ニューヨークで働く私のエッセイ&ダイアリー

Vol. 46 6/9/2001

 


皆様、お久しぶりです。

ひたすら立て込んでいた毎日でした。今は水曜日の午後1時過ぎ。クイーンズの国道沿いにある、ガソリンスタンド脇のダイナーで、先ほどBLT(ベーコン、レタス、トマトのサンドイッチ)を食べ、コーヒーを飲んでいるところです。

今日一日と明日午前中は恒例muse new yorkの印刷のため、おなじみ中国系の印刷所に出張です。今は印刷所のおじさんたちもみんなお昼休みなので、私もランチに来たところです。次の印刷再開までは、まだしばらく時間があるので、ダイナーに居座ってこうしてノートブックに向かっています。

この近所はしゃれたカフェなどなく、せいぜいマクドナルドなどのファーストフード店がある程度。マンハッタンにはごろごろしているスターバックスすらもありませんから、ダイナーの一画でくつろがせていただいてます。4人がけのシートが6つとカウンター席があるだけの狭いダイナーです。

カウンターの裏に調理場がある「オープンキッチンスタイル」なので、フライドポテトやらオニオンリングやらを揚げる油の匂いが店内いっぱいに漂っていて、もうすでに服や髪ににおいが染みついてしまいましたが、文句は言えません。

マクドナルドは、ディズニーのアニメーションビデオが大音量で流れていて、とてもくつろげる状況ではないのです。

前号のメールは、私自身の話ではなかったにもかかわらず、読者の方からの反響が大きかったです。電子メールの力について、あるいは愚かなビジネスマンについて、あるいは韓国の接待事情について、参考になるメールもいただきました。

(2、3日経過)

上の文章を書いたあと、またしばらく他のことに追われてしまい、今日は土曜日。久々にDCに来ました。やっぱりDCにいる方が、プライベートな時間を取りやすいです。

今日はこれからA男のオフィスに同行します。休日出勤です。というのも……。ああ。身内の失態を暴露するのは本意ではないのですが、書かずにはいられません。昨日はDCに到着するなり、大喧嘩です。まあ、私たちにとって喧嘩は日常茶飯事ですが……。

いつだったか、アメリカでは電気代や電話代などの公共料金は自動引き落としではなく、小切手を郵送する、と書いたかと思います。

几帳面な人間にとってはこの制度は悪くないのですが、A男のように、届いた郵便物をきちんと確かめもせず、机に積み上げるような傾向の人間には最悪です。まず、先々月、電話料金の支払い漏れがあったため、先月は請求書に2カ月分の請求が記載され届いていたようです。それをただちに払えばいいものを、あとは切手を貼るばかりの封筒をブリーフケースに入れたまま、1カ月近く持ち歩いていたようなのです。要するに、忘れていたわけです。

彼が今、とても仕事で忙しいことはわかっているから、責めちゃかわいそうだと思いながらも、責めてしまいました。力いっぱい。

だって、ここにある電話の回線3本すべて、ストップされているんです。それもよりによって昨日の夕方から。電話会社に連絡するも、月曜まではどうにもできない、とのこと。

ミューズの電話もファックスも使えません。請求はA男に立て替えてもらい、数カ月おきに精算していたので、悲劇に巻き込まれました。この週末、仕上げる予定の仕事は、インターネットでのリサーチが必要だし、ファックスを受け取る予定もあるし、電子メールも送受信せねばならない。日本のニュースも読みたい。

A男も、週末に仕上げねばならない仕事があり、やはりインターネットが必要だから、彼は自分を責めるわけにはいかないので、電話会社に八つ当たりしています。

「警告もなしに週末、電話をとめるなんて、緊急時にはどうするんだ!」

と。確かに一理あります。でも、料金を滞納しているあなたが悪い。

当たり前だけど、電話が使えないと、何もできないのです。携帯はあるけれど、アメリカでは携帯からインターネットはできませんから。というか普及していませんから。日本は、できるんですよね。

というわけで、電話回線を求めてこれからA男のオフィスに行くわけです。やってられないです。ああ、もう!

(時間経過)

今、A男のオフィスです。広々とした空間、近未来映画に出てきそうな、整然とまとまったオフィス機器。すごく快適で気持ちよく仕事ができるオフィスです。気分を変えて、ダイアリーを書いて、仕事をするとします。

●3週間前の出来事ダイアリー

<火曜日>

日本にいたころ、2年半ほどつとめていた会社の社長S氏と、その部下の女性と夕食。S氏の会社が某金融会社の女性社員の研修旅行をコーディネートしていて、その一行に同行して彼らはニューヨークに来ていたのだ。

ニューヨークには4泊ほどの滞在で、こちらの企業のカスタマーサービスなどを学ぶというもの。いくつかのセミナーが予定されていて、弊社にその通訳が依頼された次第。いつもお願いしているMさん(女優志望)に頼んだ。

3人で、以前紹介したペルー料理のレストランへ「チカマ」へ行った。最近ニューヨーカーにも人気だし、料理もまずまずだし、雰囲気もいいし。でも、ウエイターが変だった。

おすすめメニューを尋ねると、前菜も、メインも、やたらと「ツナ(マグロ)」を使った料理を勧める。あまりにも偏りがあるので、「ツナはもういい」と言っているのに、どうやら本人が「ツナ好き」らしい。ニューヨークって、本当に「我が道を行く」タイプの人が多すぎる。

 

<水曜日>

Sさんに依頼され、研修旅行の女性たち17名に対し、ホテルの会議室で2時間ほど、ニューヨークのビジネスやサービスについて語る。自分としては、ニューヨークの素顔をリアルに語ったつもりだったが、彼女たちは、午後の自由時間の「ショッピング」のことで、気もそぞろ、という感じだった。皆さん、ブランド物に本当に詳しくて、下調べに余念がない。

講演のあとのランチタイム。「日本食が食べたい」という参加者の声をうけ、とある日本食レストランへ大挙して出かけたのだが、そこのサービスがまた最悪。そばや丼物を頼んだのに、30分から1時間も待たされている状態。皆さん、ショッピングの時間が減るわけで、当然、イライラした表情である。

彼女らは、わずか数日のニューヨークで、随所で「悪しきサービス」を受けたらしく、前夜はその不満話に花が咲いていたらしい。どうやら、とどめをさしてしまったようだ。

 

<木曜日>

前日の午後から引き続き、原稿執筆で終日オフィス。夜、弊社の設立関係を手伝ってくれた弁護士の女性から電話があり、夕食をとることに。近くに住んでいながら、1年に1度くらいしか会わない。

彼女は独身の多分50代の女性。大学を卒業して渡米し、更に法律の勉強をして弁護士になった。結婚にまったく興味のない彼女。自分の生活を他人に左右されることが嫌いで、仕事が好きな人。

「私ね、緊張で夜も眠れないくらい、ストレスが溜まる仕事が大好きなのよ! でもそんな仕事は2年に一度、あるかないかくらい。あとはただ、忙しいだけね」

難しい仕事ほど、俄然やる気が出るらしい。見た目はおとなしげで、地味な印象なのに、一語一語がとても鋭くて、話を聞いているだけでも楽しい。

「私ね、すごく忙しくなると、食べるものなんて、どうでもよくなって、夜、シリアルなんか食べるのよ。おほほ!」

「私も時々やりますよ! 冷蔵庫に何もなくて、とりあえず牛乳があれば、シリアルね。あれはひとまず、健康にいいから」

しかし、夕食にシリアルって、かなり寂しいのよね。冷たいし。

 

<金曜日>

午前中は印刷所へ。某旅行会社の会社案内の印刷だ。紙を間違えることもなく、仕上がりもよく、満足。午後はミーティングを挟んでひたすら原稿執筆。

 

●2週間前の出来事ダイアリー

 

<土〜月曜日>

三連休はA男と思い切り遊んだ。すがすがしいほどに仕事をせず、すっきりした。

日曜日は、ソーホーにFUTONを買いに行った。FUTONとは日本の布団のことである。しかし日本のような柔らかい布団ではなく、体育館で使う床運動用のマットのようなものをアメリカではFUTONと呼ぶ。これに、好みのカバーをかけ、ソファー用のフレーム(台)を購入すると、「ソファー兼ベッド」になるのだ。

FUTONは普通のスプリング入りのベッドよりもしっかりしていて、腰にもいい。私はもっぱらこのFUTONを愛用している。A男がニューヨークに来たときは、スプリングが柔らかいソファーベッドを使っていたのだが、寝心地が悪いので、新しいFUTONを買いに行った次第。

日本では見かけないが、日本のように狭い家にこそ、折り畳み可能で見た目も悪くないFUTONソファーは打ってつけだと思う。腰にもいいし。売り出せば、きっと需要はあると思う。

 

<火曜日>

ミッドタウンにある「ウォルドルフ・アストリア」というホテルのカフェで、muse new york「国際結婚をした女性インタビュー」の記事のためのインタビューに出かける。ニューヨーク在住約20年のY子さん。初めてお目にかかるのに、飾り気のない話をしてくれて、うれしかった。

アメリカ人の夫と、決してうまくいっているわけではないけれども努力している実状などを、淡々と語ってくれる。入稿まで時間がないので、オフィスに戻ってすぐ、原稿を書き上げる。

 

<水〜金曜>

ひたすら、ひたすら、muse new yorkの制作。火曜、水曜の夜は、ついに「シリアルの夕餉」となった。ランチも、枝豆とか、バナナとか、そうめんとか、パッとしないものばかり食べて、あとはコンピュータに向かう。それに歯止めをかけてくれたのは、木曜夜のクライアントとのお食事会。

先日帰任したA田氏後任のM本氏、それにN崎氏。それとクリエイティブメンバーである広告代理店K氏にデザイナーのE女史の計5名。メキシカンレストランで、待ち合わせの7時から11時半まで、延々と会話しまくる。

途中、M本氏は、おとなりのニュージャージー州にお住まいだということで早退。1時間に1本しか電車がないらしい。しかも、家の近所では、毎年シカが車にひかれて数十頭死亡するという、かなりの奥地らしい。マンハッタン島を離れると、アメリカは自然がいっぱいだから、というか田舎だから、納得のいく話だ。

同世代のN崎氏とは、特に話が盛り上がる。彼の妻は私に似たタイプらしく(体格がいいという点で)、これまで女性と対戦して、腕相撲に負けたことがないと言う。だいたい、そんなことを自慢げに語ること自体も、私と酷似している。

しかし、私が腕相撲が強かったのは十代まで。さすがに社会人になってから、他の女性と対戦したことはない。しかしN崎氏の妻はかなりうわて。未だ現役で、記録を保持しているという。いつの日かの彼女との対戦に向けて、私も体力強化するべきか。

 

<土曜>

muse new yorkの読者の一人が、自分が参加している日本人ゴスペルグループの取材に来て欲しいということで、ハーレムへ。十数名の有志で結成されたグループで、その日は講師である黒人女性の自宅でレッスンだった。

ハーレムにある教会の聖職者でもある彼女。その声の、なんとパワフルなことか。

黒人の歌声を聞くたびに、同じ人間なのに、どうしてこんなに発声が違うのだろうと思わずにはいられない。リズム感も、発声も、なにもかもが「楽しげに身体の内部からわき上がってくる」感じなのだ。彼女に限らず、街を歩いていて、鼻歌を歌う、その声でさえ、はっとさせられることが多い。

 

●1週間前の出来事ダイアリー

 

<日曜>

ひたすら仕事。

 

<月曜>

午前中、印刷所へ。クライアントのフライヤー(チラシのようなもの)の印刷だ。今回も色がきれいに出ていて、いい感じ。トラブルなく終了。

夕方、日本人経営の出力センターに出しておいたmuse new york の印刷用フィルムの仕上がりを確認に行く。夫婦で経営しているオフィスで、社員も数名いる。そこの奥さんが、年が近いこともあり、時々話をする。いつか書いたが、F1のシューマッハファンの女性だ。今頃、夫婦でF1を観にモントリオールにいるはずだ。

帰り道、MACY'S(メイシーズ)という大衆的なデパートで、父の日のお買い物。金髪の美女がサーフィンやらジェットスキーをしているイラスト入りの派手なアロハシャツなどを購入。レジの女性が、始終、鼻歌ではなく、きっぱりとした大声で、プッチーニのオペラを歌い続けていたのには辟易した。私も、道を歩きながらなど平気で歌うほうだが、接客しながら歌うのはやめてほしい。落ち着かない。

さらに帰り道のスポーツショップでヤンキースのTシャツと短パンも購入。

深夜、日本のクライアントから電話。新しい仕事の依頼だが、どうしても予算の折り合いがつかない。更にはドルではなく円で契約したいと言われる。わかるけれど、ここはアメリカの会社だからドルでなければ契約できないと突っ張ねる。突っ張っねたら、上の者と検討しますと言われた。このあたりのさじ加減、難しい。

 

<火曜>

ようやく、muse new yorkを印刷所に入稿。息が詰まる日々が一段落したので、Sさんの経営するエステティックサロンへ。久しぶりのフェイシャルですっきり。嫁入り前なのだから、これくらいのお手入れはしなければ。そういえば、半年くらい美容院に行っていない。「長い髪って便利よね〜」なんて言ってる場合ではない。インド前に、一度は行かねば。

夜は、通訳をやってくれた女優志望Mさんと、かつてコム・デ・ギャルソンの青山店の店長をしていたKさんが遊びに来る。シャンパーンで乾杯し、近所のイタリアンで出前を取り、ワインを開け、飲んで食べて、ひたすらしゃべる。Kさんは、37歳。1歳になる男の子がいる。来年、もう一人産む予定だとか。「子供、産めるんだったら産んだ方がいいよ」と諭される。ため息。

 

<水曜>

いつもはモノクロの印刷の場合、入稿から印刷まで3、4日かかるのが、印刷所のジェームズに「どうしても発行に間に合わないから、なんとか早く印刷して」と頼み込んだら、早くも今日と明日、印刷。やればできるじゃん!という感じ。1日中、印刷所。インクのシンナーっぽい匂いにやられる。

 

<木曜>

午前中印刷所。地下鉄でクイーンズに向かう途中、マンハッタン島とクイーンズ側を結ぶトンネル内の信号の故障で車内に30分も閉じこめられる。出がけにプーアール茶を一気飲みしたのが災いし、トイレに行きたくなるが、地下鉄にトイレはない。

印刷の予定時間に間には合わないし、トイレには行きたいしでイライラが高まる。車掌に「トイレに行きたい!」と訴えるも、もう少し待てと言われる。周囲の乗客から哀れみの視線……。気を紛らわそうと、出がけに本棚からつかみ取った文庫本を鞄から取り出す。太宰治の「斜陽」。ああ、そんなもの読む気分じゃない。

やっと電車が動いて、とりあえずトイレに行きたいからクイーンズプラザという駅で電車を降りるも、駅にはトイレがない。地上にあがってデリやドーナツ屋やピザ屋を訪ねるが、いずれもトイレは貸せないという。たとえ買い物をしても貸せないときたもんだ。人非人! トイレ求めて10分ほどあたりをさまよう。気が狂いそうだった。こういうことって、年に1、2回あるのよね。

午後、クライアントと打ち合わせ。慣れないサンダルで歩きすぎて足にまめができる。マンハッタンにいると、ついつい歩いてしまう。健康にはいいけれど、しゃれた靴を履けない。機能的な歩きやすい靴がいちばん。

夜は以前カラオケで盛り上がったRさんとディナー。結局、あれ以来会うのは初めてで、随分ごぶさたしていた。まずはイーストビレッジにある彼女の家へ。

息子のDくんは1歳を過ぎて、言葉を覚え始めているところ。私を見るなり、「ママは僕のもの!」と言わんばかりにRさんに抱きつく。「Dくん、久しぶり〜」といって、私が近寄ると、こともあろうか泣き始める。私がプレゼントしたパンツはいてるくせに、失礼な態度だ。

そのうちRさんの夫が帰宅。「Dが、坂田さんを見て泣いているのよ」とRさんが言えば、夫は「坂田さんの声が大きいからおびえてるんじゃないの?」ときたもんだ。失礼極まりない一家だ。

Dくんを夫に預けたRさんと、ノリータ(リトルイタリーの北側)にあるエチオピアレストランへ。インド料理のような、野菜や肉のカレー風のものを、クレープ状のパンと一緒に食べるのだ。

フォークをくれ、と頼むと「手で食べなければならない」とウエイターに言われる。それが文化なのか。おとなしく、手で食べる私たち。料理はどれもおいしかった。ただ、三角に畳んで出されるクレープが灰色なので、汚れたお手拭きみたいにみえるのが難。

食後はRさんのリクエストにより、カラオケ。前回の盛り上がりで味をしめたらしい。新しい歌手(鬼束ちひろとかいう人)の歌も練習してきたという。彼女の夫がソニー関係の仕事をしていることもあり、彼女は新曲情報も入手しているのだ。

私は、相変わらず伊藤咲子の「ひまわり娘」にはじまり、ユーミンや松田聖子を専門に歌う。数曲歌って、喉を整えたRさん、鬼束ちひろのなんとかいう曲をリクエストするのだが、なぜだか、鳥羽一郎の「東海道」が出てくる。何度やっても「東海道」。前奏を覚えてしまうくらいに「東海道」。

店の人に苦情を言って、7、8回目にしてようやく歌えた彼女は幸せそうだった。

===============

というわけで、今回は3週間の広く浅いレポートでした。

そうそう、この間、クーパースタウンとデトロイトのことを書いた雑誌が日本で出版されているようです。LIFE STYLE U.S.A.という名前の年刊誌で、米国大使館商務部が発行元です。紀伊國屋などで手にはいるようです。

とてもいい感じに仕上がっていたので、ご興味のある方は、紀伊國屋へ。確か1500円くらいだったと思います。


Back