ニューヨークで働く私のエッセイ&ダイアリー

Vol. 42 5/7/2001

 


ゴールデンウィークはいかがお過ごしでしたか?

ニューヨークはもう、すっかり夏。舞台の場面がパッと変わるように、季節が冬から夏に変わりました。街路樹や公園の木々の緑が本当に鮮やかで、街全体が生き生きとしていて、ストリートを歩くのが楽しい季節です。

最近、ワシントンDCでは主にデスクワークを、ニューヨークにいる間は打ち合わせや取材をするよう仕事を配分し、バランスのいいサイクルができつつあります。ニューヨークでは街をよく歩くせいか、ショーウインドーをのぞく機会も多く、ついつい、夏物の服などを衝動買いしてしまいます。

先週の月曜日は、来米していた五木寛之さんの講演会を聞きにコロンビア大学へ行きました。コロンビア大学では、日本の文学に関するセミナーなどの催しがよく行われます。ドナルド・キーン教授がいらっしゃることが大きな理由でしょう。

私がニューヨークに来たばかりの頃、学内の広いホールで安部公房の回顧展のようなものが開かれたことがありました。彼の直筆原稿や写真、使用していたカメラなどゆかりの品々が展示されていました。いずれも初めて目にするものばかりで感激したと同時に、ニューヨークでそのような機会に恵まれたことを不思議に思いました。

さて、五木さんの講演のあと、日本でベストセラーになったという「大河の一滴」が映画化されたということで、その試写会が行われました。しかしながら、私にとっては、なんだかピンとこない映画でした。

さて、muse new york夏号の取材なども始まり、また活動的な時期がやってきました。夏は好きな季節でもあるので、気持ちが高揚します。仕事だけでなく、ビーチに行くなど、遊びたいこともあれこれと出てくる季節です。

さて、先週の出来事の中から、今回は広く浅く、書いてみます。

 

●ありふれた言葉だけれど、「継続は力なり」って、本当だと思う

2年前に創刊して以来、季刊誌とはいえ、地道に発行しているmuse new york。最近、ニューヨーク近辺在住の日本人の人たちに、随分認知されてきたように思う。

muse new yorkの中に、自社広告を掲載しているのだが、それを見て、広告や印刷関係の仕事を依頼してくれるクライアントも増えてきた。muse new yorkそのものはまだまだ赤字だが、広告効果を考えると、悪くない先行投資だと思えるようになってきた。

また、muse new yorkに、少しずつだが広告を掲載してくれる企業が増え始めたのもうれしい。表紙に色を1色加えたこともよかったのかも知れないが、それに加え、先日も少し紹介したY子さん(インド人の夫を持つ日本人女性)が広告営業を頑張ってくれて、短い期間にいくつかの契約を取ってきてくれた。

日本にいたころに営業の仕事をしていたこともあるY子さん、とても礼儀正しく話しぶりに説得力があるので、クライアントに対し、適切に話を進めてくれているのだと思う。これからも、彼女のように営業をしてくれる人たちの力を借りて、muse new yorkで利益を上げられるよう、成長させたい。

 

●「NYは人種のるつぼだ」ということを、視覚的に感じる季節

夏になると、当然ながら人々は薄着となり、肌の露出度が増し、ありのままの体型が人の目に触れる。この季節、ニューヨーカー観察がいつもに増して面白い。

肌の色、髪の色が違うだけでなく、体型のバラエティの、なんと豊かなことか。それに加え、みな思い思いの服装だから、今どんな服が流行っているのかを見極めるのは難しい。

日本に帰国し、繁華街などを歩いているときに実感するのは、街行く人たち(特に女性)の服装が「こぎれいできちっとしている」こと。アメリカは日本に比べると貧富の差が激しく、富が集中しているから、当然、誰もがファッションに投資できるわけではなく、安っぽくてだらしない服装をした人たちも非常に多い。

ストッキングが伝線していたり、スカートの裾が綻びていたり、ボタンが取れたジャケットを着ていたり……。無論、縫製が悪いものが多いから、いちいち直していられないのも一つの理由だろう。

それでもなお、プロポーションのいい女性たちは、安そうな服を着ていても、さまになるからうらやましい。

ご存じの方も多いかと思うが、こちらの女性の多くはタンクトップや肩紐の細いドレス(ワンピース)などを着用するときに、ブラジャーの紐が思い切り出ていても、ちっとも気にしない。ブラジャーをせずに歩いている人も多く、半端じゃないほど大きな胸をゆさゆさと揺らしながら歩いている人もよく見かける。

日本では「巨乳」だ「爆乳」だといって、週刊誌などに胸の大きな女性たちが登場しているが、もう、そんな非ではない、バレーボール、いやバスケットボール並みの胸を持つ女性も珍しくなく、ただただ、人種の違いに驚かされるばかりである。テーブルや机の上に胸が載ってしまうほどの人もいる。決して大げさではない。

ニューヨークは他の街に比べ少ないものの、相撲取り並に太った人たちもよく見かける。黒人女性は、どんなに太っていても、おしりがきゅっと上がって突出しているので、その部分に子供が2、3人ほど腰掛けられそうなほどのボリュームである。

一方、女性の私でも目が釘付けになるほど、すばらしいプロポーションの女性を見かけることも少なくない。メリハリのあるボディにすらっと伸びた長い足、髪を風になびかせながら颯爽とストリートを歩く姿を見ると、ほれぼれとしてしまう。

この季節、ジムに通って筋肉を付けている男性にとっても、露出がうれしい季節。面積の狭いタンクトップを着て、極力、肌をさらしている人もいれば、セントラルパークなどでは、思い切り上半身裸で歩いている人もよく見かける。

雑誌などでは、ニューヨークファッションなどといって、いかにもお洒落な服装ばかりが取り上げられているが、そのようなファッションに身を包んでいる人は、本当に少ないものである。

 

●「ブドウ糖」と「ミルクのみ人形」と。

先週の水曜日はスタイリストのYSさんとディナー。10年ほど前にニューヨークにやって来た30代前半の女性だ。muse new york夏号の「ニューヨークでがんばる日本人女性インタビュー」に登場してもらうため、インタビューさせてもらった。

日本では、ドラマやニュース番組のスタイリストをしていて、「ニュースステーション」や「ニュースフロンティア」などにも、しばらく携わっていたらしい。朝岡聡アナウンサーの、サスペンダーや手結びの蝶ネクタイを彼のトレードマークにしたのも、彼女だという。

子供の頃は身体が弱く、家でお人形遊びをしていたことが、現在の仕事につながったらしい。

「私、幼稚園から小学校の低学年くらいまで、すごく身体が弱くてね。毎日、病院に行ってブドウ糖を打ってたのよ」

「母が洋裁をやってたから、端切れでお気に入りのミルク飲み人形に、服を作ってやったりしてたの」

『ブドウ糖を打っていた』ことといい、『ミルク飲み人形』といい、もう何年も耳にしていない、口にしていない言葉が、妙に懐かしく、そしてユーモラスに聞こえ、二人して昭和40年代の話で盛り上がる。

「リカちゃんは小さすぎて、服が作りにくかったのよ。だから、ミルク飲み人形だったの」

「そういえば、あのミルク飲み人形の哺乳瓶、傾けるとミルクがなくなってみえるのがあったよね」

「ちょっと高級なのは本当にミルクを飲ませられたけど、うちのは違った」

「瞼を閉じたり、喋ったりするのもあったね」

「毛糸の赤ちゃんっぽい服がいやで、立体裁断で服を作ってたんだよ」

「マドモアゼル・ジェジェとかいう、ちょっとファッショナブルな人形もはやったよね」

二人して、話がそれまくりながらも、楽しいインタビューだった。詳しくは、muse new yorkの夏号で。

 

●笑顔があるかないかで、周りの空気がどれほど変わるか

半年から1年に一度しか集まらないけれど、そのたびに盛り上がる「独立独行の女性たち」4名で、久しぶりに食事をした。イーストビレッジの居酒屋(日本食レストラン)だ。集いの名目は、私の「婚約祝い」だ。

以前も書いたが、欧米では飲食店で、自分のテーブルを担当してくれたウエイターやウエイトレスに対し、チップを払う。アメリカでは、全飲食料の平均15%がチップとなる。普段は、よほどひどいサービスを受けない限り、15%前後を払っている。

その居酒屋で、私たちのテーブルを担当した若い日本人女性ウエイトレスは、最初からすでに感じが悪かった。「いらっしゃいませ」の一言もなく、メニューをテーブルに放るように置き去り、こちらが何度も呼んでようやく、オーダーを取りに来る。料理名を読み上げても返事をしないから、わかっているのかどうかもわからない。

案の定、飲み物が足りなかったりして、何度もオーダーを頼み直す。

「何なの、あの子、感じ悪いわね」と、それぞれが怒りつつも、下手に文句を言って恨みをかい、食べ物に変なもの混ぜられたりするといやだから我慢する。「こんなときはチップに反映すればいいのだから」と、私よりもよりいっそうプリプリしているKさんを、他の二人がなだめる。

居酒屋だから、何度も追加注文をするのだが、そのたびに仏頂面がやってきて気分が悪い。温厚なRさんが、1センチばかり残ったチューハイの、底に残ったレモンをストローで潰している最中に、それをバッと横から奪い去って、行ってしまった。最後の一口を、レモン風味にして飲みたかったはずのRさん。呆然とする。

チップ5%でもいいくらいのサービスだったのを、10%ちょっとにして、私たちは立ち去ろうとした。すると、そのウエイトレス、私たちを追いかけてきて

「チップ15%欲しいんですけど」と言う。

私たちは、いよいよ呆れて、「サービスがひどかったから」と言って立ち去った。

ウエイトレスやウエイターは、チップが大切な収入源なのはよくわかっている。だからこそ、普通であれば笑顔でお客を迎え、食べている最中にはうるさいほどに「お料理の味はいかがですか?」と様子を見に来るし、飲み物がなくなれば注文を取りに来る。

ときには感じが悪い人がいるけれど、今回のように不愉快になるまでの人に出会うことは稀である。そのウエイトレスは顔だちそのものはとてもチャーミングでかわいらしかったのだが、不愛想の極致で、楽しいはずの夕食も、なにかしら後味が悪かった。

主張することも大切だけれど、やることをやって、主張して欲しいものである。

 

●週末の出来事あれこれダイアリー

土曜日の午後は、夜のパーティーに備えてネイルサロンへ。きれいな手足になったあと、ブランチ用にサンドイッチを買って帰る。最近、流行っているのWrap(ラップ)系。丸くて薄っぺらいパンで具を包んだもので、ヘルシーでローカロリーなメニューが多いのだ。各種フレッシュジュースと一緒に売られている。

A男と遅めのブランチをとったあと、残っていたワインを飲みながらしばらく新聞や雑誌を読んでいたら、いつのまにか寝てしまって、はっと目が覚めたら7時。うつ伏せに寝ていたら、顔に枕のあとがくっきりとついていて、これからパーティーだというのに情けない。なかなか元に戻らず焦る。

ロングドレスに身を包み、アクセサリーを付け、髪を束ねて、アカデミー賞授賞式に出るハリウッド女優にでもなった気分で、A男と共に出かける。このように思い切り変身できる機会があるのは、とても楽しいものだ。

日曜日は、午前中、二人とも仕事をして、ブランチは友人カップルと近所のレストランで飲茶。男性の方(仮にF男)が知り合いで、彼女の方は私もA男も初めて会う。なんでも、彼らも婚約をしたばかりとのこと。

A男は、私がトイレに立っているすきに、F男さんに向かって「婚約指輪はダイヤモンド」についての講釈を始めている。ダイヤモンドのグレードなどについて、ティファニーでもらった「ダイヤモンドのしおり」で得た知識を、得意気にF男さんに向かって説明している。

ブランチを終えたあと、天気もいいし、町歩きが楽しそうだからと、ダウンタウンへ行くことにした。地下鉄で下っている途中、プーアール茶を買いたくなり、チャイナタウンまで更に南下することにする。

台湾本社の「天仁名茶」(「名」には草冠が付く)へ。プーアール茶がダイエットにいいことを思い出し、夏だから麦茶代わりに飲もうと決めたのだ。お茶を買ったあと、小籠包(スープがたっぷり入った小さな肉まん風)がすごくおいしい、鹿鳴春(Joe's Shanghai)というレストランの近くを通る。先ほどランチを食べたばかりなのに、二人とも食べたくて仕方ない。

でも、何のためにダイエットのお茶を買いに来たのかわからなくなるので、我慢して、数年前から流行っている香港系の喫茶店でお茶にする。ここには、タピオカやナタデココが入った多彩なドリンクが揃っているのだ。スプーンを使わず、直径1センチほどの太いストローでズズッと吸い込みながら飲むのが楽しい。

「ジャスミンティー」と「ナタデココ入りライチー(レイシ)アイスティー」をオーダーし、半分ずつ飲む。かつて日本で一世を風靡したナタデココが懐かしかった。

チャイナタウンからリトルイタリーを経由してソーホーへ。二人とも夏物の服などを購入したあと、閉店間際のブティックをあちこち覗きながら歩く。

ウエストビレッジに向かう途中、指圧とフットマッサージの小さな店を見つける。入り口には足の裏のつぼを示す大きな看板。中国人経営と見られる、ややあやしげな店構えだが、マッサージ好きの私たちは試してみることに。

10分刻みで値段が設定されていて、私たちはボディマッサージとフットマッサージそれぞれ20分(20ドル)を受けることにした。

仕切りのない部屋に7つほどベッドが並び、人々がマッサージを受けている。ボディマッサージは今ひとつだったが、足の裏のマッサージはとても気持ちよかった。

すっかり疲れも取れ、リフレッシュしたあと、軽めの夕食をとろうと、ウエストビレッジにある日本料理屋へ。ニューヨーカーに人気のある「Yama」という店に向かう。日曜の夜ながら、店内は込み合っていた。

入り口で、席が空くのを待っている間、見知らぬアメリカ人カップルと寿司の話題で盛り上がる。彼らは最近寿司の味を覚えたという。

「私たち、一昨日も来たんだけど、また食べたくなっちゃて。ウナギとアボガドのコンビネーションがたまらないわ。ああ、もう天国って感じ!」

と妻が目を輝かせながら感情を込めて言えば、夫は

「僕はクリスピーな天ぷらのロール(巻きずし)が大好きなんだよ。イエローテールやイクラも最高。うーん。日本料理はすばらしいよ」

ここぞとばかり、A男、またもや講釈をはじめる。

「この近所なら、『ブルーリボン・スシ』もおいしいよ。アメリカならではのユニークなメニューが多いけど、鮮度が高いんだ。伝統的な日本の寿司を食べるならミッドタウンの『築地・寿司清』とか『初花』がおすすめかな。あ、そのかわり、この店みたいにネタが大きくなくて、一口サイズだからね。本場の寿司は小さいんだよ。それと、ユニークなところではブラジル料理とミックスした『スシ・サンバ』もいいよ」

私にしゃべらせる暇(いとま)をあたえない。見知らぬカップルは、店の人にメモ用紙とペンを借りて、筆記している。真剣だ。

私たちは、カウンター席に座り、手巻き寿司をそれぞれ3種類ずつ頼む。加えて、板前さんが目前で作っていた「丸ごと一匹のソフトシェルクラブの唐揚げを巻き込んだ極太巻き」にそそられ、それもオーダー。

それにしても、それぞれの手巻き寿司の大きいことといったら。サーモン・ロールは刺身が5、6切れ、これでもかというほどに詰まっているし、アボガドとウナギのロールは、片手では食べられないほど具があふれ出している。ネギハマ・ロールにはイクラもたっぷりはいっていて、それはもうボリューム満点。(ホームページの巻頭に写真を載せてます)。

腹八分目どころか、また十二分目くらいになってしまった。

途中、A男の隣に、アメリカ人の若い男性客が一人座った。彼はメニューにないネタを注文したいらしく、ウエイトレスに尋ねている。

「エンガワと……、カイバシラの握りもほしいんだけど。それと納豆の手巻きも。」

おおう。かなり「通」なアメリカ人と見た。サーモンやマグロ、ハマチくらいなら、日本語で言う人も多いけれど、エンガワとカイバシラを日本語で言うとは。聞き耳を立てていたA男は、小声で私に尋ねる。

「ねえ、エンガワって何? 僕、食べたことない。なんで、あの男、知ってるの? ミホは一度もオーダーしたことないでしょ? ねえ、エンガワってなに?」

また、妙なところで競争心を燃やして、うるさい。次に寿司を食べるときに、試してみるらしい。

さて、明日からはプーアール茶を飲み始める。成果が上がったら、ご報告します……。


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