ニューヨークで働く私のエッセイ&ダイアリー

Vol. 45 5/28/2001

 


ここ2週間ほど、梅雨のように毎日雨か曇りです。1日だけ、晴れ間が見られた日がありましたが……。この5年間のうち、こんな梅雨状態は初めてで、なんだかうんざりしています。なぜなら、この季節は、新緑が美しく、風も爽やかで、一年のうちで最もすてきな季節だからです。

今日は日曜日。アメリカは月曜日がメモリアルデーという祝日なので三連休です。ちなみにメモリアルデーとは、過去の戦争で命を落とした人々の冥福を祈る日で、各地で式典などが行われます。

いよいよmuse new yorkの夏号の作業が佳境に入っているのですが、せっかくの三連休に仕事をするのも辛く、えいっと思い切って休むことにしました。発行日を6月「中旬」などと大ざっぱにしているので、こういうとき、便利です。中旬と言えば、10日から20日くらいまでを指しますものね。

さて昨日は、A男と二人で、サルク・デ・ソレイユというサーカスを見に行ってきました。普段はラスベガスに拠点を持つグループですが、ここ数カ月、ニューヨークで公演を行っているのです。いや、開催されているのは、お隣のニュージャージー州のリバティーパークでした。

マンハッタン島の南端まで地下鉄で出かけ、ワールドトレードセンターの近くにあるフェリー乗り場から通勤用のフェリーに乗り、対岸にあるリバティーパークに渡ります。曇ってはいたものの、自由の女神やウォールストリートのビル群を眺めながら8分間の「クルーズ」を楽しみました。

ニューヨークにいらしたら、ぜひ「ディナークルーズ」に参加することをおすすめします。マンハッタンの夜景は、本当に美しいです。

サーカスを楽しんだあとは、イーストビレッジの焼鳥屋へ行き、そのあと日本酒バーに行って、すっかりいい気分で帰ってきました。今日はこれから、再びダウンタウンに出かけます。

(1日経過)

三連休も終わり、先ほどA男がDCに帰り、今は月曜の夜。遊んでばかりの三日間だったので、来週はかなり気合いをいれて仕事をすませなければ……、と自分に言い聞かせています。明日の午前中はインタビューです。だらけた気分を吹きとばすために、いつも休み明けには緊張感のある仕事を入れるようにしています。

昨日、今日は晴れ間も見られて、久々に爽やかでした。

ところで、投稿メール集のこと、忘れたふりをしていたのですが、催促のメールが来たので、ちょっと言い訳を……。その節は、一部読者の方々にテーマに関するリクエストをお送りいただき、ありがとうございました。今、このメールマガジンの在り方などについてちょっと模索中で、考えがまとまっていないので、いましばらくお待ちください。

先週も、さまざまな出来事があったのですが、遊びすぎて時間的余裕を失っているので、トピックス1本だけ、お届けします。

 

●束の間の王様気分:Eメールの威力をあなどるなかれ

先日、A男からEメールが転送されてきた。某ベンチャーキャピタル・ファームに勤務する新入社員が、韓国に赴任し、その直後、11人の友人宛にEメールを送った。その個人的なメールは、ウォールストリートのバンカーや、ニューヨーク、DCのベンチャーキャピタルリストたちの間で転送され、瞬く間に世界中を駆けめぐる。

まずはその英文メールを日本語訳したものを紹介しよう

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韓国に赴任して、1週間半たったけど、なんて言えばいいのかな。

「人生はすばらしい!」って気分だよ。

住んでるところは、建てられたばっかりの2000スクエアフィートもある3ベッドルームのアパートメントで、200スクエアフィートのテラスも付いてるんだ。そこからは、韓国で一番大きい川や夜景が見えて最高!

どうして、僕に3ベッドルームも必要かって? いい質問だね。

まずメインのベッドルームにはクイーンサイズのベッドがあるんだけど、そこは俺様がこの先2年間、韓国のかわいい女の子たちをファック(性交の俗語)するためさ! すでに5回は終わったけど、あと10億回くらいやれるかな……

2番目のベッドルームは、僕と女の子たちのハーレムのため、3つめは君たちファッカーが韓国に遊びに来たときのためのゲストルームさ。

今のところ、平日は一晩おきに、週末は毎日、韓国で一番クールなクラブやバーやラウンジで遊んでるんだ。2カ月もたてばこっちでの仕事も慣れてくるはずだから、そうしたら、毎晩遊びに出かけることになると思うよ。

(途方もなく下劣なので中略)

というわけで、君たちも、僕と連絡を取り合って、遊びたくなったら下の電話番号に連絡してよ。あ、そうそう、ところで、誰かフェデックス(国際宅配便)でコンドーム、送ってくれないかな。40箱くらい持ってきたんだけど、今週の土曜日でなくなっちゃいそうなんだ。

それじゃあね!

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とまあ、アホ丸出しのメールなのである。

彼の名字から察するに、中国、もしくは韓国系のアメリカ人のようである。彼の所属する会社はカーライル・グループという有名なベンチャーキャピタル・ファームで、役員には国務長官だったジム・ベーカーもいる。そんな会社に勤務する彼のメールだからこそ、尚更、耳目を集めたわけである。

オリジナルのメールに、受け取った人のコメントが添えられて、次々に各方面へ転送される。一日のうち、このメールをすでに4人のバンカー、ベンチャーキャピタリストから転送されたという人もいる。辛辣でユニークなコメントが添えられ、長くなったメールは一瞬にして業界に広がった。

彼はかつて、ウォールストリートで、バンカーとして数年働いていたのが、憧れのベンチャーキャピタリストになり、それまでとは違った気風に触れたせいか、気分が「弾けてしまった」ようなのである。まだまだ20代前半の彼。それまでの人生は、きっと勉強と猛烈な仕事でカチカチだったのだろう。

職業柄、異国の地でもてはやされて、わずか2週間ばかり、夢のような生活を送り、多分、脚色も含めて、そんな身の上を誰かにしゃべりたかったに違いない。それにしても、11人もの友人に、浮かれたメールを送ったのはあまりにも大馬鹿者である。

「高学歴、高収入ビジネス」というバックグラウンドを持つ一方、「精神的賢明さ」に著しく欠けるアンバランスな人間は少なくない。それは万国共通のことで、そういう人間を取り巻く人間も、うんざりするほど過大評価をするから、世の中が狂うのだ。

2日後には、上記のメールは、カーライル・グループの役員たちにも転送され、メール発信日から1週間後、彼は解雇された。A男に転送されてきたメールの最後には、その解雇を伝えるニュース記事も添えられており、ジム・ベーカーの由々しき事態に対するコメントも掲載されていた。

ニューヨークでは、この手のニュースは珍しくない。数年前も、やはりモーガン・スタンレーという金融会社に勤めていた20代男性が、自分の裕福な暮らしぶり(住まいの豪華さ、持っている車の詳細など、収入が察せられるような内容)を友人の新聞記者に取材させ、ニューヨークタイムズに堂々と登場した。A男の話によると、彼は数日後に解雇されたという。

それにしても、Eメール。滅多なことを書いて自分の人生を不意にせぬよう、気を付けたいものである。


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