ニューヨークで働く私のエッセイ&ダイアリー

Vol. 3 9/30/2000

 


夕暮れ時。一日のうちで、マンハッタンが最も美しく見える時間帯です。この部屋(52階建てのビルの18階)は、東向きに窓があるので、ビルに反射する茜色の夕日が眺められます。また、セントラルパークの木々が、ビルの谷間から見下ろせます。もう数週間もすると、緑の木々は赤や黄に色づき始めることでしょう。

今日は、昼ご飯の量が少なかったせいか、早くも5時頃からお腹がすいて、でも料理をする気分でもなかったので、さっきチャイニーズの出前をとりました。小籠包6個(薄い皮に包まれたジューシーな挽肉、スープがたっぷりは入っている)と、白菜と干しエビの蒸し煮。おいしかった……。満腹にもかかわらず、Vol.1でご紹介したUrbanfetch(ビデオデッキの出前)のおまけに付いてきたチョコチップクッキーまで食べてしまった。アメリカの食生活はハイカロリーだから、デブ防止のためにお菓子類の購入は極力避けているのだけれど、せっかくもらったものを捨てるわけにもいかないし……。

さて、メールマガジンを開始して以来、何人かの読者の方からメールをいただいています。ご感想や励まし、また共感のメールはたいへんありがたく読ませていただいています。一方、ホテルやレストラン、エンターテインメントなどの観光情報に関するご質問もいくつかいただきました。正しい情報を入手して個別にお知らせするにはたいへん時間がかかるので、ご返答しかねるのが現状です。そのうち、ホームページの情報交換を充実させ、読者同士でQ&Aができる仕組みにしていこうとは思いますが、いましばらく、お待ちください。

観光情報ではなく、ニューヨークでの生活や、私の仕事などについてのご質問などは、エッセイや日記を通して少しずつお伝えすることもできますので、ご遠慮なくお送りいただければと思います。今回は、最後の方で、いただいたメールの抜粋と私からのコメントを掲載しています。ご興味のある方はご覧ください。

 

★マンハッタンの「台所事情」

夕方、外出の際などにエレベータフロアに出ると、決まって夕食のいい匂いが立ちこめている。匂いの源は数カ月前、隣に引っ越してきた、新婚のインド人夫婦のお宅だ。以前、エレベータでこの夫婦と一緒になったとき、世間話をした。夫いわく、「彼女はまだ若いし(22歳)昼間は遊んでも仕事してもいいけれど、夕食だけは毎日作ってくれ、と頼んでいるんですよ」。そう言ったあと、知的で穏やかそうな夫は妻を優しく見つめ、妻もまた、やさしい笑顔を見せた。

私には、匂いだけではどんな料理か想像はつかないのだが、ボーイフレンドのA男は、さすがにインド人だけあり、すぐにわかるらしい。「あっ、今日はBiryani(焼きめし)だ!」とか「ん〜、Tikka Masala(トマトとクリームのカレー)かなあ」といいながら、エレベータに向かう足を止め、隣の家のドアの隙間に鼻をくっつけている。

ところで、うちの向かいの部屋に住む白人の独身男性(多分40歳くらい)は、しょっちゅう違う女性、それもすごくきれいな人ばかりを部屋に連れ込んでいる。なぜか私がゴミ捨てなどで外に出た時、絶妙のタイミングで、女性が出入りしているところに出くわすのだ。まさに「家政婦は見た」状態である。彼は私を認めると、ちょっと気まずそうに笑う。A男にその話をすると、「どうしてあの男、大して格好良くもないのに、もてるの?」と素朴な競争心を燃やしている。

うちの斜め向かいには、ヒスパニック系の母子が暮らしている。ぼってりと太った母は学校の先生。18歳くらいの息子は筋肉質のスポーツマンタイプ。この2人の声がまた大きい。彼らの会話騒音には、同じフロアの人みなが閉口していることであろう。Studio(1部屋)に2人で暮らしているせいもあるだろうが、しょっちゅう喧嘩している。通常の会話でも2人の声は筒抜けなのに、喧嘩となると、もうエレベータフロアいっぱいに罵詈雑言が響き渡る。喧嘩の理由がまた、くだらない。

「あんた、何なのそのズボンは!そんなダボッとしたもの、みっともないでしょ。店に返してきなさい!」「えー、いやだよ! ほっといてくれよ、俺はこれが好きなんだよ」「だめ! 私に恥をかかせないでちょうだい! みっともないって言ってるでしょ!!」私としては、この騒ぎそのものが、みっともないと思うのだが……。

さて、話が横にそれたが、マンハッタンの多くのアパートメントには、換気扇がない。アパートの高級・低級に関係なく。最近では換気扇付きも増えてきたようだが、築10年以上の我が家にはない。キッチンの上部に換気口があるだけだ。不動産会社をやっている友達にその理由を聞いたみた。彼女いわく「ニューヨーカーは料理しないからよ」

そう。ニューヨーカーの多くはまともにを料理をしない。いや、彼らにとっては、缶詰を鍋に空けて温めるだけでも「料理」なので、日本人とは基準が違うのだが……。日本人、中国人、コリアン、インド人その他、アジア系の多くは、普段から料理をこまめにやる方ではないかと思う。それに引き替え、いわゆる白人女性(アメリカ人)の多くは、本当に料理をしない、というかできない人が多い。包丁もろくに扱えない人が多いのだ。だからスーパーマーケットには冷凍食品やできあいのおかず類がたくさんあるし、多くのレストランが出前を行っている。マンハッタンには、独身や夫婦共働きのカップルが多いから、なおさら「家庭で料理」という人が少ないのだと思う。

通常、アパートのキッチンには、ガスコンロが4つ、大きなオーブン、そして大きな冷蔵庫、食器洗浄機が備え付けられている。最近では電子レンジがついているところも多い。郊外の一軒家は別だけれど、アパートメントの場合は、日本のように自分で好みの家電を購入する必要はないのだ。それら家電の性能については、ホームページのエッセイでも紹介しているが、日本のように繊細な機能を備えたものはない。すべてが大ざっぱで大きくて、騒音が激しくて、ここ数十年、何ら進歩していないものばかり。最初はあらゆる家電の音の大きさに辟易していたが(ジューサーミキサーに至っては、ドリルでアスファルトに穴を空けているかのような音がする)、最近はもう、慣れてしまった。

アメリカ、特にニューヨークといえば、なんとなく「最先端」のイメージを抱くかもしれないが、実は全く違う。不便極まりないことがごまんとある。これから少しずつ、ニューヨークの素顔を、エッセイや日記を通してお伝えしたいと思う。

 

●Comment. 1 (Y.Tさん)

わたしは、41歳で、バラの花の店をやっています。どこの国にも興味はあるけど、なぜか、アメリカには、行ってみたいと思ったことはありませんでした。が、その気持ちが一変したのは、あるテレビ番組をみてから。それは、ニューヨークのユニークな仕事を紹介する、楽しい番組でした。昼休みに、パラセイルリングをさせてくれるサービスとか、若いアーテイストたちが、好きなように部屋を作ってるホテルとか。もう、見てるだけで、わくわく。そこで、このパワーは、どこから来るのだろう、と、素朴な疑問が。失敗を恐れぬパイオニア精神といい、人生の楽しみ方のダイナミックさといい、日本とは違う魅力を、感じました。(一部抜粋)

>>マンハッタンにもバラだけを販売するお花やさんがありますよ。日本とアメリカでは花の色やアレンジメントの嗜好が違うから、きっとご覧になるだけでも刺激的だと思います。ホテルやアパートメントのロビーは美しい花で彩られていることが多く、心が安まります。ところで、私も、以前はアメリカにあまり興味がありませんでした。どちらかといえばヨーロッパの方が好きだったので。けれど、旅したいところと、暮らしたいところとは違うのですよね。私にとっては、いまだに旅をするのはヨーロッパやアジア各国が興味深いですけれど、暮らすにはマンハッタンが性にあっているようです。

 

●Comment. 2 (H.Mさん)

外国に於けるオリンピックの放送に関する記事を大変懐かしく拝見し致しました。海外駐在経験者のものです。ロスオリンピックの時に、仕事の関係で香港に駐在をしていました。その時、テレビを見ても日本人選手の報道は全然有りませんでした。その為、日本の新聞を読み日本人選手の活躍をかろうじて知った程度でした。(中略)

香港では、毎年7人制のラグビ−大会が有ります。その時に、日本からも参加する有名選手及び応援の人達がたくさん来ます。日本から来た方は、皆さん日の丸を振り、一生懸命に日本の応援をします。私は右翼的思想は持っていませんが香港で日の丸を振り応援をしているのを見て、心より感動をした事を今も鮮明に記憶をしています。サッカ−のワ−ルドカップ予選でも日本人選手が大きな声を出して’君が代’を歌っているのを見て、嬉しく成ります。 

色々と難しい過去が日本には有ります。しかしながら独立国家としては国歌、国旗は必ず必要な物ですので政府も考えるべき時期だと思います。好き勝手な事を、書かせていただき有難うございました。

>>H.Mさんがおっしゃること、とてもよくわかります。海外に暮らしていると、「日本人としての私」を認識する機会が、当然のように増えます。私個人の意見が「日本人の意見」として受け取られることもあるわけですから、場合によっては言動に注意すべきこともあります。まあ、日常生活の中で、さほど神経質になることはありませんが。

muse new yorkでは、世界各国から訪れたニューヨーカーに取材をすることが多いのですが、皆が祖国に対する敬意や愛情をしっかりと抱いていることに対し(いい面、悪い面も理解した上で)、驚きとうらやましさを感じます。国旗や国歌の問題に触れた記事などを目にするに付け、複雑な思いにかられます。私は日本が嫌いでアメリカに来たわけではないし、アメリカ人になりたいなどと思いません。日本人として生まれてきた以上、絶対に日本と自分を切り離して考えることはできませんから。歴史(特に太平洋戦争あたり)について、否定的なことを言ったところで、私たちに過去を変えることはできないのですから、いいところも悪いところも含め、少しでも日本を誇りに思えるような考え方を模索していかなければと思います。

国旗や国歌は、祖国の「象徴」ですから、それを受け入れられない国民がたくさんいるのは、由々しき事態だとも思います。具体的なアイデアがあるわけではないので、余り偉そうなことは言えないのですが……。書き始めると止まらなくなるので、今日はこのくらいにしておきます。

 

●Comment. 3 (Kさん)

私は現在日本在住ですが「アメリカで起業する」ことにとても興味があります。サイトの方も少し拝見させていただきましたが、お一人で全部手がけていらっしゃり、本当に感心することしきりです。Sakataさんの場合、投資家ビザなんでしょうか、それとも誰かを社長に立てた会社設立によるH1-Bでしょうか?(そのうちメルマガに出てきますね。)私は現在、就職先会社スポンサーによるH1-Bを申請中です。無事取れれば、LAでグラフィックデザイナーとして働きます。(一部抜粋)

>>私の場合、就労ビザ(H1-B)を取得するため、最初に自分で会社を作り、自分の会社をスポンサーにして、ビザを取得しました。決して簡単なことではありませんが、その気になればなんとかなります。とはいえ、私自身、あと2年でH1ビザが切れるので、今後の対策を考えねばなりません。グリーンカードを取るのは、とても難しくて、時間もお金もかかります。悔しいけれど仕方ないですね。よその国で仕事をさせてもらっているのですから。下記のサイトをご覧いただくと、私の会社設立にとビザの取得に関する簡単ないきさつがわかるかと思います。ご参考までにどうぞ。

http://www.museny.com/mihosakata/mihosakata.htm


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