IINDIA: NEW DELHI
●ニューデリー●

DAY 14
12/28/2003

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■郊外へ、祖父の遺した家を見に行く。

目が覚める。今朝も寒い。ヨガをする気など、これっぽっちも起こらず、即座に着替え、お茶を飲み、階下へ下りる。相変わらず朝から空腹だ。

昨日のミルク粥がおいしかったので、ケサールに頼むが、調理に30分ほどかかるという。30分も待ってられないので、いつものようにトーストとスクランブルエッグを頼む。

インド滞在も、今日と明日を残すばかりとなった。明日、深夜の便でニューデリーを発つ。

ダディマと二人で、会話にならない会話をしながら朝食を食べていると、やがてA男、ロメイシュも下りてくる。スジャータは朝から3時間のヨガをやっており、その後、バスタブで30分ほどリラックスするのが日課らしいので、朝食はまだしばらくあとだ。

今日はそもそも、わたしとA男と二人で、A男の母方の祖父が、A男とスジャータに残していた家を見に行く予定だった。でも、毎度おなじみ、スジャータとロメイシュも一緒に来ることになった。

リタイア後、妻を亡くし、一人暮らしとなった祖父は、静かな場所に住みたくなった。郊外の、森に囲まれた場所に土地を買い、小さな家を建て、一人静かに(といっても使用人と一緒だが)余生を送るつもりでそこに越した。

しかしそこに暮らしたのは数年で、スイスのホテルで心臓発作を起こし、客死する。以来、その家は、9年近く放置されたままだという。無論、使用人が別棟の使用人部屋に住まい、「家の手入れ」兼「見張り」をしているという。空き家にしていると、誰が住み着くとも限らないからだ。

ファリダバード(Faridabad)と呼ばれるその地域は、ニューデリーから車で30分ほどのところにあった。祖父の家がある場所は、かつては山林の多い地域だったらしいが、周囲は造成が進められており、道中、少なくとも3種類の学校が建設されているのが見られた。

また、高級コンドミニアムやショッピングセンターらしき建設中の建物も見られ、ニューデリーよりもむしろ、郊外のほうがインドの好況を顕著に物語っているように感じた。

家は、(将来は)高級住宅地らしきエリアの一画にあった。祖父の家は10数年前に建てられたと言うが、他の家は比較的新しく、建設中の家も少なくない。

住宅街らしくはあるものの、何しろ道が悪く、祖父の家の前の道路も川のように水が溜まっていて、車が浸水してしまいそうなぬかるみだ。

その家は、日当たりのいい、とても静かな場所にあった。庭には、無差別に植えられた植物が、しかし枯れることなくそこにあり、確かに、誰かが水をやっているのだろうということが伺われる。

小さい家と聞いていたが、そこは一人で住むには十分に広い家だった。広いリビングに、広いダイニングルーム。そしてベッドルームが4室ある。屋上も広く、見晴らしもいい。

おおよその家財道具は撤去されていたが、古びたカーペットやソファー、本などがそのままに残されている。

いらない物はすべて処分して、誰かに貸せばいいのに。と思ったが、インドでは、いい「借り主」を探すのも簡単ではないらしい。貸しているにもかかわらず、家賃を払わず、「住み着かれてしまう」ようなケースもあるようだ。

それにしても、古い家財道具を置き去りにしたまま放置していたら家はどんどん傷む一方だから何とかした方がいいのでは。と口を挟んではみたものの、スジャータはしばらくこのままにしておきたいようだ。

ロメイシュ、A男、スジャータの3人であれこれ相談しているが、ま、ここはわたしの出る幕じゃなな、と思って口を閉じた。

スジャータたちが将来、こちらに引っ越してくる予定はなさそうだし、わたしたちもニューデリーには来たくないので、またこれから先10年くらい、放置されたままかもしれない。もったいないものだ。

 

■と〜ってもおいしいインド版ファストフードを食べに行く。

ふふふ。ランチタイムは、楽しみにしていたインド版ファストフード店、その名も「スウィーツ・コーナー」に行くのだ。

忘れもしない、前回の旅で胃腸をボロボロにやられていたわたしは、しかし、ロメイシュとウマ、A男、そして結婚式に来てくれたA男の友人マックスと5人で外出した。

その外出の折、みんなでこの店に来たのである。胃腸の弱っていたわたしには、店内に立ちこめる油っこい匂いすらもう、拷問だった。かといって、外に出ても、蒸し暑いばかりでやってられない。

皆は、次々に出される食べ物を、「おいしい、おいしい」と言いながら食べている。特にA男は、過度に「う〜ん! おいしい!  Amazing!(すばらしい!)」を連発するから、まじで張り倒したくなった。この男と一生、伴侶としてやっていく自信を、真剣に喪失したね。

顔面蒼白なわたしに、ロメイシュが「ミホは、お腹壊してるから、仕方ないもんね。この次来たとき、また来ようね」と微笑む。

(あ、あんたら、みんな、鬼よ〜!!)

そう叫びたい気持ちを我慢して、頬杖をつき、テーブルの隅をじっと見つめていたあの日。

その雪辱を果たす瞬間がやってきたのである。心が躍る。

結論から言うとだな。

「う〜ん! おいしい!  Amazing!(すばらしい!)」

と、あの日A男が言った気持ちがよ〜くわかったよ。んもう、おいしかった!

でも、頼んだ物すべてがおいしかったというわけじゃない。秀逸だったのは、まずは「パプリ・チャート PAPRI CHAAT」と呼ばれるスナック)。海外のレストランでは前菜として出されるものだが、基本的にはスナックである。

ヒヨコ豆、ジャガイモ、揚げ菓子などがマサラ(スパイス)の効いたヨーグルトであえられていて、上にチャツネなどが載っている。ともかく、食べて見ないことには、想像できない味なんだな。

今まで、米国のインド料理店で何度も食べてきたお気に入りの前菜だったけれど、これを食べて目からうろこが落ちた。今まで食べたのは、ありゃ、違ったと。

スナックの香ばしさと歯ごたえ、ヨーグルトの酸味。スパイスの具合。チャツネの甘さ。どれを取っても、抜群である。これは最初、A男と二人で分けるつもりだったが、追加注文する。

次に出された、小さめの定食は、豆の煮込みとチキンのカレーに、チャパティを揚げて風船状になったものが添えられた物。これも決して悪くはないが、パプリ・チャートのおいしさには及ばず。

その後、中が空洞の揚げたスナックに具と液体を詰めて食べる、「ゴル・ガッパ GOL GAPPA」も試す。これもまた、スナックの香ばしさとスパイシーなポテトなどの具、なぞの液体とのコンビネーションがよく、おいしい。

もう、かなりお腹一杯だし、デザートはいいよ。と思ったが、A男がここの「グラブ・ジャムン GULAB JAMUN」は格別なのだというので、仕方ない、試してみるとする。

グラブ・ジャムンとは、インドの甘いお菓子である。わたしもこれまでに、何度か作ったことがある。詳しくはこちらの4月26日を参照。

が、この「本物の味」には参ったね。弾力、甘み、舌触り……。中央に黄色くサフランが施されているのも憎い。総合点100点を与えたいね。と偉そうに言わせてちょうだい。

ちなみに、2年前、東京六本木のインド料理店で「出版&結婚披露パーティー」を開いたとき、A男が「デザートにはグラブ・ジャムンを出したい」と言ったのだが、オーナーであるインド人が申し訳なさそうに言った。

「グラブジャムンは日本人には甘すぎて、人気のないお菓子なんです。だからうちでは、いや、日本にあるたいていのインド料理店では出していません」とのこと。

というわけで、わたしの味覚がインド人化している恐れもあるため、一般の日本人がこの店でこれを食べても、「うげ! 甘っ!」と思うだけで、おいしいと思うかどうかはしりません。

この店の、グラブ・ジャムンミックスをわけてほしい。と思うくらいにおいしかった。しかし、猛烈にカロリーが高そうだった。

 

■庶民的な市場を巡り、モダンなショッピングモールを訪ねる。

心おきなくファストフードを味わった我々は、いったん、家に戻る。そしてわたしとA男はようやく二人きりで外出だ。

いや、別段、「A男と二人きりになりたい」のではなく、単に、粘着的な家族行動から解放されたいだけなのだ。なんだかんだといって、往生際の悪いわたしは、この期に及んでも、折に触れ、A男にぶーたれていた。

「だいたい、あなたは日本に来たとき、わたしの両親とはほとんど行動しなかったのに、なぜわたしは、こんなにも、四六時中、あなたの家族といっしょなわけ?」

「僕だって、ミホの両親と、一緒に過ごしたじゃないか。たとえば、おいしい焼き肉食べに行ったり、おいしい刺身とか寿司も食べたし、それから親戚の人と集まって、中国料理も食べたよ。それから、昼間はミホの家で、ミホのお父さんが作ってくれたビーフ、食べたし。あのビーフはおいしかったなあ」

「なによ、あなたが一緒だったのは、食事のときだけじゃない。一緒に温泉とかも行かなかった癖に」

「ミホがそんなに一緒に行きたかったなら、そう言ってくれればよかったのに。ぼくは日本語が話せないしさ。お父さんたちが何を考えてるか、わからないもん」

とまあ、このような不毛な会話を、意味もなく何度繰り返したことか。

本音を言えば、わたし自身、別段、日本の両親とA男を交えて、みっちり家族行動されても、通訳が大変だし、やっかいなのは重々承知なのだけどね。でも、なんだか、どうにも、フェアじゃないと思うのだ。

何しろ半年前には1カ月同居だしさ。でも、なんだかんだいっても、結局は、インド人の伴侶を選んだわたしの責任なのよね……。

さて、A男と二人きりで行く先は、オールドタウンの庶民的な市場があるところ。わたしが「ニューデリーの、庶民的な部分もきちんと見たい」と主張したら、家族の誰一人として、「一緒に行くよ」とは言わなかった。汚すぎて、行くのはいや、らしい。

というわけで、うまい具合に家族を吹っ切れたが、ドライバーのカトちゃんが、どうやら、余りにもごちゃごちゃしたエリアには、連れていきたくなさそうな気配。

危険度その他が今ひとつわからないので、わたしもあれこれと主張せずにいると、カトちゃんは、オールドタウンのはずれにあるらしい、そこそこの商店街に連れていってくれた。

そこは、想像していたほど、ひどいところではなかった。たとえるなら、東京の上野のアメ横を12倍くらい汚くした感じの場所だ。週末とあって、市街の交通量は少なかったが、この周辺に来て猛烈な渋滞に巻き込まれる。

「僕は、こんな汚いところに来たくなかったのに。ああ、時間の無駄だ。ミホは本当に、変なところに行きたがる!」と言ってA男がむくれる。

カトちゃんも運転に四苦八苦で、駐車する場所も見つけられず、ちょっと悪いことをしたかな。と思う。けれど、ローカルの人々の暮らしぶりを、可能な限り、見ておきたかったのだ。

車を降り、大勢の人が行き交う道を歩く。衣類や雑貨、電化製品、宝飾品など、ありとあらゆる商店が軒を連ねている。玉石混淆といった具合で、中にはとても質がよさそうなストールなどを扱っている店も点在している。

ともかく、生活感にあふれていて、活気があって、むくれていたA男も、それなりに楽しんでいる様子である。ちなみに彼は、今まで、一度もここへ来たことがなかったらしい。オールドタウンにも行ったことがないらしい。

30分ほど界隈を歩いたあと車に戻り、今度はモダンなショッピングモールに行くことにした。そこは、A男の実家からほど近い、ニューデリー南部にあるアンサル・プラザ Ansul Plazaというモールだ。

ここは、米国のそれと似たようなコンセプトで、デパートと、小売店が並ぶモールが併設されている。疲れていた上、あまり時間がなかったこともあり、ゆっくりと見られなかった。

にもかかわらず、A男が「インド映画のDVDを買うのだ!」と言ってCDショップに入ったきり出てこない。「あと5分」「あと5分」と言いながら、すでに30分以上だ。こんなことなら、別行動にすればよかった。

わたしは近くの店をうろうろしたり、人だかりができているコーンの店でコーンを買って食べたりする。

ちなみにこれは、蒸した粒コーンとマサラ(スパイス)をあえたもの。おいしいんだかまあまあなんだか、よくわからない味。今日はもう、スナック系を食べてばかりだ。

最後に例の、インド版スターバックス、バリスタ・カフェでカフェラテを飲んで帰る。カトちゃんには1時間くらいで戻ると言ったのに、2時間もかかってしまった。

カトちゃんは、約束の場所に立っていて、すぐさまわたしたちを見つけて、大きく手を振ってくれる。地上に駐車スペースを見つけられず、車は地下に停めていた。だから、寒い中、外で待っていたようで、悪いことをしたと思った。

家に戻り、夕べのパーティーの残りの夕食を食べる。スナックをあれこれと食べてお腹がいっぱいだったはずなのに、結構食べた。

夕食時、話題がバリスタ・カフェに及ぶ。わたしもA男も二人して「サービスが遅くて、コーヒーが出てくるまでに、10分以上もかかった」と文句を言う。

しかし、スジャータが言うには、インドにはこれまで、ゆっくりとコーヒーやチャイを味わえる、落ち着いた店がなかったから、人々は「ゆっくりと会話を楽しむために店に来ている」わけで、慌ててサービスしてもらわなくても、多分、満足しているのだと思う、とのこと。

確かに。少々高い料金を払っても、少々待たされても、友達や家族と、外でゆっくりとおしゃべりできる場所があるというのは、いいものなのかもしれない。

バリスタ・カフェは、これからも、のんびりのんびりと、コーヒーをサーブし続けるのかもしれない。

何につけても、自分の住み慣れた社会での慣習や価値観を基準にして物事を裁こうとする自分に気づく。避けたいと心がけていたはずなのに、「客観的に評価を下す立場」に立っている。

わたしは、まだこの国について、なにもしらない。もっと、いろいろなところを見たい。見た上で、考えたい。

もっと柔軟に、囚われなく、物事を捉える目を持とう。


ガソリンスタンドにて。空のボトルにガソリンを入れてもらい、いったい何に使うのだろう。


「ハッピー・ニューイヤー」はまだしも、「メリークリスマス」は、もう過ぎているが……。


空き家のままの、祖父の家。


置きざられたガーデン


お向かいさんは、かなりの大邸宅。


だけど、道路がこれなのよ。


右隣の家では、犬が塀に上ってるし。


左隣の家では、人が塀に上ってるし。


楽しみにしていたインド版ファスト・フードの店頭にて。


ドサもおいしそう! でも今日はドサじゃないものを食べるらしい。


チャパティを油で揚げたもの。膨らんできたら、油をかけつつ、こんがりとするまで火を通す。


でも、早く食べないと、すぐにぺしゃんとなってしまう。

みなさま! これです! この手前にあるのが、我々が大喜びで食べましたパプリ・チャートであります!

その後ろにある丸い物も、気になるでしょ? これも楽しい食べ物なの。


この定食物もおいしかったけど、パプリ・チャートには、かないませんな。


ゴル・ガッパの食べ方:まず、空洞のスナックに指で穴をあけます。


次に、ポテトとマサラがあえられたような具をいれます。


最後になんだかよくわかりませんが、緑色の液体をすくいいれ、こぼさないように一口でパクッと食べます。これもかなりおいしいです。


これです! これがグラブ・ジャムンです。ああもう、次にインドへ行くまで食べられないかと思うと辛いね。だって、もう、ほかのグラブ・ジャムンは食べられないよ。ここのを食べると。


これはだな。スジャータとロメイシュがオーダーしたのだが、クルフィというインド版アイスクリーム。マロニーみたいなものが添えられているが、実態がわからず。アイスは化粧品みたいなスパイスの香りがするので、わたしは苦手。在印半年目くらいにしてようやく、おいしいと思える味、という感じ。


お持ち帰り用のお菓子もいろいろ。


金銀箔ものも多い。全体にミルクを駆使したお菓子。


ご贈答用のパッケージ


お隣には西洋菓子の店が。


なんとまあ、種類豊富なクッキー!


さて。オールドタウンに近い商店街へ。いきなり、ものすごい電柱を発見す。


交通渋滞の激しいことこの上なく。


不思議ぬいぐるみを売る、自転車露天商。鋭いほどにカメラ目線。


あやしき「結婚相談所」の看板


「なぜミホは、こんなところに来たがるのだ?!」


人もバイクも車も入り乱れ


寺院らしき小屋。


やはり寺院であった。


無茶をするものだ。


こんな派手な下着を、路傍にさらしていいの?


懐かしき、ラムネ(レモネード)のボトル。


木やら電線やらを駆使してのディスプレイ


このあたり、上野のアメ横を彷彿とさせる


携帯電話のショップは、どこも大盛況だ


おこしのようなお菓子。


街角スナック屋さん。


店頭でジュエリーを作る職人。


雰囲気ががらりと変わって、こちらはモダンなショッピングモール、アンサル・プラザ。


フラッシュを焚かないつもりが、思い切り光って、「館内は撮影禁止です」と注意されてしまった。


バリスタ・カフェの店内。


店内は大混雑。

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