『街の灯』営業報告 ニューヨーク編
(2002年10月13日〜18日)
●10月14日(月):晴れ

午前中、ワシントンDC発、車で一路、ニューヨークへ。

午前中、Hertzでレンタカーをピックアップ。フライヤー2万部刷ったうちの1万部と『街の灯』見本誌を数十冊、トランクに詰め込んで、いざ、ニューヨークへ。

途中、渋滞などに巻き込まれ、3時頃ニュージャージー到着。マンハッタンに入る前に、郊外にフライヤーを配布してまわる予定なのだが、時間があまりない。


ニュージャージーからハドソン川を挟んでマンハッタンを望む。
写真はクリックすると大きくなります。

日系スーパーマーケットのMITSUWA、大道など、かつて「muse new york」を置いてもらっていた店を訪れ、フライヤーを置いてもらう。

MITSUWAの向かいにあるニュージャージー紀伊國屋書店の店長、坂本英夫氏に面会。『街の灯』の取り寄せを依頼する。現在、ストライキの関係で西海岸の港からの積み込み作業が滞っているらしく、多くの流通関係者が打撃をうけているらしい。書籍も2週間ほど届いていないらしい。

「たいへんですね〜。でも、本は食料品とか生ものじゃないから、よかったですよね」

「いや、週刊誌なんかは、古くなると売れませんからね」

……確かに。

フォートリーの知人のヘアサロンに寄るが、残念ながら定休日。資料と見本誌を置いてくる。

ウエストチェスター郡のホワイトプレーンズへ。ジョージワシントン・ブリッジが大渋滞で、時間がかかる。夕暮れのハドソン川を眺めつつ……。

「muse new york」の最終号をデリバリーしているとき、(こんな肉体労働はこれで最後だ)と感慨深く思っていたにもかかわらず、1年もたたないうちにまたやってるぜ、と自分につっこみをいれる。こういうことをやらざるを得ない性分なのね。なんだか売れない演歌歌手が、場末の酒場で流しをしているのと、ちょっと似てるわね、と思いつつ。似てない……?

本当はホワイトプレーンズに住んでる玲子さんの家にお邪魔して、ちょっとおしゃべりでもしていこうと思ってのだが、とても間に合いそうにない。ああ、大渋滞よ!

大渋滞をどうにかクリアして、95号線に乗り東へ突っ走る。ホワイトプレーンズの大道にフライヤーを置かせてもらう。本当は明治屋とかフジマートとか、他の日系店もめぐるつもりだったが、日暮れが近づいてきて、寂しげな気分になってきたので、あっさり諦めることにする。だって、明日からが勝負だもの。情熱&体力を温存しておかなければ。

玲子さんは友人家族と夕食の約束をしているらしく、5時45分に家を出るとのことだった。間に合わなければ家の前に置いて行くつもりだったが、ぎりぎり5時45分に彼女の家に到着。一家は出発するため家の外に出ようとしているところだった。

渡すものだけ渡して、マンハッタンへの最短距離を聞いて、竜巻のように去る。ちなみに彼女は『街の灯』10冊購入してくれた。ありがとう! 1冊おまけする。フライヤーも大量に託す。よろしくね。

日が暮れてきた。

マンハッタンの交通事情は相変わらず。イエローキャブにあおられたり邪魔されたりするが、今日はまけずに、少々荒っぽい運転。でも、基本が安全運転だから、大した「荒っぽさ」ではない。

マンハッタンは新市長により交通ルールが変わっていて、渋滞を防ぐための一方通行ルートが確立されていた。それを知らずに走っていたものだから、ウエストサイドのホテルの近くまでたどり着いたにもかかわらず、ホテルの前に車を停めるにはぐるーーーっと一周せねばならず、結局、イーストサイドまで戻ったりして、「もう、いい加減にして〜!」と叫びたくなった。

どろどろになりながら、なんとかホテルに到着。カートに大荷物を移し、車を入り口に停めてドアマンに見張っていてもらい、カートを引きずりチェックイン。ホテルのフロントは長蛇の列で、20分も待たされる。なにしろ巨大ツーリストホテルだから、遅い時間でもお客がたくさんやってくるのだ。

8時までにレンタカーを返さなければならなかったのに、ハーツのオフィスに着いたときには8時5分になっていた。

オフィスにはまだおじさんがいたから、「5分くらいいいでしょ!」と懇願するが、「絶対にだめだ」とのこと。(もう、けちくさいおやじ! 5分ぐらい、いいやんけ!) 心中にて叫びつつも、どうせ無理だろうと諦めて車を出す。悔し紛れに「インターネットでは9時まで営業って書いてあったわよ!」と適当なことを口走って立ち去る。我ながら情けない。

さらに離れたオフィスまで行く。ウエストエンド最果ての、さびれたハーツ。そこから歩いてホテル近くまで戻る。疲労ピークでへとへと。

なんだかんだで合計10時間近く運転したのだから、疲れて当然だよなあ。

でも、外の空気の冷たさが心地よく、久しぶりのマンハッタンの匂いがうれしくて、歩いているうちに元気になる。

9時頃ホテル界隈(ペンステーション付近)に到着。コリアタウンに近いので、コリアン家庭料理の店へ行くことにする。ちなみに『街の灯』に書いている「しっかり、ご飯」の店とは違う店だけど、ここもソロンタンという白濁スープがおいしいのだ。

まずはアサヒビールをオーダー。よく冷えたビールがうまいぜ! 一人、ビビンパを食べる。付け合わせのソロンタンもおいしい。キムチ&カクテキも大量に食べる。

ホテルの部屋はおんぼろだが、シャワーの水圧がもの凄い。ともかく、シャワー全開にしたら痛いくらいに強い。まるで健康センターなんかにある「打たせ湯」並み、もしくはそれ以上だ。全身のつぼを刺激するようにシャワーを浴び、かなり気分爽快。

マイハニー、A男に電話をし、おやすみを言ったあと、爆睡。

 

●10月15日(火):晴れ

NYメディア関係者訪問。ニューヨーク紀伊國屋でレクチャー&サイン会も決まる。

青空広がる爽やかな朝。小型のスーツケースに『街の灯』大量、フライヤー大量を詰め込み、いざ出陣。ミッドタウンのカフェヨーロッパでパンケーキのフルーツ添えとカフェオレで朝食。

10:00 五番街のIZUMI SALONへ。ここは行きつけのヘアサロンで店長のいずみさんとは顔なじみ。打ち合わせのまえに時間があったので立ち寄ったら、ちょうど開店の準備をしているところだった。

本を出すことはあらかじめ伝えていたのだが、オリジナルを見て喜んでくれた。普段は他のフライヤーなどを置かないきれいなサロンなのだが、特別に置いてくれるという。お礼に『街の灯』を1冊進呈。

10:30 五番街にある読売アメリカ社訪問。広告営業マネージャーの植田暁芳氏、広告担当の飯田信子さん、そして初対面の編集担当大塚良美さんに面会。近況報告その他、世間話で1時間ほど皆さんとお話しする。

植田さんとは、私がミューズ・パブリッシングの設立当時、営業というかご挨拶に伺って以来だから、4年ぶりの対面である。

「ぼくは長年、ニューヨークで仕事をしてきたけれど、自分が営業されたのは初めてだったから、インパクトがあった」とのこと。

そうなの。ミューズ・パブリッシング設立当初は、やみくもに営業していたのよねえ。わたし。

近々読売アメリカ(読売新聞の衛星版に週一回折り込まれてくるアメリカ版の読売新聞)に『街の灯』の記事を載せていただけるとのこと。『街の灯』2冊進呈。

11:30 ロックフェラーセンターにあるニューヨーク紀伊國屋書店へ。市橋栄一店長に面会。読売アメリカの植田さんが、わたしが去った直後に電話を一本入れ、『街の灯』を推してくださった模様。

11月14日木曜日午後6時よりレクチャーとサイン会を開催してもらえることになった。

セールスマネージャーの石井温己氏を紹介される。石井氏によれば、『街の灯』を10冊取り寄せ中とのこと。レクチャー&サイン会までにさらに30冊、追加で取り寄せて下さるらしい。お二人に、『街の灯』1冊ずつ計2冊進呈。

「少なくとも30名、坂田さん、集めてくださいよ」と市橋氏にノルマ課せられる。

皆さん、お願い。来てね。

帰りしな、紀伊國屋で偶然、知人のなおこさんに遭遇。以前、同じビルに住んでいた女性だ。『街の灯』を一冊、お買いあげいただく。ありがとう! フライヤーも渡す。早速、レクチャー&サイン会に来てくれと強要、その場でスケジュール帳に書き込んでもらう。

12:30 OCSニュースの営業、猛烈に顔の広い星野直克氏と、ミッドタウンの浪花レストランでランチ。ちなみにうな丼と豚汁のセットを食べる。豚汁、やや甘過ぎか。しばし、ニューヨークの近況などを語り合う。

その後、ルーズベルトホテルのカフェでお茶。星野さん、フライヤーを大量に預かってくれた。『街の灯』1冊進呈。

2:30 チェルシーにあるOCSニュースの編集部を訪問。編集長の郷津秀樹氏と面会。彼ともやはり4年ほど前に、営業で訪れたときに一度お会いしたきりである。早速、紀伊國屋のレクチャーの件を伝えると、取材をしてくれるとのこと。読者プレゼント用に『街の灯』3冊進呈。

チェルシーからユニオンスクエアまで歩く。スターバックスでしばし休憩。

ユニオンスクエアからソーホーまで歩く。荷物が少しずつ減っていき、引っ張るスーツケースが軽くなるのがうれしい。

ソーホーのジャピオン編集部へ。編集長の大山智子さんと面会。彼女とは今回初めてお会いする。

早めに到着したので、彼女が外出先から帰ってくるのを待つ間、『街の灯』をテーブルのうえに置いておいたら、社員の女性から声をかけられる。つい最近、ニューヨークに来たばかりで、以前からわたしのメールマガジンを読んでいたらしい。ちなみに福岡出身で、シティ情報ふくおかの編集部にいたという。「こんなところでお会いできるなんて!」と驚いていらした。フライヤーを数枚、お渡しする。

ほどなくして大山さん、帰社。今朝、SHIZUKA new yorkの静さんと会ってきたらしい。わたしは明日、静さんと夕食の約束あり。ニューヨークは、狭いことよ。

一旦ホテルに戻り、夕食の約束までの1時間、コンタクトレンズをはずし、服を脱ぎ捨て、部屋着に着替えてリラックス。コリアタウンのスパ(垢擦りやサウナがある)にでも行きたいところだが、それほどは時間がない。THANKS CARDなどを書く。

夜、エンパイアステートビルにオフィスを持つ、弁護士の笠野れいこさんとフレンチビストロでディナー。彼女はミューズ・パブリッシングの会社設立関係の資料を作ってくれた人。これまでも、たまーにお食事をご一緒していた。

たまたま笠野さんの友人たち(日本からオーガニック関係の調査でやってきた、異業種のグループ)が隣のテーブルで夕食をとっていた。彼女がこの店を紹介していたらしいが、それにしても、偶然。ニューヨークは狭いことよ。

オーガニックのグループの方々6名にも『街の灯』フライヤーをお渡しする。「日本で必ず買いますね! 面白そうだもの!」と言ってくださった方3名。ありがとう!

11:00ホテルに戻る。長い一日だった。A男は今日から2泊3日でボストン出張。カンファレンスに出席する傍ら、いろいろな人たちに会っているらしい。

お互い、疲れ切ってはいるものの、互いのミーティングの成果を自慢しあう。しかし、お互い自分のことをしゃべるばかりで、相手の話はろくに聞いちゃいない。

 

●10月16日(水):風雨

雨降る中、今日も営業。新しい仕事の話も出て二次的効果。おいしいものも食べて幸せ。

天気予報では、今日は強風強雨、つまり嵐だとの予想。スーツケースを引きずって、傘を差しつつ街を歩けるのだろうかと、ホテルの部屋を出る前しばらく逡巡。いざとなれば、ホテルにタクシーで戻ってくればいいのだと決め、ホテルのタオルをスーツケースに詰め込み、いざ出陣。

競争率高いなか、何とかタクシーを捕まえ、52丁目イーストサイドへ。au bon painでカフェオレ、グラノラ入りヨーグルトにて朝食。

10:00 FCI(フジサンケイ・コミュニケーション・インターナショナル)の岡村稔氏に面会。『街の灯』をテレビメディアでどうしてほしいという、特に要望はなかったが、何はともあれ、営業。

岡村氏とは、去年、某企業へのプレゼンの時に同席したことがあったが、一度しかお会いしていなかったので、きちんと話をするのは今回が初めてだった。

なんだかあれこれと話が弾んで、1時間以上も居座ってしまった。というか、今回お会いする方、みなそれぞれにニューヨークで活躍している人たちばかりだから、話を聞くのもするのも楽しいのだ。つい、あれこれと「インタビュー」してしまう。『街の灯』一冊進呈。フライヤー託す。

雨風ひどく、ズボンの裾を折り返して歩く。かなりみすぼらしい。時折、折り畳み傘、お猪口になりにけり。タオル持参で正解だった。

11:30 Y's パブリッシングの吉田仁社長に面会。ここは「ニューヨーク便利帳」など、ガイドブック関係を作っている制作プロダクションだ。Y'sとは、これまでも何度か仕事をしたことがあり、吉田さんとも面識あり。『街の灯』1冊進呈、フライヤー託す。ここでもついつい1時間近く長居。

雨風ひどく、ズボンの裾を折り返していても、かなり濡れる。スーツケースも濡れる。『街の灯』、湿気でふにゃりとした手触りになり。スーツケースにビニールを被せて歩こうかとも思ったが、それではまるでホームレスのようになってしまうと、思いとどまる。

12:30 イタリアンレストランで友人の春日真由美さんとランチ。彼女は梅光女学院大学の先輩にあたる女性で、フランス人夫と二人の子供を持つフォトジャーナリスト。昼間から白ワインで乾杯。ムール貝の前菜に、トマトソースとバジルのスパゲッティ、デザートのソルベまで平らげたあと、コーヒーを飲む。

仕事以外の話が出来るのもまた楽しく、瞬く間に時間が過ぎる。結局2時間半もレストランにいた。『街の灯』1冊進呈。フライヤーも大量に託す。紀伊國屋のサイン会に来てくれるとのこと。Palm(電子手帳)に、早速スケジュールを入力していただく。

雨、やや小降りになったものの、風強く。

3:30 五番街のランジェリーショップ、リップルへ。店長の呉城秋実さんとしばしおしゃべり。彼女は「muse new york」時代から、わたしの文章を気に入ってくれていて、応援してくれる。もちろん、わたしもここの下着を愛用している。彼女にも『街の灯』1冊進呈。大量のフライヤーを店内に置かせてもらう。

紀伊國屋は近いので、店番を交代しつつ、紀伊國屋のレクチャー&サイン会に来てくれるとのこと。その場でカレンダーに予定を書き込んでもらう。

4:40 やはり五番街にある石塚会計事務所へ。ミューズ・パブリッシングの会計をお願いしている事務所だ。石塚さんは『街の灯』にもさりげなく登場しているので、その旨をお伝えし、『街の灯』1冊、謹んで献本。フライヤーも託す。

しばし、会社の話などする。相変わらず弾けたコメントを連発してくださり、楽しいひととき。クラシック音楽に剣道、囲碁と、趣味が多彩な石塚さん。正式な年齢はよく知らないが、若々しく元気そうだった。

5:30 マディソン街のUSフロントラインニュースへ。わたしが渡米直後に勤めていた日系の出版社だ。クライアントの広告入稿のため、営業の井ヶ田巌氏にデータを渡したあと、この間ワシントンDC特集を書いたとき担当だった細田雅大氏に初めてお会いする。

そのあと、古株の総務担当山本晶子さん、やはり古株のデザイナー岡松晴美さん、二村水鳥さん、営業の宇井崇夫さんなど、顔見知りの人たちにも面会し、『街の灯』宣伝しまくる。

今回初対面の編集者山本航氏にもお会いし、紀伊國屋でのレクチャー&サイン会のことをイベント情報欄に掲載してもらう依頼。

みなさん、とても積極的に応援してくださり(多分)、とてもうれしい。

最後に社長室で、藤原龍社長と対面。藤原さんも、『街の灯』にちらりと登場している。その旨お伝えし、『街の灯』謹んで、献本。

フロントラインがウエストチェスターのホワイトプレーンズにあるサファリブックスという小さな書店を経営していると言うことを初めて知る。藤原さんが、そこでサイン会をしてはどうかと提案してくださる。

多分11月16日、土曜日、店内は狭いので、店頭に机を出して、サイン会をさせていただく可能性大。近所に日本食料品店の大道があるので、週末買い物にくる家族連れに『街の灯』を宣伝する。夏だったらよかったのだが、11月半ばと言えば寒いのが難点。膝掛け、カイロ必携か。

ややわびしい感じがしないでもないが、この際なんだってやらねば。やっぱり、どさまわりの売れない演歌歌手みたいだな。

この場合、一人じゃあまりにも寂しいから、ホワイトプレーンズに住んでる玲子さんを誘いたいところだが、彼女はいま妊娠9カ月で来月出産予定だから、無理な相談であろう。相変わらず単独行動か。

夕食の待ち合わせまで、ホテルのバーでくつろぐ。今日も長い一日だった。

寒いので、待ち合わせの店へ行く途中、ハイネックのセーターを買う。

7:30 ミッドタウン44丁目にある「すし膳」へ。SHIZUKA new yorkの静さんと夕食。『街の灯』1冊お買いあげ。ありがとうございます! 1冊はサロンに進呈。

「すし膳」のカウンターにて、お任せメニュー。最近、移転して新しくなったこの店、わたしは初めて来た。刺身、小料理、なにもかもかなりおいしくて感動する。刺身の新鮮さにも驚く。この間、福岡でおいしい刺身を食べてきたばかりだが、勝るとも劣らない、よい料理だった。

・お通し
・セビーチェ(ブラジル風刺身のマリネサラダ)
・牛のたたき(これが霜降りでおいしい!)
・トロ、アジ、ハマチなどの刺身盛り合わせ
・イチジクの揚げ出し豆腐風(小振りのいちじくを揚げてだし汁に浸したもの)
・松茸の土瓶蒸し(いい香りで気分がリラックスする)
・豚の角煮の春巻き風
・薄く切った松茸にたっぷりのウニをくるんで天ぷらにしたもの(超おいしい)
・おでん風の大根のうえに、フォアグラを載せたもの。フォアグラ格別!
・やったらおいしい小振りの寿司数種
・グレープフルーツゼリーのデザート

もう、二人して、食べる食べる食べる。ビールとワインも飲む。ともかく、大満足であった。お値段もそれなりに高かったが、値段の価値は十分にある味だった。

カウンターの寿司シェフ清水氏と杉本さん(女性)と時折、世間話をしつつ、あれこれと会話が弾む。

ちなみに店長夫妻(鈴木さん)と静さんは知り合い。

「こちら、坂田さんです。彼女、作家なんです」

出た! は、はずかしいぞ! 静さんも、A男的だわ。彼も最近

「こちらは僕の妻の美穂で、Novelistなんです」が常套句だからな。

いやいや、まだまだライターです。

そう思いつつも、フライヤーやメディアの記事をまとめたチラシなど、バッグから次々に取り出して宣伝。

もう、宣伝魔。フライヤー渡し魔。「紀伊國屋のレクチャーに来てください」魔。

ふと気付いたら、店内には誰もいなくて、もう閉店の準備が出来ている。今夜もまた長居。3時間ほどゆっくりと、食事を楽しんだ。店の人、みなに見送られ、華やかに退散。

 

●10月17日(木):晴れ、夜、雨

営業最終日。晴れていてよかった。今日も一日歩いて、最後にステーキ

ちょっと疲れ気味だったので、遅めの起床。窓の外には抜けるような青い空が広がっている。ニューヨークの秋の空。大好きな色。

こんな天気ならば、多少の荷物も気にならない。今日が最後なのだからと、フライヤーを運べるだけスーツケースに詰め込んで、いざ出陣。

マンハッタンはごみごみしているけれど、車椅子や乳母車の移動が可能な街。よってスーツケースを引きずっていても、さほど苦にならないのだ。腰痛が再発しないよう、気を配りつつこれでも行動しているつもりである。

ペンステーションから五番街まで歩く。41丁目のカフェで、カフェラテを飲む。今日の朝食はこれだけ。夕べの料理がまだお腹に残っていて、珍しくお腹が空かないのだ。でも、日本料理は満腹でも胃にもたれないからいい。

ゆうべ、JCBの岩田氏から、近々帰任するとのメールを受け取っていた。ニューヨーク時代、JCBの仕事はいろいろとやらせてもらっていた。ぜひ一度挨拶したいと思ったので連絡を入れる。幸い時間が空いているとのことで、即、訪問。

11:00 JCBアメリカの岩田氏に面会。知人、友人に郵送していた『街の灯』案内の手紙がちょうど届いていて、彼もそれを見てメールをくれたらしい。『街の灯』一冊贈呈。5年の駐在を経ての帰国。「サヨナラ・マンハッタン」が、きっとぴったりの心境だろう。思い出の一冊にしてほしい。フライヤーをJCBサロンに置いてもらう。

12:00 友人の目黒玲子さんとランチ。タイフーン・ブリュワリーという、ブリュワリー(ビール樽あり)を備えたマレーシア料理店。以前はおいしかったが、今は高いばかりで味はいまいち。彼女としばし、長話。

『街の灯』の内容について、文章はうまいし、いい内容だとほめてくれるが、

「坂田さんを知っているわたしとしては、ものわかりがよすぎる内容」で
「実際の坂田さんはもっとアグレッシブだし、話ももっと面白い」と言われる。……確かにそう思われるかもしれない。

でも、自分としては、アグレッシブよりは『街の灯』の自分のほうが、ずっと自分の素に近いと感じている……。人から見た坂田マルハン美穂の印象というのは、それぞれに微妙に違うのだろう。当たり前のことだが。

いずれ、少しずつ、さまざまな自分を表現していきたいと思った。

2:00 朝日新聞の竹永浩之氏に面会。彼とは3年ほど前に仕事で一度お会いした。彼は自分でコミュニティ誌などをずーっと長いこと発行している。メッセージ発信型の人物だ。ちなみにわたしとは近い年齢だと思う。

アメリカの日系社会、日本の傾向その他で話が盛り上がる。というか、お互い好き勝手なことを止めどなく話した。楽しかった。ここでもまた、1時間以上もお邪魔した。『街の灯』一冊進呈、フライヤー大量に託す。

朝日新聞のビルを出た瞬間、以前一緒に仕事をしていたデザイナーの家が近いことに気付く。夕方のアポイントメントは入れていなかったので、彼女に電話をすると、自宅にいるということなので、早速向かう。

4:00 EPIデザインネットワークへ。ミューズ同様ご自宅がオフィス。夫、今井氏は建築デザイナー、妻石川さんはグラフィックデザイナー。彼女とは去年まで、KDDIの仕事を3年ほど一緒にやっていた。今日は今年の入って初めて、久しぶりの対面だ。

彼女、今カスピ海ヨーグルトに凝っているらしく、日本から持ってきたものを繁殖(?)させて、毎日食べているらしい。
「お通じがよくなって、ものすごくいいのよ!」と絶賛する彼女。

つい先日、カスピ海ヨーグルトは確かにいいが、根を分けている間にいろいろな家庭のさまざまな雑菌が移り移って、最初とはちがう種類のヨーグルトになっている場合が多く、中には身体に悪い場合もあるといった記事を読んだばかりだったから、わたくし、やや疑い深く。

「大丈夫なの〜?」と疑心暗鬼な発言をしたものの、とにかく食べてみてと言われ、出されたヨーグルトは口当たりもよく滑らかなクリーム状で、とてもおいしかった。持って帰ればと言われたが、ホテル滞在だし、それこそホテルや列車の雑菌を混入しそうだったので遠慮する。

「それにしても、ポプラ社から本を出すなんてすごいじゃない! なんで、本を出すってこと秘密にしてたのよ!」と言われる。

確かに、出版が決まったのは去年だったが、大っぴらにしたのは出版1カ月前の8月だった。ごく限られた人たちには「出版することになる」とは言っていたものの、こればかりは、契約書もないし、わたしだけの判断でGOできる仕事ではなかったから、ものすごく慎重だったのだ。

自分だけの判断でできることは、いつも周りにあらかじめ触れ回っているから、そのギャップのせいで、「秘密にしていた」と思われた模様。ちなみに彼女は「公募」マニアで、自分でも小説を書いているのだ。

我々二人は饒舌なので会話がとまらず、またもや1時間以上、長居する。『街の灯』一冊進呈、フライヤー大量に託す。

その後、ロックフェラーセンターの紀伊國屋へ。ランチの時、玲子さんが『街の灯』が置いてあったと言っていたので、様子を見に行ったのだ。

店に入ってすぐのところに、平積みにされていた。よかった。でも、やっぱり、他の本に比べると、何の本か今ひとつわかりにくく、インパクトが弱い。

しばらく店頭で、人々の動向を観察する。誰一人として、開く人おらず。隣に並んだ本は何度か開かれていたが、『街の灯』、触る人すらおらず。いい場所に置いてあるのだが……。やっぱり、相当パブリシティに努力しなければ、と思う。

6:00 旭屋書店へ。グランドセントラル駅の近くにある日系の書店。ここの店長には、日本へ行く前に、『街の灯』を取り寄せていてほしいとの手紙を送っていた。アポイントメントは入れていなかったが、飛び込みでで面会依頼。

幸い店長の三井聡志氏がいらっしゃったのでご挨拶。わたしからの手紙を読んで、『街の灯』は取り寄せ中とのこと。一応、見本として『街の灯』、お渡しし、できれば目立つところに置いていただきたい旨、告げる。また、新聞などメディアに載った記事をまとめたチラシもお渡しする。

6:30 ニューヨーク最後の夜は、マイケル・ジョーダン・ステーキハウスへ。グランドセントラル駅の構内にある、開放感のあるユニークなロケーションの店なのだ。

小畑澄子さん、池城美菜子さんと会う。小畑さんは、新しい治療法に変えたため、副作用がきつくなったらしいが、それでも見る限りでは相変わらず元気そうで、相変わらず安心する。

池城さんは夏の間、甘いお酒を飲み過ぎて太ったからダイエット中らしいが、わたしの目にはちーっとも太っているようには見えず。

ダイエット中とはいうものの、三人して、ステーキを一皿ずつオーダー。他のテーブルを見て、「さほど大きくない」と判断してのオーダーだったが、小さめに見えたのはフィレステーキだったらしく、わたしのオーダーしたリブアイや小畑さんのニューヨーク・ストリップステーキ、それに池城さんのラムチョップ、いずれも巨大。

ステーキの味は、はっきりいっていまいちだった。肉のきめがあらく、ぱさぱさ感が否めない。わたしはポストハウスのステーキの方が好きだな。ちょっとファティでジューシーな、プライムリブやエイジドビーフがおいしいのだ。

とはいうものの、付けあわせのパンやマッシュポテト、クリームスピナッチ(ホウレンソウ)はおいしかったし、ワインやビールもおいしく、何よりあれこれと会話も弾み、楽しかった。

途中で、馬谷まりちゃん(以前、「muse new york」のニューヨークでがんばる日本人女性インタビューに登場してくれた彼女)も合流。彼女から、たまたま夕べメールをもらっていて、会いたいと言うことだったのだけど、もう明日帰るし、時間がなかったから、お茶だけでもと合流してもらったのだ。小畑さんも池城さんも、彼女とは面識はあったからよかった。

4人でコーヒーを何度もお代わりしつつ、結局11時近くにまで店にいた。4時間ほども過ごした。残りのステーキは二人にお持ち帰りしてもらい、ほどよく消化したところで店を去る。

三人とも、『街の灯』を購入してくれた。どうもありがとう! やっぱり、購入していただくのはとてもうれしい。なにしろ今回は、主にメディアに向けて献本ばかりだったから。

それでもって、フライヤーも預かってくれて、いろいろな人に渡してくれるとのこと。買ってもらって悪かったなと思ったくらい。レクチャー&サイン会にも来てくれるとのこと。本当にうれしい。

楽しい夜だった。

小雨がふっていたのでタクシーに乗るつもりだったが、なかなかタクシーがつかまらず、結局、歩いてホテルまで帰った。食後のいい運動だった。

今日も長い一日だった。

 

●10月18日(金):晴れ

ニューヨーク営業活動第一弾、ひとまず終了。お疲れさまでした!

9時頃だらだらと起床。10時にはチェックアウトし、荷物をホテルに預けたまま、コリアタウンのいきつけの眼鏡店でコンタクトレンズを購入。ちなみに32丁目の五番街とブロードウェイの間にある、FRENCH OPTICAL という店。ここはことあるごとに人に勧めているが、検眼もしてくれるし、みんな親切・丁寧でやさしくて、しかもリーズナブルで、わたしは4年来、愛用している。A男もここで眼鏡を買っている。

店長の(姉と弟で経営)は、別の店に出ていて不在だったが、日本語がしゃべれる他のスタッフがいて、彼女らもまたフレンドリーだった。『街の灯』のフライヤーを見せたら「店頭に貼っておきますね」と言ってくれ、何枚か手持ちのフライヤーも、日本人のお客さんに渡してくれるとのこと。とてもうれしかった。

ペン・ステーションの近くにあるK-KOBO という日本のオフィスで働いているFUKIKOさんと、列車の時間までランチ。彼女とは仕事を通して知り合ったが、数年前からプライベートでも会うようになっていた。『街の灯』と大量のフライヤーを託す。

1時のアムトラックでDCへ。車中で一眠りする予定だったが、玲子さんにもらっていた文庫本などを読みふけり、眠らぬままDC着。緑いっぱいの風景に、心身がリラックスする。というよりも、自分の家がある街は、多分どこでも、ほっとするのかもしれない。

A男はわたしの不在中、火曜から木曜までボストンに出張だった。そして今日は、打ち合わせでどこかの会社に出かけたあと、オフィスに戻らず、早めに家に帰ってきたらしい。わたしが家に着いたときにはすでに帰宅しており、

「ただいま〜」といって、出迎えてくれた。

パーティーのときに花をいただいていたので、「枯れたら捨ててね」と頼んでいたのだが、案の定、そのままドライフラワーになっていた。部屋は予想通り散らかっていたが、そんなことはもう慣れっこなので気にならない。

久しぶりの再会に、お互いの健闘をたたえあう。彼もボストンでいろんな人にあって、仕事をがんばってきたらしい。わたしが自分の報告をしたいのに、彼の方が「ぼくの方が先に説明する」と間断なくしゃべり続ける。

わたしは疲労した頭ながらも、幸せな心持ちで、彼の行動を聞きつつ荷をほどく。

「今夜は外食にする?」と聞くと「毎日外食だから、家で食べたい」という。

「食料がないよ」と言えば「買い物してきたから、あるよ」とのこと。

買い物をしてきたとは、なんとまあ、感心なこと! 

冷蔵庫を開けると、サーモンと貝柱、それに大きなナス……そしてインゲンが10本ほど! たった10本のインゲンをどうするのよ〜と大笑いしつつも、買い物してきた彼の成長ぶりに感動する。牛乳やコーヒーも買ってきていた。それにバナナやマンゴーのフルーツも。

そもそもの期待値が格段に低いから、こんな当たり前のことをされただけでもうれしくなってしまう。

料理は面倒だったが、わたしも外食続きだったから、家で作った方がいいだろうということで、手料理。久しぶりに二人で食卓を囲み、心穏やかな夕べ。

さあ、今週末は掃除洗濯、そしてリラックスして、来週からまた、がんばろう。