運河と石畳の街 ブルージュへのいざない


 

中世の面影を今に残す「屋根のない美術館」

 15世紀、毛織物の交易で栄華を極めたその当時の面影を、美しく今にとどめる古都、ブルージュ。フランス語で「橋」という名を持つこの町は、至る所に運河が横たわる水の都だ。街の中心地は、石畳の広場マルクト Markt。かつての栄光をしのばせるギルドホールと鐘楼 Halle en Belfortや州旗を翻し堂々たるたたずまいの州庁舎 Provinciaal Hof、カフェテラスやレストランを備えた切妻屋根の建築物にぐるりと取り囲まれた、美しく活気に満ちあふれた広場だ。

 まずは、13世紀に建築された鐘楼の展望台へ行こう。366段の螺旋階段を上り詰めるとそこからは、赤茶色の屋根をいただいたブルージュの家並みが一望のもと。街の地理が手に取るようにわかる。太陽にきらめく運河や木々の深い緑が景色に色を添え、なんとも美しい。

 運河を滑る遊覧ボート(3月〜11月)もブルージュならではの楽しみ。鐘楼の南側に位置する運河には、4カ所の発着所がある。運転手兼ガイドの案内による約30分の運河の旅だ。花々に彩られた石造りの家並み、レースのカーテンが愛らしい窓辺などを間近に眺めながら、ボートは運河をすり抜けて行く。途中、白鳥に出合ったり、どこからともなくバイオリンの音色が響いてきたりと、なんともロマンティックだ。

 

ゆっくりと散策しながら見どころ巡り

 数多くの見どころが点在するブルージュ。観光情報を手に入れるなら、まずはマルクトに隣接するブルグ広場 Burg の観光案内所へ行こう。絵画に興味がある人は、ぜひグルーニング美術館 Groeningemuseum へ。ここにはファン・アイク、メムリンクらによる15世紀フランドル派の傑作が所蔵されているほか、近代シュールレアリズムの画家、ポール・デルボーやルネ・マグリットの世界にも触れられる。また、旧聖ヨハネ病院の中にあるメムリンク美術館 Memlingmuseum、中世の豪華な家具調度品が展示された貴族の館、グルートフーズ博物館 Gruuthusemuseum なども訪ねてみたい。高さ122mの塔を頂くゴシック建築のノートルダム教会 Onze-Lieve-Vrouwekerk には、ミケランジェロによる聖母子像が収められている。

 見どころを訪ねながら、縦横に入り組む石畳の小道を散策するのも楽しい。マルクトから四方にのびる通り沿いには、レースやタペストリーなどの民芸品店、チョコレートやワッフルのショップ、カフェ、ファッションブティックなどが軒を連ね、とても賑やかだ。石畳を打つ観光馬車の蹄の音も情緒を添えている。しかし、一本、道を外れると、急に静かな街並みに紛れ込み、犬と散歩する人や、軒先で談笑する人たちに出会うなど、日常の光景が垣間見られる。

 

ムール貝、ポテト、そしてビール!

 旅の楽しみは何といっても食べること。国民一人当たりのレストラン数が欧州一のベルギーは、知る人ぞ知るグルメの国。伝統的なフランス料理に郷土の味覚を加えたベルギー料理は、山海の幸をたっぷり使い、クリームソースなどで味付けしたものが多い。フランドル地方の郷土料理の筆頭はムール貝の白ワイン煮 Moules au Vin Blanc。大きな鍋にたっぷり盛られたムール貝は、香ばしいポム・フリート(フライドポテト)と共に。ベルジャンたちは、フォークを使わず貝の殻をピンセットのようにして身をつまみ出して食べている。真似してみると、フォークよりもずっと食べやすい。また、鶏肉か魚介類をクリームスープで煮込んだシチュー、ワーテル・ゾーイ Waterzooi、牛肉を黒ビールで煮込んだカルボナード・フラマンド Carbonnades Flamandes、野ウサギのワイン煮 Civet de Lievre a la Flamande なども代表的な料理だ。このほか、ウナギのグリーンソース煮込み Anguilles au Vert というユニークな料理もある。そして、更に食卓を賑わせてくれるのがビール。400種類を超えるベルギービールは製法もバラエティ豊かで個性的な味わいを持つものが多い。ゴールデンエール、トラピストエール、ランビックなど……。店の人に料理に合うビールを尋ねて、おすすめの味を試してみるのもいいだろう。

 

旅情をかきたてるロマンティックな宿 

 観光地ブルージュには、マルクトから歩いて行ける範囲内に、高級ホテルから部屋数の少ないB&Bまで、さまざまなタイプの宿泊施設が揃っている。家族経営のアットホームな宿も多く、旅人を温かく迎えてくれる。ブルージュならではの景観を楽しみたいなら、運河沿いの宿を選びたい。ロマンティックな滞在を演出してくれる。

 ホテルに関する情報は、ニューヨークのベルギー観光局(5ページ参照)で入手しよう。ヤHotels Flandersユ または ヤBRUGGE ACCOMMODATIONユというカタログに、ブルージュの宿泊施設が写真入りで掲載されている。料金をはじめ、特徴や設備など細かい情報も網羅されているので、非常に参考になる。ちなみに、宿の朝食はクロワッサンなどのパンにハムとチーズ、ヨーグルト、フルーツなどが一般的。酪農国でもあるベルギーは、ハムもチーズも種類が豊富で、どれも味わい深い。

 

緑いっぱいの道を、隣町までサイクリング

 お天気のいい日は、ぜひ隣町ダム Damme へサイクリングに出かけよう。ブルージュには鉄道駅など計5カ所のレンタサイクルショップがあり、1時間から1日単位で貸し出してくれる。ブルージュからダムまでは約7キロ。二つの町の間を、大きな運河がまっすぐに結んでいて、観光船が往復している。サイクリングロードはその運河の両側、背の高い並木が延々と続いているたもとにのびている。辺りは緑あふれる牧草地帯。草を食む牛や、風車がまわる田園風景の中を、爽やかな風を受けながら走る。自転車のペダルも軽やかに、最高のサイクリングロードだ。

 かつてはブルージュの外港として重要な役割を果たしていたダム。豊かな緑に包まれた小さな村は、自転車であっというまに一周できてしまう。村の外れからは、牧草地のただ中に向かって防風林の並木道がのびていて、何とも清々しい光景だ。時間に余裕があれば、さらに自転車を走らせるのもいいだろう。村の中心にある市庁舎 Stadhuis の前には目抜き通りが横たわっており、お洒落なカフェテラスや手作りデザートが目をひくベーカリー、雑貨店などが点在している。賑やかなブルージュとは裏腹に、とても静かでのんびりとしたところだ。自転車を止め、カフェテラスでランチを楽しんでゆくのもいい。

 

北海屈指のリゾート、クノック・ヘイストへ

 もしも車での旅行なら、ブルージュから北へ約17kmのクノック・ヘイスト Knokke-Heist へ足をのばそう。クノック・ヘイストとは北海沿岸のビーチリゾートの総称。豪華なカジノをはじめ、別荘地、ゴルフ場、高級ブランドやジュエリーのブティックなどがある洗練されたリゾートだ。19世紀後半には、多くの画家たちがここで暮らし、今でも50を超えるアートギャラリーがある。

 ビーチのシーズンでなくても、カジノにはぜひ訪れたい。2,000個のライトを備えた壮大なベネチアングラスのシャンデリアと、 ニキ・ド・サン・ファルのカラフルなオブジェが迎えてくれるエントランス、キースヘリングの壁画があるフロア、ポール・デルボー直筆の絵画が連なるダイニングルーム、ルネ・マグリットの巨大な複製画に囲まれたバンケットルーム……と、目に飛び込んでくるものすべてが実にゴージャス。まるで美術館そのものだ。しばしブルージュを離れ、ファッショナブルなリゾートで優雅な一夜を過ごすのも悪くない。

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小さな町ながらもさまざまな楽しみ方ができるブルージュ。短期間の旅にもぴったりの場所だ。もちろん、時間に余裕があれば、右のページで紹介している他の町へもぜひ足をのばそう。表情豊かなベルギーの魅力を実感できるに違いない。


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