臨時コメント(1)

9/11/2001 11:00AM 米国東海岸時間

 


わたしは今、ワシントンDC郊外(アーリントン)の自宅にいる。夫は勤務先のビルが閉鎖されるため、現在朝の11時だが、今、自宅に戻ってくる途中だ。

窓の向こうで、国防総省(ペンタゴン)が燃える煙が見える。

日本の両親からの電話でニュースを知った。朝食を食べたあと、急ぎの原稿をまとめているときで、インターネットのニュースも、テレビのニュースも見ていなかった。

慌ててテレビをつけると、ワールドトレードセンターが煙に包まれている。

繰り返し映し出される、旅客機がビルに突っ込むシーン。

何人の人たちが、どんなにか……、
どんな思いを抱えて……。

マンハッタンの知人たちに電話をしようと試みるが、だれにもつながらない。電話回線がパンクしているようだ。諦めていたころ、友人の一人からの電話がつながった。

彼女はダウンタウンのイーストビレッジに住んでいる。ワールドトレードセンターのあるロウアーマンハッタンとは結構近いエリアで、家の窓からワールドトレードセンターが見えるという。

彼女と二人、ショックのあまり放心状態で、とりとめもない会話を交わす。

いったい、なにが、どうなったというのだ。

彼女と話している途中、ワールドトレードセンターの北棟が、南棟に続いて崩壊した。わたしはCNNの映像で、彼女は窓から、その光景を眺めた。

ワールドトレードセンターが、消滅した。

これは、現実? 映画のシーンではないの?

彼女の電話の向こうでも、そしてこちらでも、消防車やパトカーのサイレンが響きわたり、胸を締め付ける。

世の中の平和と、世の中の戦争。

いつもと変わらぬ日常の、澄み渡る青空の下に、黒々とした死が横たわっていたとは。

亡くなった人々の、いったい誰が、こんな日を想像しただろう。

あのビルの崩壊で、大勢の人々の死によって、
これから先、どれほどのひずみが、アメリカだけでなく、全世界に広がるのか。

ワールドトレードセンターは、貿易、金融、経済の、まさに「世界の中心」だったのだ。

たった今、夫も戻ってきた。彼の知人も、ワールドトレードセンター界隈で働く人が多く、いったい、誰がどうなっているのか、今は知る術もない。

今はただ、心が痛む。

世界は美しく、そして悲劇に満ちている。


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