ニューヨークで働く私のエッセイ&ダイアリー

Vol. 43 5/13/2001

 


ここ数カ月、1、2、1、2のサイクルで生活しています。DCに1週間、NYに2週間、というリズムです。というわけで、昨日からまたもやDCに来ています。

先週と今週、取材したことなどを、来週はじっくりとコンピュータに向かって記事にする予定です。それにしても、ここ数日の暑いこと。DCのアパートメントには、眺めのいいサンルームがあり、冬の間はそこでの仕事が快適だったのですが、今や「サウナ」状態。冷房が苦手な私にとって、温度調整が困難な季節の到来です。

アメリカの冷暖房は、日本のそれのような細かな機能は備えられていませんから、温度の「微調整」がききません。特に夜、眠るときなどは、冷えすぎるのは身体に悪いので、もっぱら「扇風機」を愛用しています。しかし熱帯夜もたまにあって、熟睡できないこともあります。

アメリカでは、バスや地下鉄、公共の建物の中など、夏になると猛烈に冷房が入るので、繊細な日本人は身体を壊す人が少なくありません。夏場こそ、常にジャケットやカーディガンなどを携行する必要があります。昨日もタクシーの中で、猛烈な冷風が後部座席まで届いて余りにも寒かったので、冷房を弱くしてくれと頼みました。すると、でっぷりと太った黒人のドライバーが、

「えっ? 君は寒いの?」

と驚きながら、風を弱めてくれました。アメリカ人の皮膚感覚は、いったいどうなっているのでしょう。

今は土曜日の昼頃です。A男は先ほどから真剣に仕事をしています。彼の会社のカリフォルニアオフィスには、ノーベル物理学賞を受賞した人がいます。彼から届いたプロジェクトに関する問い合わせのメールに対し、賢明に答えようと、懸命にリサーチしているところなのです。なんだか大変そうです。

それに引き替え、私と言えば、先ほどからダラダラと集中力なく過ごしています。インターネットで新聞を読んだかと思えば、ベッドにゴロリと横になったり、テレビを付けては数分で飽きて、やっぱり読書にしようかと本を開いたかと思えば、読むのが面倒で投げ出したり。

こんなことではいかんと、メールマガジンを書こうとファイルを開いたところです。でも、ここまで書いて、もうすでに根気が途切れて来ています。

今、一番したいこと。それは、眺めのいい露天風呂に入って、のんびりとくつろいで、それから全身マッサージを受けて、おいしい和食を食べること。ああ、温泉に入りたい。

そういえば、再来週、京都で海底ケーブル関係の国際会議があるらしく、最近、その関係のプロジェクトに関わっているA男は、リサーチを兼ねて、ぜひとも行きたかったらしいのですが、現在ビザの手続きの最中で、1カ月以上、海外に出られません。

「もういちど、祇園の鯖ずしが食べたかった」と無念の様子。

今年はなんとしても、二人で一度、帰国したいものです。

 

★★★おしらせ

さっき、ぼーっとしているときに思いついたんですけど、何回か配信した「読者メール編」、もうちょっと工夫して「テーマ」を決めてみることにしました。数回やってみて、どうしても内容が散漫になってしまうし、私自身がコメントを添えなければ掲載しづらいものもあって、そうなると結構、時間を要するから先延ばしになり、早くも壁にぶつかったのです。

とはいえ、せっかく「ニューヨーク」に興味のある方々が縁あって読者になってくださっているので、読者同士でも何らかのつながりができればいいかと思っています。

まず第一回目は「どんなテーマの投稿を募集してほしいか」というリクエストを受け付けます。

読者同士がメールを交換し合える状況にもできればいいと思うのですが、この件については、しばしお待ちください。

ちなみに現在、読者の総数は2000人強です。多いのか少ないのかわかりません。もちろん、全員がじっくりと読んでくださっているとは思いませんが、アンケートの返事やメールはたくさんいただいているので、その方々に参加いただければ、結構ユニークな場ができるのではないかとも思ってます。

ところで先日、『気持ちの悪い「新生」日本語について、不満炸裂』というエッセイを書いたあと、カジュアルなメールが激減しました。なんだか書きすぎたかしら。あの、あまり気になさらないでください。

顔文字も、1回のメールにつき2つくらいまでなら大丈夫ですから。
(^ー^)

おしらせでした ★★★

 

●NHK解説委員の平野次郎さんにお目にかかる。

先週の月曜日。午前中は、クィーンズにある例の印刷工場へ。今回はトラブルもなく、順調に作業が終わり、爽やかな気分で帰路に就く。

午後の仕事を終えたあと、夕方、ジャパン・ソサエティへ。「マスメディアとインターネット」をテーマに、ニューヨークタイムズやstreet.comの役員、それにNHK解説委員の平野次郎さんらが、ディスカッションするというもの。

私の英語力の問題もあるだろうが、ディスカッションの途中で眠くなってしまった。それでも1時間半、がんばって聞いていたのだが、途中で近くに座っていた日本人駐在員らしきおじさんが、大きな寝息を立てて眠り始めたのには呆れた。なにしろ40人程度の少ない人たちで、寝息もかなり響きわたるのだ。

インターネットの普及により、無料の情報が溢れかえっている昨今。その中にあって、「誰がジャーナリストなのか」という定義付けが問われ始めている、ということについてを、改めて考えさせられる機会ではあった。

ディスカッションのあと、ちょっとした立食パーティーが行われた。せめて平野さんにはご挨拶をさせていただこうと、隙を狙うが、いろいろな方が次々に挨拶をしているのでタイミングが難しい。パーティーの席などで、話したいと思う人に絶妙のタイミングで話しかけるというのは、なかなか至難の技である。

ほかに待っている人がいるとわかっていて、延々と話し込む人もいるから、その間、他の人と会話をしながら、様子をうかがう。

閉会間際に何とかタイミングを見つけ、いつものごとくmuse new yorkを鞄から取り出して、名刺とともに渡す。こんな時、薄い本は荷物にならないから便利だ。世界各地を転々と、文字通り「飛び回る」平野さんの過密スケジュールをお聞きしつつ、差し障りのない会話。でもmuse new yorkのコンセプトだけは、しっかりとお伝えした。

 

●またもや「お食事ご招待」。今回はいかに?!

今週は2軒のレストランからディナーに招待された。1軒(日本食レストラン)は、muse new yorkに記事広告を掲載してくれるということで、その記事を書くための食事。もう1軒は、広告を掲載するのは決めているけれど、もしも食事をして気に入ったなら記事を書いてほしいというリクエストのあったフレンチ&アジアンレストラン。どちらも営業担当のY子さんが持ってきてくれた話だ。

1軒目の日本食レストランは、ミッドタウンのビジネス街にある「肥前」という店。もともと日本で高級中国料理店のシェフをしていた日本人男性が、シェフをしている。居酒屋風のカジュアルな店で、お会いした女性マネージャーも非常に気さくだ。従業員の感じもいい(先週の感じ悪いウエイトレスに見せたいくらいだ)。掘りごたつ式の座敷があるのもいい。

いくつかのおすすめ料理を試す。印象に残ったのは「カニのあんかけチャーハン」。東京で猛烈に働いていたころ、よく通っていた中華料理店の味にとてもよく似ていて、そのころの記憶が急に蘇る。パクパクと食べながらも少しばかりノスタルジックな気分だった。

2軒目は、ミッドタウンの東側、国連の近くにあるチューダーシテイ・プレイスというエリアにある「チューダー・グリル」。オーガニックの素材を使った、オリジナリティのあるフレンチ&アジアン料理が楽しめる。

爽やかな喉ごしの「キュウリとココナツミルクの冷製スープ」に始まり、パリッと香ばしく揚がった「ベトナム風春巻き」、新鮮で身がプリプリとしたロブスターがたっぷり添えられた「ロブスターのリゾット」など、料理はいずれもおいしい。

しかしながら、この店は、料理よりもオーナーその人がユニークだった。60歳前後であろうギリシャ人男性だ。ギリシャで生まれ育った後、渡米し、ウォールストリートで25年ほど勤務。その後、アート・ディーラー(美術商)になり、日米間で美術品の輸出入を行っている。レストランはそのビジネスと平行してオープンした。

「笑わないで聞いてくださいね」と前置きして、彼は、日本との関わりを語り始める。

ギリシャで幼少時代を送っていた7歳くらいの時、突然、彼の脳裏にある記憶が浮かび上がる。そして自分の故郷は「カマクラ」だと自覚する。しかしながら、誰に聞いても「カマクラ」を知る人はなく、ギリシャの地図を見ても「カマクラ」は見つからない。

後に、その「カマクラ」とは、日本の鎌倉のことで、記憶の中の映像……家の格子戸を開けると、美しい山が見えた……が、鎌倉から見た富士山であったことが判明したという。

そのような経緯があって、彼は日本に非常に興味を持つようになったとか。

その手の話(輪廻転生など)については、私自身に似たような経験があり、興味がある方なので、ユニークな人だなあと思い、話を聞く。

2軒とも、この間のイタリアンレストランのように、食べてる最中から「絶対にmuse new yorkには紹介したくない」というような店ではなかったので、ひとまずホッとした。

 

●日本人同士だと、なぜこんなにも照れてしまうのだろう。

クライアントのA田さんが、5年のニューヨーク駐在を終え、いよいよ帰国することになった。そのうちの3年近くの間、一緒に仕事をさせていただいた。

せっかくだからゆっくり話をしたいと思い、ミューズ・パブリッシングでお別れ会を開催することに。この日ばかりは仕事も早めに切り上げ、スーパーマーケットに買い出しに行き、坂田社長みずからの手料理でおもてなしする。

広告代理店のK氏、デザイナーのE女史、ウェブ担当のF女史、私を含め、参加者は計5名。少人数ながらも、飲んで食べて話は盛り上がり、気が付けば午前1時。

別れ際のこと。普段から強烈な言動を個性としているE女史(40代後半か)だが、すっかりお酒がまわって、よりいっそう言動に歯止めがきかない。

「ほら、みぽりん、A田さんにハグしなよ、ハグ!」とうるさい。ちなみにハグ(hug)とは、抱き締めることである。こっちはしんみりと名残惜しく、最後の挨拶をしているというのに、容赦なく脇から急き立てる。

「何、照れてんのよ、あらくれ社長! ハグだよ、ハグ! ……んもう! 見かけによらず照れちゃって。わかった、じゃあ私が先にやってあげるから」

と言って、A田さんにガバッと抱きつく。あ、あんたって人は……。

「みんなが見てると恥ずかしいんでしょ。私たち、先に行くからさ。キスしてもいいよ! キスも!」

場を仕切る、怖い者知らずのE女史。あとの二人を率いて、さっさと出ていく。

「ちょっと待ってくださいよ〜」と慌てるA田さん。

考えてもみてほしい。これを読んでいるあなた、クライアントの異性に、挨拶代わりに抱きつけますか? たとえアメリカに5年住んでいようとも、私は純粋な日本人。そりゃあもう、照れるとういものだ。

ところが日本人以外であれば、異性同性を問わず、気軽にハグできるから不思議。相手が日本人となると、頭を下げてご挨拶、せいぜい握手がいいところである。

それでも、アメリカはまだましな方だろう。ハグと同時になされる「頬へのキス」も比較的軽いし、「キスなしハグのみ」もありだからだ。それに比べ、ヨーロッパはかなり濃厚。フランスなんて、左右の頬に2往復、計4回もチュッとするのだから! あなたは、たとえば上司のほっぺに「チュッ」できますか? 

たとえば、休日など通りを歩いているときに、偶然、知り合いに会ったとする。「まあ」とか何とかいいながら、両手を広げ、抱き合ってチューを4回。好ましく思っている相手ならまだしも、脂ぎったスケベおやじ(失礼)にだって、「ご挨拶」せねばならないのだ。たまらん。日本人でよかったと、つくづく思う。

あ、もちろん、A田さんは、脂ぎったスケベおやじではないし、このメールマガジンも愛読してくださっているし、だからというわけではないが、とてもいい方だったので、照れはしたものの、最後にはしっかりとハグさせていただいた。

A田さん、日本でもがんばってください。お元気で。


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