●危うきテーブルマナー

我が家の食卓では、朝食にシリアルやパンケーキを食べる際をのぞき、たいてい「箸」が供される。

料理は一般に箸で食べやすいように調理するため、パスタなどを除いては、肉類も箸で食べる。もちろん、わたしの都合である。

レストランなどではやむを得ないが、わたしは金属製の食器が歯に当たるのが、あまり好きではない。箸で食べた方がおいしく感じるのだ。

夫は幼少時、ニューデリーの中国料理レストランで箸の使い方を学んだ。なんでもその日、なかなか料理が届かず、家族全員、空腹でいらだっていたところ、ウエイターの一人がやって来て、まだ幼かった夫に親切に、箸の使い方を教えたらしい。

その場に居合わせた両親および姉は箸の使用に興味を示さず、従って彼だけが非常に器用に、しかも美しく(多分わたしよりも)箸を持つことができる。そしてそれは彼の「自慢話」でもあり、わたしも何度聞かされたかわかりゃしない。

それはさておき。

夫のテーブルマナーに対し、わたしは深い不満を持っている。食べるとき、やや猫背気味で、油断すると「ひじ」をついて食べるのだ。

「ひじ!」と指摘しても、また数秒後にはもとの黙阿弥である。

インドに行き、レストランに入るとわかるが、インドじゃ一般に、食事の際「素手」を使用する。テーブルに寄りかかるようにひじをついて、少々猫背気味に皿に向かい、料理を手から口に運ぶ。

つまり彼の国ではそれが文化なのだ。だから、無理矢理、矯正を強いられないのがつらいところである。

しかし、どうしても黙認しがたいのは、食事の中盤になって、箸で食べるのが面倒になると、「手で食べていい?」と言いながら同時に手で食べ始めることだ。それが魚の煮付けであろうが、鶏の唐揚げであろうが、ポテトサラダであろうが、である。

「そんな原始的な食べ方はやめて!」とでも言おうものなら、

「美穂は僕の国の文化を侮辱する気?」とくる。更には、

「日本だって、江戸スタイルがあるじゃないか!」ときたもんだ。

江戸前寿司は手で食べる。というネタをどこかから仕入れてきて、それを大上段に構えるのである。まったく、わけわからん。

しかしながら、指先で、皿についたごはんや煮物の汁気などもきれいさっぱりふき取るように食べて、「おいしかった」と満足そうにしているさまを見ると、まあ、仕方ないか、とも思う。

ところでインド人は指を汚さず、手で器用に料理を食べると一般に言われているが、夫の手は食後、指の付け根あたりまで、べとべとである。

つくづく、不器用な男である。

(6/6/2003)


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