THE WEDDING IN INDIA
インドで結婚式

7/14/2001

★下部に写真があります。


ついに、インド初上陸

ニューヨーク発ロンドン経由、ニューデリー行きのヴァージン・アトランティック航空に乗り込む。ロンドンまで約7時間。ロンドンからさらに約8時間の旅だ。ロンドンのヒースロー空港で乗り換えるときから、すでにインドが始まっていた。サリーを着た女性たちや、ターバンを巻いた男性が目に付く。

長旅を経て、デリー空港に無事着陸。ガランと簡素な空港に降り立つと、湿気を帯びた暑い空気と、独特の匂いに包まれる。A男の父親ロメイシュと継母ウマ(A男の実母は他界)の満面の笑顔に迎えられ、駐車場に向かう。

ウマとわたしは今回初対面だが、ロメイシュとは、アメリカで何度か会っていた。A男の姉夫婦と5人でイエローストーン国立公園へ旅行に行ったこともある。

A男の実家のドライバーが手際よく荷物を車に積み込み、わたしたちは家へ向かう。

どの国を訪れるときもそうだが、空港から目的地までの道のりは、頭と心をその国の環境の中にとけ溶け込ませるための大切な助走の時間となる。車窓からの風景をしっかりと眺めながら車に揺られる。

想像していた以上に、牛が多い。道路脇だけでなく、中央分離帯にもいる。呑気に道路を横切る牛もいる。道路に車線は引かれているものの、従って走る車はなく、滅茶苦茶なドライブマナー。むやみにホーンを鳴らすからうるさい。

A男の家はデリーの中心地から南の地区にあった。中流階級以上の人たちが多い地区と本で読んだが、時折、バラックのような家並みが現れる。それにしても道を行く人たちの多いこと。

交差点で車が止まると、老若男女を問わぬ物売りたちがわっと道脇から現れる。雑誌を抱える少年、窓を拭いて駄賃をもらおうとする少女、風船や玩具を抱えた青年……。汚れた顔をして眠る赤ん坊を抱え、お金を乞う若い母親もいる。

車窓の内側は、エアーコンディションのきいた快適な空気が流れ、その外側には、埃っぽい暑い空気と、貧しい人々の息吹が満ちている。

彼の家に到着。2階の玄関に至る大理石の階段の両脇には、バラとマリーゴールドの花びらが施されている。遠路はるばる訪れたわたしたちを歓迎する証のようだ。

玄関では、同居しているA男の父方の祖母が出迎えてくれた。手には花びらと、お菓子と、そして水が入った器を載せたお盆を持っている。わたしたちの頭上に花びらを散らし、お菓子を口に入れ、「歓待の儀式」をしてくれる。

わたしたちの部屋がある3階に通され、荷物をほどいて一息ついたところで、昼食。召使い(servant)たちが用意してくれるカレー(煮込み料理)が食卓に並ぶ。レストランで食べるインド料理より、いずれもあっさりしていてお腹にやさしい味付けだ。

食後に出されたマンゴーのおいしいこと。インドでは「夏は暑くて辛い季節だが、マンゴーが食べられる」という言い回しがあるくらい、この季節はおいしいマンゴーが食べられるのだ。濃厚な甘さのマンゴーをたっぷり食べて、一段落。

わたしとA男は、ウマに連れられて街へ行く。結婚式の衣装を縫製するためだ。わたしが着るサリーは、結婚式用と披露宴用が準備されていたが、いずれもブラウスだけは採寸して身体にぴったりと合ったものを着なければならない。

A男はインド人男性の国民服とも言える、「クルタ・パジャーマ」を採寸に行く。クルタとは、ゆとりのある丈の長いシャツ、パジャーマとはコットン製のズボンのことで、ウエストは紐で調整する。

普段着のクルタ・パジャーマは上下共にコットンだが、結婚式の衣装はクルタのみシルク製である。それも、光沢のあるシルクではなく、荒い、素のままのシルクだ。

採寸を終え、商店街をぶらぶらと歩き、わたしは衣料品店で肌触りのよいコットンの寝間着などを購入する。

それにしても、この喧噪……。人、牛、犬、時々ラクダ。埃っぽい街……。

途中、A男が、インド版ファストフード店の前で立ち止まり、おやつが食べたいという。サモサという揚げ菓子や、彼の好物であるグラブ・ジャモンという丸いスポンジケーキのようなものをシロップに漬けた甘い菓子など……。

蒸し暑い中、こてこてに甘いお菓子を食べ、べったりとした気分で車に乗り込む。

その後、デリーの街を車で巡り、軽い「市内観光」をして帰宅。夕食の席で、おばあちゃんがわたしの首に、金の首飾りをつけてくれた。自分が嫁入りの時に身につけていた物で、わたしにくれるのだという。

おばあちゃんはヒンディー語しかしゃべれないので、わたしと二人きりでは会話ができないのだが、なんとか身振り手振りでもコミュニケーションがとれる。なんでも、この家の隣には、インド人に嫁いだ日本人の女性が住んでいて、おばあちゃんは彼女と仲がよかったのだという。彼女は、夫が他界した後、日本に帰国したが、いまでも息子たち一家は隣に住んでいるという。

ロメイシュとウマは5年前に出会い、去年再婚し、ウマはこの家の4階で暮らすようになった。しかしおばあちゃんとウマの折り合いが悪いことは、初日にしてすぐに察せられ、「どこの国も同じね」と思う。


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ここがわたしたちに与えられたフロア。普段は誰も使っていないのでガランとしている。このフロアにベッドルームがある。大理石のフロアが涼しげ。に見えるが、実際は、蒸し暑いのなんの。冷房を入れずにはいられない。

デリーに到着するやいなや、「婚礼衣装」の採寸のため、街へ出る。この小さなオート三輪車は「オートリキシャ」と呼ばれるタクシー。町中を縦横無尽に走っている。

商店街の一画にある衣料品店で、衣装の採寸。大急ぎ(2日)で仕上げてもらう。

採寸の帰り道、A男が吸い込まれるように入っていったペイストリーショップ。塩味系のスナックからべったり甘そうなお菓子まで、さまざまな食べ物が並んでいる。

興味深くはあるけれど、猛烈に蒸し暑い中、食欲をそそられることもなく、さまざまな菓子類を眺める。それにしても、このべたつく暑さは尋常ならない。

商店街の一画で花を売る人。みんなのんびり気ままに商売をしているように見える。

これはかき氷の屋台。大きな氷をカンナのようなもので削っている。

冷たい氷はおいしそうだが、これを食べてはお腹を壊すこと間違いなしだ。

インドはヒンディー語だけでなく、英語を話す人が多数なので、街の看板も英語が記されたものが多い。

インドの夏はマンゴーの季節。ともかく、暑くても、マンゴーがおいしいのだから辛抱せよ、ということらしい。

マンゴーにも種類がさまざまあり、A男が好きなのは小振りで甘みと香りがぎゅっと凝縮された黄色いマンゴーらしい。

採寸の帰りにちょっと観光。背後に見えている巨大な建物は「ロータス・テンプル」という寺院で、宗教を問わず、どんな人もここで祈りを捧げることができる場所らしい。

ちなみにA男の名前、ARVINDは、ヒンディー語で「ロータス」(蓮華)を意味する。もっとも、父ロメイシュは、「太陽」を意味すると思いこんで命名したらしく、彼が高校の授業で先生に指摘されるまで誰も気づかなかったとか。実に呑気な家系である。

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