧になった方も多いかと思うが、ゴアとブッシュの勝敗を色分けしたアメリカ全図である。共和党のブッシュが勝利した州は赤に、民主党のゴアが勝利した州は青に塗られている。

ニューヨークやワシントンDCなどを中心とする東海岸、カリフォルニアを中心とする西海岸、つまり沿岸の州は青で覆われ、内陸部はほぼ真っ赤である。常々、私は「アメリカが好きでここに住んでいるのではなく、ニューヨークが好きでここにいるのだ」と思っているが、今回もその思いを新たにした。それにしても、アメリカがここまできれいに二分するとは思わなかった。

アメリカは余りに大きい国。アメリカは一つの国家であると同時に、州それぞれが別個に機能する地方分権国家であるともいえるから、一言でこの国を表現するのは本当に難しい。移民の国、自由の国、とはいうけれど、たとえば赤で塗られたエリアは、白人が主体で、閉鎖的、封建的な考え方を持った国民が少なくない。青のエリアはリベラル(自由な、偏見にとらわれない、進歩的、寛大)な人、知的階級層が多く、もちろん黒人をはじめとする各国からの移民も多い。

ゴアは、アメリカの「熱く動いているエリア」で支持されており、ブッシュは「けだるく停滞したエリア」で支持されているというわけだ。

国民投票でこのような国の実態が浮き彫りになり、この国に住んでいながら市民権を得てない私としては、半分傍観者の立場でこの状況を興味深く見守っている。

それにしても、フロリダ。日本をはじめ、世界各国のメディアは、アメリカの失態を鬼の首をとったかのように書き立てているが、このメールマガジンの読者の多くは、ひょっとすると、アメリカ人のだらしなさやいい加減な部分を少しでも知ってしまっているはずだから、さほど意外には思わなかったのではないかと思う。

紛らわしい投票用紙を作る、というのは、いかにもアメリカらしい大ざっぱさである。印刷物のいい加減な仕上がりについて、いつも泣かされている私にとっては、たいへん納得のいくニュースであった。レイアウトそのものにも問題があるが、印刷上のちょっとしたずれ、の許容範囲が、日本より遙かに広いから、時にとんでもない物を平気で作り上げるのだ。それにしても、なんであんな紛らわしい投票用紙を作ったのか。だいたい、老人ばっかり住んでるフロリダなのに、わかりにくいもの作ったら最後だと思うのだが。

アメリカのだらしなさと仕切りの悪さが一気に露呈した事件である。

それにしても、いつになったら大統領は決まるのか。どちらに決まってもこれから4年は、波乱含みであろう。

 

●毎月第二土曜は寿司半額デー

ミッドタウンウエストにある「寿司田」という店は、毎月第二土曜は、寿司が半額になる。結構、質のいい寿司を半額で食べられるというのは、かなりの魅力である。先週の土曜もまた、私とA男はその寿司屋に行った。その日だけは予約を受け付けていないから、30〜40分は並んで待たなければならない。私たちは受付に名前を残し、隣のバーで軽く飲みながら待つのが恒例である。以前は日本人ばかりだったが、最近は、うわさを聞きつけたのか、コリアン、チャイニーズの姿も目立つ。

ようやく席を確保し、まずは熱燗をオーダー。この日ばかりは太っ腹に、大トロ、ウニ、イクラ、アナゴなど、ちょっと値の張るネタも気前よく頼む。A男はインド人でありながら、日本人の私と食べ物の好みが酷似している。全く異なる環境で、違う物を食べて育ってきたにもかかわらず、あらゆる食べ物の嗜好が似ているというのは、不思議なものである。

従って、頼むネタの種類とその割合は、おのずと二人、同じになる。大トロは3つでサバは2つ、アマエビは1つにしとこうか……、アナゴは2ついるね。イクラは1つでいいよ……、サーモンは3つ、あ、茶碗蒸しを頼もう、それにハマチカマも食べたいね、といった、微妙な加減まで似ている。

このような話は「のろけ」になるのだろうか。

とにかく、お腹いっぱい、おいしい寿司を食べて、最後に抹茶アイスで締めくくって、幸せな夕餉であった。

 

●「3歳の子供が窓から転落、木に引っかかって助かる」

先日、日本の新聞で見たニュース。このような事件は、日本では時々起こっている。アメリカの場合、赤ちゃんや幼児を部屋に残して大人が出かけるなどということは、犯罪とみなされる。「木に引っかかって助かってよかったね」ではなく、「親はいったい子供を置いてどこへいっていたのか」がポイントとなる。

子供への体罰も虐待とされるし、子供が部屋で泣き叫ぶようなことが続けば、近隣の人が警察に通報する。日本では、親がパチンコに行っている間、子供が車の中で脱水症状を起こして死んだという事件がよく起こっているが、アメリカでは考えられないことだ。さっき、朝日新聞のウェブ版には、小学3年生の女の子7人が、絵画に似たモチーフを使った事に対し、教師から「服を脱げ」と言われ、全裸になることを強要されたという事件がのっていた。これもまた、アメリカでは確実に刑事訴訟となる事件である。

 

●オーストリアの登山列車、火災に思う

本当に、心が痛む事件である。「トンネルが煙突になった」という形容を読んで、2年前の冬が思い出された。

このビルは、1998年12月23日午前、火災に見舞われ、4名がなくなったのだ。52階建てのアパートの、うちは18階、出火元は、なんとこの部屋の斜め上、19階。詳細はホームページに延々と掲載しているので省くが、「ホーム・アローン」の主人公、マコーレ・カルキンの実家が出火元であった。そのこともあり、日本でも報道された火事だった。とにかくたいへんだった。私の隣の部屋、斜め前、向かいは全滅。みな引っ越していった。

わたしの部屋は、奇跡的にも、多少の水漏れで難を逃れた。その火事の際、非常階段で逃げようとした上階の住人が4名、煙に巻かれて亡くなったのだ。「非常階段が煙突になった」のである。

マンハッタンは火事が多い。しょっちゅう、消防車がサイレンを鳴らして街を駆け抜けていく。これからの季節、火の元には気を付けましょう。

ちなみに、火事のいきさつに興味がある方はこちらへ。

http://www.museny.com/salon/essay/essay.htm

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それでは、今日は、このへんで。


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